軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

31 ずっとあなたと……

テオドール様の落ち着いた声は、私の全てを受け入れてくれているようです。

「シンシア様、こちらに」

テオドール様に手を引かれて、向かった先は食堂です。

「お食事がまだでしょう?」

「あっ、そうですね」

悩んでいたせいで、まだ食事をしていませんでした。

「すぐに運びます」

そう言ったテオドール様は、なぜか自ら食事を運んでくれました。

「どうぞ、お口に合えばいいのですが」

「えっと……?」

不思議に思いながらも、私は目の前に置かれたパイシチューを見ました。

サクサクのパイに、スプーンで穴を開けると、中にはお肉がゴロゴロと入ったシチューが出てきます。パイシチュー、大好きなんですよね。

パクパク食べる私を、テオドール様がジッと見つめています。

「シンシア様、美味しいですか?」

「はい、とっても! ベイリー公爵家の料理人は、本当に腕がいいですね」

そのとたんに、テオドール様が満面の笑みを浮かべました。

「よかった。実はそれ、私が作ったんです」

「え?」

私は美味しいパイシチューとテオドール様を交互に見ます。

「こ、この美味しいパイシチューが、テオドール様の手作り⁉」

見た目から味まで、どれをとってもベイリー公爵家の料理人と違いがありません。驚愕している私に、テオドール様は「デザートもあるんです」と微笑みます。

「デ、デザート?」

テオドール様は美しいケーキを運んで来ました。それは、いつかのカフェデートで食べたような洗練されたケーキで……。

私はおそるおそるテオドール様に尋ねます。

「もしかして、このケーキも……」

「はい、私の手作りです」

こんなケーキを作れたら、今すぐにでも王室料理人になれちゃうじゃないですか‼

念のために「元から料理がお好きだったんですか?」と尋ねると「最近、始めたばかりです」とのこと。ベイリー公爵家の料理人たちが、心を折られていなければいいのですが……。

私の心配をよそに、テオドール様は頬を赤く染めています。

「私の誕生日のときに、シンシア様から手作りのマフラーをいただき、とても嬉しかったので私も手作りに挑戦してみました」

私は、ひとまず心を落ち着けるためにフゥと息を吐きました。

優秀な人は、料理まで完璧にできるということですね。でも、私はちゃんと分かっていますよ。

「テオドール様、美味しい料理をありがとうございます。記念に握手していただけますか?」

「はい?」

不思議そうに出されたテオドール様の手から、私は手袋をはぎ取ります。

「ああっ⁉」

すぐに手を隠されてしまいましたが、私には包帯塗れになっているテオドール様の手がしっかりと見えました。最近ずっと手袋をしているから、おかしいと思っていたんですよね。

「料理のために、ケガまでして……」

そう、テオドール様はなんでもできる天才ではありません。できるようになるまで、努力し続けられる天才なのです。だから、こんなに素晴らしい料理を作れるのは、彼が努力をした結果です。

「素敵なプレゼントをありがとうございます。ケーキは一緒に食べましょうね」

「はい」

私の側にいてくれるのは、とても優秀で誠実な人です。

そんなテオドール様となら、これから何が起こっても、二人で乗り越えていけることでしょう。

王都に残ることを決め、素敵な誕生日を迎えたこの日。

私は守ってくれる場所から飛び立ち、これからは人々を守る側の存在になる決心をしたのでした。

*

テオドール様と私の結婚式は、王家主催でそれはもう盛大に行われました。このことで、王家とバルゴアが友好であることを示せたと思います。

その後、テオドール様がこの国一番の愛妻家であると社交界中に知られるまで、それほど時間はかかりませんでした。

テオドール様を見習ってか、貴族達の間でも妻を大切にする人たちが増えていったように思います。

そんな愛情深いテオドール様となら、お互いを尊重し支え合い、そして、いつまでも愛し合える素敵な夫婦でいられることでしょう。

【WEB版】おわり