軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

エピローグ 春の陽だまり

ベリンダとの因縁、物語で私が殺されたであろう日から一年が経った。

春の陽光が柔らかに周囲を照らし、見渡せば美しく咲いた花で溢れている。さわさわと梢が擦れる音が穏やかな日常に花を添える。

さぁ、と吹く風に乗り、花木の花びらが散っていく。

「フェリ。綺麗だ」

後から降りしきる花びらに目を細め、純白のドレスに身を包んだ私はタキシード姿のデュークを見上げた。

今日は私たちの結婚式。

プロポーズを受け了承し、それからかなり話し合いを繰り返して、まずは内々で式を挙げることになった。

婚姻の書類を出し正式に夫婦となるが、しばらくは花嫁修業もかねて私が行き来し、本格的に一緒に暮らすのは当初の予定通り学園を卒業してからとなる。

リーンゴーンと教会の鐘が鳴り、誓いを終えた私たちは先に出た招待客が待つ庭園へと移動した。

私の左薬指には、以前贈られた指輪とピンクローザの指輪があった。

デュークの指輪はリングの裏側に加工したものだが、お揃いとなる。どちらもドミニクが作ってくれたものだ。

セラフィーナに聞いたが、物語のデュークがベリンダに渡した指輪はドミニクが加工したもの。そのため、ベリンダはドミニクを知っており、宝飾品といえばドミニクと名を挙げたようだった。

たとえそれが物語と同じであったとして、ドミニクとの関わり方やデザイン、そこに込めた想いが違うのでもう気にすることはない。

わぁっと拍手とともに出迎えられ、家族、そしてジャクリーンやケネス、クリストファー殿下とテレンス、そしてザカリーにその横にはイレイン王女の姿もあった。

王女を見守るように少し離れた位置には、ユリシーズとセラフィーナが立っている。

ユリシーズには茶髪で傷のある男を取り逃したことを再度謝罪したが、「気にしてくれてたの? フェリスちゃんのおかげで人相もわかったし前進だよ」と朗らかに笑って返された。

妹の形見の手がかりである男に目の前で逃げられて悔しいはずなのに、前向きな姿にピンクローザの件は解決したが、今後も窃盗団の手がかりは探していこうとデュークと話している。

今も笑顔で私たちに手を振ってくれていて、私たちは手を振り返した。

その際に彼の横にいるセラフィーナと視線が合うと、彼女は晴れやかな笑顔で大きな拍手で祝福してくれた。

デュークと見つめ合う。

「フェリシア。愛している」

「私も愛しています。改めて、今日からよろしくお願いします」

今日、私はフェリシア・オルブライトではなく、フェリシア・ウォルフォードとなった。

恥ずかしいのにじわじわと喜び震える心。隠すことなく伝えられる事実に胸がじわりと温かくなり、たくさんの祝福を受けながら私たちは口づけを交わした。

深夜、デュークの温もりを感じ満たされながらもなかなか寝付けずいた私は、そろそろとベッドから下りると窓辺に立った。

「フェリ」

「すみません。起こしました?」

「いや。大丈夫だ」

私が動くとすぐに気づいたデュークが、背後から優しく抱きしめてきた。そっとその温もりに身体を預ける。

転生の謎はわからないままだが物語は無事終焉を迎え、デュークとともに乗り越えることができ、ともに過ごせるだけで心が満たされる。

転生や回帰者は、この世界で生まれた国もばらばらで回帰のパターンもいろいろだと今回知った。もしかしたらほかにもいるのかもしれないし、記憶がないだけという可能性もある。

セラフィーナの話では、ベリンダはセラフィーナと同じ時代で隣に住んでいた人物で、セラフィーナを階段から突き落とし殺した。

あの強烈な性格は転生前かららしく、言及するまでそのことを忘れていたとの話は驚愕とともに妙に納得し、やはり二度と関わるまいと思ったのは言うまでもない。

それにしても、不思議な話である。

ベリンダは転生し一度回帰しどちらの記憶もあり、セラフィーナを殺して二年後同じ場所でベリンダは足を滑らせ、この世界にやってきたらしいとのことだった。

場所が転生に関係し、年月が回帰の回数に関わっているのかもしれないと、あくまで推測だが教えてくれた。

なら、私はその場所で亡くなったのだろうか。もしかしたら、私も回帰もしていて記憶がないだけという可能性もある。

コーディーは回帰者であることはわかっている。セラフィーナのことを知ったからこそ思うことだが、彼は前回という言葉を使っていたので、もしかしたらセラフィーナと同じように何度も巻き戻っていたのではないか。

あくまでどれも可能性だ。

記憶がないことにもどかしい時期もあったけれど、殺された記憶はトラウマでしかないだろうし、わからないからこそ苦悩し、掴んできたものは尊く感じられるものばかりでこれでよかったと今は心から思える。

私も、デュークもたくさん悩み、すれ違い、衝突したからこそ、気づけることもいっぱいあった。

周囲にも目を向けることができ、ジャクリーンたちとも深く知り合え大事にしたいことが増え満たされている。

幸せすぎてじっとしていられず、私は左手を掲げまじまじと薬指を見た。

そこには二つの指輪がきらりと光る。よくよく覗き込むと、ピンクローザの指輪には星のような模様が浮かんでいる。

「デューク様、見てください」

デュークも指輪を覗き込み、ほぉっと声を上げた。

「美しいな」

「ええ。ほかの宝石との違いは何かと考えていたのですが、もしかしたら月の光に照らされこのように光る宝石が願いを叶える奇跡の石になるのかもしれませんね」

効力を失ってしまったが、光を浴びて輝くなんてそれだけでも魅力的な宝石である。

「かも知れないな。俺のも光っている」

デュークは指輪を取ると、裏に光が当たるように照らした。一緒になって覗き込むと、そちらもきらりと眩しいくらい光を放っている。

月の光だけで説明がつかない輝き。本当に愛の宝石だと、二人で持っていたら最強なのじゃないかとついそんなことを夢想してしまう。

でも、そう夢見るくらいいいじゃないかと思う。

だって、私はものすごく幸せだ。ここが物語の終焉ならば、間違いなくハッピーエンドだ。

私たちは視線を合わせ、そっと触れるだけの口づけを交わす。

結婚式、一緒に過ごす初めての夜。それぞれ違ったデュークとのキスを思い出し、熱くなる胸に視界が緩む。

「この世界で、デューク様に出会えて本当によかった」

好きに生きると決め、好きな人と過ごせる幸福感に浸り、デュークに抱きしめられながら私は指輪を眺めた。