軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

南門前の相談机

翌朝、南門詰所の前には、小さな机が置かれていた。

机は詰所の壁に寄せられていて、門へ向かう人の邪魔にはならない。

けれど、外へ出る前に少し足を止めれば、見える場所だった。

リクは机の上に、清書した『外出前確認地図』を置いた。

その横に、準備相談記録の帳面。

さらに、小分けセットを入れた布袋を3つ並べる。

ハクトは机の横に立ち、南門前の人の流れを見た。

外へ出る人、戻ってくる人、衛兵に止められて荷物を見せる人。

依頼札を握ったまま、門の前で少し迷っている人。

昨日まで、自分たちは確認される側だった。

今日は、外へ出る前にどこで止まるのかを見る側になる。

「大きく声を出して売る感じじゃないんですね。」

「うん、困って止まった人に見せるくらいでいいと思う!」

「こちらから呼び込みすぎると、売りたいみたいに見えますね。」

「そう。今日は売る日じゃなくて、相談を見る日。」

リクは帳面の最初のページを開いた。

『準備相談記録』

『相談相手』

『止まったところ』

『すすめたもの』

『理由』

『案内した場所』

『結果』

その文字を確認していると、詰所の扉が開いた。

ダレスが出てくる。

後ろには、ガルドもいた。

ダレスは机の上を一通り見た。

「始める前に確認する。」

「はい。」

「売りつけるな。」

「はい。」

「わからないことを答えるな。」

「はい。」

「記録を残せ。」

「はい。」

リクが一つずつ返事をする。

ハクトも横でうなずいた。

ガルドは小分けセットを見て、短く言った。

「数はそれだけか。」

「はい。3つだけです。」

「それでいい。多すぎると売る方に意識が寄る。」

「はい!」

リクは小分けセットを机の端へ寄せた。

すぐ手に取れる場所ではなく、必要になった時だけ出せる場所だ。

ダレスは確認地図を見た。

「外の地図は載せていないな。」

「はい。外へ出るための地図ではなく、外へ出る前に街で確認するための地図です。」

「いい。」

それだけ言って、ダレスは詰所の入口近くに立った。

完全に任せるわけではない。

けれど、全部を口出しするつもりもないようだった。

リクは机の端に、小さな木札を置いた。

『準備相談:2リル』

『店や詰所への案内込み:3リルまで』

『小分けセット:5リル』

料金は大きく書きすぎない。

けれど、見ればわかる場所に置く。

「先に見えるようにしておくんですね。」

「うん。後から言うと、売りつけたみたいになるからね。」

「相談だけでも、お金がかかることは先に伝える。」

「払うかどうかを決めるのも、外へ出る前の確認だと思う。」

ハクトは木札を見た。

値段を隠さない。

何にお金がかかるのかを、先に出しておく。

それも、戻れる形を残すことに似ていた。

しばらくして、最初に足を止めたのは、大きな袋を背負った新しい冒険者だった。

片手に剣を持ち、腰にも小袋をいくつも下げている。

動こうとするたびに、袋の中で何かが鳴った。

衛兵に荷物を見せた後、その冒険者は門の前で袋を背負い直した、少しふらつく。

それでも、そのまま外へ出ようとする。

リクが小さくハクトを見る。

ハクトはうなずいた。

「すみません。」

リクが声をかけると、冒険者は振り向いた。

「何?」

「外へ出る前の準備確認をしています。荷物の確認だけでもできます。」

「荷物?」

「はい。相談だけなら、そこに書いてある通り2リルです。」

冒険者は木札を見た。

少し迷った後、袋を背負い直す。

「2リルなら、まあ。」

リクは地図の確認欄を指した。

『荷物を動ける量にした』

「ここです。外へ出る時、荷物が多いと戻る時に動きにくくなることがあります。」

「でも、いろいろ必要だろ?食料、予備の布、空き袋、拾った素材を入れる袋、予備の短剣……。」

「少し歩いてみてもらっていいですか?」

ハクトがそう言うと、冒険者は少し不思議そうにした。

「ここで?」

「はい。門の外ではなく、ここで。」

冒険者は机の前を数歩歩いた。

歩けないわけではない。

けれど、向きを変える時に袋が遅れる。

腰の小袋が揺れて、剣の柄に当たった。

ハクトはその動きを見てから言った。

「歩くことはできます。でも、急に戻る時は、少し邪魔になると思います。」

「急に戻る時?」

「はい。外へ出るなら、進む時より戻る時の方が急ぐかもしれません。」

冒険者は自分の袋を見た。

少しだけ顔つきが変わる。

「……確かに、走りにくいかも。」

リクは地図の別の場所を指した。

「初心者宿に預けられるものがあるなら、分けた方がいいと思います。」

「全部持っていく必要はないってことか。」

「はい。持っている量と、動ける量は同じではないので。」

冒険者は2リルを机に置いた。

「助かった。ちょっと戻って減らしてくる。」

「ありがとうございます。」

リクは硬貨を受け取り、帳面に記録した。

『相談1』

『止まったところ:荷物』

『すすめたもの:宿に預ける、量を減らす』

『理由:戻る時に動きにくい』

『案内した場所:初心者宿』

『相談料:2リル』

ハクトも自分の地図の端に書いた。

『門前で荷物確認』

『動ける量は、歩いてみるとわかる』

売ったものはない。

それでも、相談にはなった。

リクは小さく息を吐いた。

「売らなくても、記録になるね!」

「はい。むしろ、売らない方が見えることもありそうです。」

次に来たのは、2人組だった。

片方は杖を持ち、もう片方は短い槍を持っている。

2人とも、薬師の店の方角と門を何度も見比べていた。

リクが声をかける。

「準備のことで迷っていますか?」

「あ、はい。薬って、買った方がいいのかなって。」

「でも高いし、手当て布だけでいいのかもわからなくて。」

リクは机の端の木札を指した。

「相談だけなら2リルです。店への案内までなら3リルまでになります。」

「じゃあ、相談してもいいですか?」

リクはうなずき、確認欄を指す。

『手当ての用意を確認した』

「薬が必要かどうかは、こちらでは決めません。」

「え。」

「でも、薬師の店で相談する場所は案内できます。怪我の種類や、行く場所によって違うと思うので。」

ハクトは横から、薬師の店の位置を地図で示した。

「市場通りの近くです。ここからなら、南門に戻る道もわかりやすいです。」

「行ってから戻ってくる時間、ありますか?」

「今ならあります。ただ、戻る時刻を先に決めておいた方がいいと思います。」

杖を持つ方が、ほっとしたようにうなずいた。

「じゃあ、先に薬師の店へ行きます。」

「手当て布だけでいいか、聞いてきます。」

リクは相談料2リルを受け取り、記録した。

『相談2』

『止まったところ:手当ての用意』

『すすめたもの:薬師へ相談』

『理由:薬の必要判断はできない』

『案内した場所:薬師ラナ』

『結果:未確認』

『相談料:2リル』

ハクトは『結果:未確認』の文字を見た。

昨日決めた通り、相談はその場で終わらない。

戻ってきた時に、どうなったかを聞けるかもしれない。

3組目は、少し違っていた。

革鎧を着た少年が、小分けセットを見てすぐに言った。

「それ、ください。」

「小分けセットですか?」

「便利そうだから。」

リクはすぐには手に取らなかった。

「何に使う予定ですか?」

「え、何か分けるやつだろ。素材とか、薬とか。」

「今、何を持っていますか?」

「手当て布と、空き袋と、携帯食。あと、採取用の小瓶を買うか迷ってる。」

リクは小分けセットを見てから、確認地図を相手に向けた。

「先に、持っているものを分ける必要があるか見てもいいですか?」

「買うだけじゃだめなのか?」

「買っても、使わないなら荷物になります。」

少年は少し目を丸くした。

けれど、怒ったわけではなさそうだった。

「じゃあ、見て。」

リクは相談記録を開き、ハクトを見る。

「ハクト、どこを見た方がいいと思う?」

「手当て布と採取物が一緒になるかどうか、だと思います。」

少年は小袋を開いた。

中には、手当て布と携帯食が入っている。

空き袋はひとつだけ。

採取物を入れるなら、手当て布と同じ袋に入ることになる。

ハクトは少し考えてから言った。

「手当て布は、汚れたものと分けた方がいいと思います。」

「じゃあ、小分けセット、あった方がいい?」

「採取もするなら、あった方が整理しやすいと思います。」

リクはそこで、ようやく小分けセットをひとつ出した。

それから木札を指で示す。

「小分けセットは5リルです。相談料は2リル。合わせて7リルになります。」

「いいよ。買う。」

少年は7リルを出した。

リクは受け取りながら、帳面に分けて書く。

『相談3』

『止まったところ:持ち物の分け方』

『すすめたもの:小分けセット1つ』

『理由:手当て布と採取物を分けるため』

『相談料:2リル』

『小分けセット販売:5リル』

『利益:2リル』

少年は小分けセットを受け取ると、少し嬉しそうに中身を見た。

「なんとなく買うより、使い道わかってからの方がいいな。」

「はい。その方が、たぶん荷物になりにくいです。」

「ありがと。」

少年は小分けセットを荷物にしまい、門の方へ歩いていった。

リクはその背中を見送ってから、小さく息を吐いた。

「売れたね!」

「はい。」

「でも、先に聞いてよかった。」

「必要な理由を書けましたね。」

「うんっ!」

その後も、相談は少しずつ続いた。

薬師の店とセイルの店のどちらへ行けばいいかわからない人。

荷物袋の中で、携帯食と手当て布が一緒になっていた人。

戻る時刻を決めずに、門の外へ出ようとしていた人。

道具を買っただけで、どこに入れたか覚えていなかった人。

全部を長く聞くわけではない。

けれど、リクは一つずつ、止まったところを書いた。

ハクトは、必要な時だけ地図を指した。

薬師の店へ行く人には、市場通りまでの戻りやすい道を示した。

セイルの店へ行く人には、南門へ戻るならどの角を目印にするかを伝えた。

わからないことは、詰所や店へ回した。

『相談4:薬師と道具屋の行き先確認。案内込み3リル』

『相談5:荷物の分け方確認。相談料2リル』

『相談6:戻る時刻の確認。相談料2リル』

『相談7:小分けセット1つ販売。相談料2リル、利益2リル』

相談が途切れかけた頃、ひとりの新しい冒険者が机の前で足を止めた。

腰に短い剣を下げた男の子だった。

手には、薄い布と小さな木札を持っている。

「あの、これって、どっちを買えばいいんですか?」

リクはすぐに答えず、男の子の手元を見た。

「目印布と道標札ですか?」

「はい。どっちも目印になるって聞いたんですけど、違いがよくわからなくて。」

ハクトは、その言葉で少しだけ背筋を伸ばした。

目印布と道標札。

似ているけれど、同じではない。

前に自分たちも迷った道具だ。

リクは帳面を開いた。

「何に使う予定ですか?」

「南門の外に出るんです。そんなに遠くまでは行かないけど、戻る時の目印があった方がいいかなって。」

「残す目印ですか? それとも、帰りに見えればいい目印ですか?」

「えっと……。」

男の子はそこで止まった。

買うものではなく、使い方で止まっている。

リクはハクトを見た。

「ハクト、どう説明したらいいかな。」

ハクトは少し考えてから、机の上の確認地図を男の子に向けた。

「道標札は、基準にする場所へ置くものだと思います。」

「基準?」

「はい。門の外や、何度も戻る場所です。そこに残っていると、次も同じ場所を確認できます。」

ハクトは地図の南門の位置を指した。

「でも、目印布は一時的に使うものです。帰りに見える場所につけて、戻る時に回収することもあります。」

「じゃあ、布は残さない?」

「残す時もあると思います。でも、奥へ進む印に見える場所にはつけない方がいいです。」

「奥へ進む印……。」

「はい。戻るための印なのに、前へ進む印に見えると危ないので。」

男の子は、手元の布を見た。

その顔は、少し真剣になっていた。

「じゃあ、南門の外で、戻る場所を決めるなら道標札?」

「基準にするなら、そうだと思います。ただ、どこに置いていいかは詰所で確認した方がいいです。」

「布は?」

「少し先で、帰りに見える場所へ一時的に使うなら布です。でも、帰る時に回収するかどうかも考えた方がいいです。」

リクが帳面に書きながら続けた。

「セイルさんの店で、どちらを何枚持つか相談できます。ここからなら、広い道を使って戻れるので、案内込みで3リルです。」

「お願いします。」

男の子は3リルを机に置いた。

「買う前に聞けてよかったです。どっちも同じだと思ってました。」

「同じ目印でも、残すものと、一時的に使うものがあります。」

「はい。セイルさんの店で聞いてみます。」

ハクトは地図の上で、南門詰所からセイルの店までの道を示した。

細い近道は使わない。

目印になる角を2つ伝え、帰りは同じ道を戻るように話す。

男の子は何度かうなずいてから、市場通りの方へ向かった。

リクは帳面に記録した。

『相談8:目印布と道標札の使い分け確認』

『止まったところ:目印の種類』

『すすめたもの:セイルの店で枚数相談』

『理由:残す目印と一時的な目印が違う』

『案内込み:3リル』

ハクトも地図の端に書いた。

『目印布:一時的な帰路目印』

『道標札:基準地点』

『奥へ進む印にしない』

相談の数が増えるほど、リクの声は少し落ち着いていった。

ハクトも、どこを見れば相手が止まっているのか、少しだけわかるようになってきた。

買う前に止まる人、持った後で止まる人、外へ出る直前に止まる人、戻る時刻を聞かれて、初めて止まる人。

止まり方は、それぞれ違う。

だから、記録も同じにはならなかった。

ハクトは南門前の人の流れを見た。

門の前で止まる人、荷物の前で止まる人、薬の値段で止まる人、道具の意味がわからず止まる人。

止まることは、悪いことではない。

止まれるなら、まだ戻れる。

その時、視界の端に小さな表示が浮かんだ。

『経路記録に相談地点が追加されました』

ハクトは少しだけ目を見開いた。

道ではない。

けれど、ここも記録される場所なのかもしれない。

南門前。

外へ出る前に、人が止まれる場所。

「表示ですか?」

「はい。経路記録に、相談地点が追加されました。」

「相談地点……。」

「ここも、道の途中なんだと思います。」

「外へ出る前の道?」

「はい、たぶん。」

リクは机の上の確認地図を見た。

紙の上の道、街の中の道、南門前で止まる場所。

それらが少しずつつながっていく。

昼前になると、ダレスが詰所から出てきた。

「今日はここまでだ。」

「もう終わりですか?」

「最初の試験運用としては十分だ。数を増やすより、記録を見せろ。」

「はい。」

リクはすぐに帳面をまとめた。

相談料と小分けセットの利益を分けて書く。

『相談料:18リル』

『小分けセット利益:4リル』

『共同資金へ:22リル』

小分けセットの売上は、材料分を別に戻す。

共同資金に入れるのは、相談料と利益だけだ。

『共同資金:10リル → 32リル』

「思ったより、増えたね!」

「はい。でも、相談も増えました。」

「うん。売れたから増えたというより、ちゃんと止まったところを聞けたから増えた感じがする!」

リクは帳面を閉じ、ダレスに差し出した。

ダレスは立ったまま、記録をめくる。

ガルドも横からのぞき込んだ。

「売上は多くないな。」

「はい。」

「だが、理由は書いてある。」

ダレスは相談3の欄で指を止めた。

「小分けセットを売る前に、何に使うか聞いたのか。」

「はい。なんとなく買うなら、荷物になると思ったので。」

「いい。」

短い言葉だった。

けれど、リクの顔が少し明るくなる。

ダレスは続けて、相談1と相談2を見る。

「荷物を減らす。薬師へ回す。自分で判断できないことを、店に回した。」

「はい。」

「それでいい。わからないことをわかったふりで答えないなら、使える。」

ダレスは帳面を閉じた。

「試験協力金を出す。」

「ありがとうございます。」

リクが頭を下げる。

ダレスは職員に声をかけ、小袋を受け取った。

それを机の上に置く。

『試験協力金:20リル』

リクはそれを共同資金に入れる前に、ハクトを見た。

「共有資産でいい?」

「はい、2人の仕事なので。」

「うん!」

リクは帳面に書いた。

『共同資金:32リル → 52リル』

数字が大きく増えた。

けれど、ハクトはその数字を見て、すぐに嬉しいとは思わなかった。

重い、そう感じた。

セイルの80リル。

ダレスの20リル。

相談料、小分けセットの利益。

どれも、ただ先へ進むためのお金ではない。

戻るために、使い方を間違えてはいけないお金だ。

ガルドが机に置かれた確認地図を見た。

「明日は、これを持って外へ出るわけじゃない。」

「はい。」

「だが、考え方は持っていけ。使うものを決める。戻る時刻を決める。帰ってから確認する。」

「はい。」

ダレスは南門の方を見た。

「橋と入口周辺の状態は、こちらで確認を進めている。」

「状態はどうですか?」

「最終判断は明朝だ。今日はもう外へ出るな。準備を整えて休め。」

「はい。」

「明朝、南門詰所へ来い。実施するかどうかを伝える。」

ハクトとリクは同時にうなずいた。

「はい。」

「はい!」

ダレスとガルドが詰所へ戻ると、南門前の机だけが残った。

リクは確認地図をたたみ、小分けセットの残りを布袋に戻す。

残りは1つ。

相談記録は8件。

共同資金は52リル。

リクは帳面を見ながら、小さく言った。

「いっぱい増えたね!」

「はい。」

「でも、使い道は考えないと。」

「戻るために使うお金です。」

「うん!」

ハクトは地図の端に書いた。

『南門前相談』

『相談8件』

『共同資金:52リル』

『相談地点:南門詰所前』

『明朝、最終判断』

白い場所へ向かう前に、街の中で止まれる場所ができた。

そこに置かれた小さな机は、外へ出る人を進ませるためだけのものではない。

一度止まり、持ち物を見て、戻る時刻を考えるための場所だった。

明日、橋の先へ行けるかどうかはまだわからない。

けれど、進む前に止まる場所を作れたことは、確かに記録に残った。