軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

出会い編 無口な婚約者 後編

六歳になった。

今日は歩けばふわふわっと弾むレースのついたドレスを着て、王城で開催されるお茶会に参加していた。

髪もいつもより時間をかけておめかしをしてもらって、家族に可愛い可愛いと褒めちぎられてきたので少しばかり気持ちは浮ついている。

同じ年頃の子供が集められたので、主催者側の第一王子のクリストファー殿下の側近候補と婚約者候補を見定めるつもりでもあるようだった。

私は侯爵家の娘なので、その候補に入る可能性はある。それについては正直あまりよくわからなかった。

ものすごくなりたいとも思わないし、選ばれたら応じて動いていくしかない。とにかく家族に迷惑をかけなければそれでいいと思っていた。

ただ、ちょっともし選ばれたらと考えるとデュークの顔がちらついて胸がきゅっとなってしまう。この話が出てから、デュークのことを目で追うことが増えていた。

そのデュークだが、殿下の側近候補としてすでに名が挙がっている。身分や能力的にもほぼ決定だろう。

なんだか地に足が着かず、それでもおかしなところは見せてはならないと緊張しながら殿下に挨拶を終え自由時間となった。

大人たちは少し離れたところにいるため、自分で交友関係を築いていかなければいけない。

初対面の人に気安く話しかけられるタイプではないので、こうなると緊張する。さてどうしようかと周囲を見回すと、一人の男の子と目が合った。

「ねえ、名前なんて言うの? 僕はベン・ホイストン。何か食べる? 食べたいものがあったら取ってくるよ?」

「私はフェリシア・オルブライトです。今はお腹が空いていないので大丈夫です」

「ああ。侯爵家のお姫様。噂通り可愛いね。なら、あっちにバラ園があって今日は解放されているから一緒に見に行く?」

流れるように次の提案をしてくるベンは、にこっと人好きのする笑みを浮かべた。

悪い人ではないとは思うけれど、初対面でぐいぐいこられると私は逆に困ってしまう。

「えっと……」

それとなんとなく会話が楽しめなそうというか、一緒に行くことに惹かれない。

かといって一人だったから声をかけてくれたのだろうと思うと、断るべきか誘いに乗るべきかとにこにこと笑みを浮かべるベンを見た。

勝手に合わない人と決めつける前に一歩踏み出してから判断してもいいのではないかと、交流が目的の場所ということもあって迷ってしまう。

どうしようかと視線を彷徨わせると、デュークが自分たちのところにやってきた。

「フェリシア」

会場に入った時に、先に着いていたデュークと視線が合い互いに小さく礼をしたのみで話すことはなかった。

デュークは大勢に囲まれていたし、側近候補としての動きもあるだろうと邪魔をしてはいけないとあえて近づかなかった。

それがデュークから来てくれた。それだけで私の心は弾む。

「デューク様」

「捜した。こっちおいで」

手を差し伸べられて、そっとその手を取った。

初めて手を繋いだ。剣を持つ手だからか私の手より少しがさついているような気がするが、それがさらに安心感を覚え私はその手をきゅっと握った。

どうやら自分で思ったよりも緊張しており、積極的に話しかけられて不安だったようだ。

それからベンにお礼と謝罪を告げて、二人して会場から少し離れたところに向かった。

まだ手は繋がれていて、いつまで繋いでいるのかとドキドキしながらついていく。

「ここならゆっくりできる」

「はい」

バラ園の目立たない場所にあるベンチにハンカチを敷いたデュークに座るように促され、デュークはその横に座った。

それきりいつものように静かな時間が流れ、目の前の景色を眺める。

ふわりと何度か風が吹きドレスのレースが揺れる。何度目かの風に乗って香る花の匂いに目を細め、私はデュークに話しかけた。

「ここにはなぜ来られたのですか?」

「フェリシアはあまり乗り気ではないようだったから」

聞かないと自分から言ってくれないけれど、気にかけてくれていたとわかる言葉。

あんなに人に囲まれていたのに私を見てくれていたようだ。それが嬉しくて私は頬を緩めるのが止められない。

「ありがとうございます」

ここに来るまでの不安と社交的になれない自分の至らない部分に落ち込む気持ちが、デュークが声をかけてくれたというだけで霧散する。

言葉は圧倒的に少ないけれど、私のことを思って声をかけてくれた。今も一人にすることなくそばにいてくれる。

会ってはいてもそんなに多くを話すわけではない。どちらかというと見ている時間のほうが長い。

それでも、家族ぐるみで過ごすようになってデュークの不器用さとまっすぐさに好感を持った。

デュークは私のほうを向くとじっと見つめ、一度口を開きまた閉じた。

「デューク様?」

何か言いたいことがあるのかと首を傾げて促すと、デュークは会場があるほうへと視線をやり私を見た。

「義務以外で望まないことをやる必要はない、と思う」

「どうして……」

「笑顔がぎこちなかった」

「そんなつもりはなかったのですが」

対応に困ったけれど、それは私が未熟だったからだ。

情けないなと眉尻を下げると、じっと私を見ていたデュークは淡々と告げた。

「フェリシアが笑っているとそれだけで嬉しい。カーティスも俺もいつもフェリシアが楽しそうに見ているから頑張れる」

私の小さな葛藤をわかってくれての言葉なのかまではわからない。

だけど、兄たちやデュークを見ていると自分だけのんびりしすぎているのではないだろうかと思うことはあって、何かしなければいけないとどこかで思っていた。

デュークの言葉は、私のペースで私ができることをしていけばいいのだと気持ちを軽くした。

ああ、好きなのだなと思った瞬間だった。

何気ない言葉にふわふわと気持ちが昂る。

眩しいなと見てきた人に言われたことが胸に響く。

それからも相変わらず口数は少ないけれど、前よりはデュークの中で気にかけてくれているのだと思える視線や行動が嬉しかった。

ザカリーは同じ年の男の子とつるむようになったので滅多に来なくなったが、デュークはカーティスに会いによく侯爵家に来るので顔を合わせる頻度は変らないし、彼らの訓練を見るのは楽しかった。

何より、好きな人のそばは見ているだけで満たされて、少しでも何か自分にできることがあるのなら力になりたい。

婚約者になったことでその思いが強くなり、私はデュークの姿を見るだけで満たされた。

まさか十年後、『死に役』というふざけた設定のせいでこの恋心に苦しめられるとは考えもしなかった。