作品タイトル不明
第351話:娘さんを・・・
私たちを迎えに来たマーカスたちにはめちゃくちゃ心配され、自分の迂闊さを反省した。
多分、墜落しても死にはしないだろうし、怪我するかも微妙。けれど、心配させるのは控えたい。
『自動防御極』が万能ならこんな心配はいらないのだけど、実はそこまで便利なものでもない。
『自動防御極』は、私に向けられた“攻撃”を防ぐもの。私に何らかの攻撃が差し迫ったとき、意識せずというか、反射的に発動し、魔素でできた膜、というか防御壁?が私への攻撃を防ぐ。
つまり、剣で切りつけられたり、矢を放たれたり、あるいは魔法で攻撃されたりしたときには発動するわけだ。一方で、私を狙った攻撃が外れ、地面を抉り、その際に舞った砂礫が飛んでくる際には、発動しない。普通に石礫が当たる。“極”とはいったい・・・
実験してみてそれが分かった際には、なんとも言えない残念感が漂っていた。なんとなく、発動の有無の違い、というか条件は分かるけど・・・
とすれば、墜落した場合にもおそらく発動しない。というか、1メートルほどの高さで試してみた際には発動しなかった。
高所から突き落とされた場合にどうかは不明だが、少なくとも自爆し吹き飛ばされた際には発動しないだろう。
・・・なんとも微妙なスキルだろうか。
『自動防御』の残念さを考えていると、あっという間にベッシュ砦に到着した。
気づけばもう夜が明けている。
「ありがとうマーカス。研究所に来てくれたみんなも労ってあげて。それから、よく休むようにも」
「承知しました。コトハ様もどうかゆっくりとお休みください」
「うん、分かった。ホムラ、行こ」
「はい」
♢ ♢ ♢
ベッシュ砦を攻略し、続けて研究所を消滅させてから3日が経過した。
この間、一度領都に戻って作戦の成功を報告したり、諸々をレーノたちと相談したり、消し飛ばした研究所跡を確認したり、騎士団と一緒に周辺の調査をしたりしていた。
そして今日は、
「申し上げます。輸送任務に従事しております飛空団、間もなく王都より到着いたします」
先行した騎士からの報告。
数分後、「飛空団」、5騎の飛竜車が着陸した。
飛竜車は、「飛空団」が使う車両、あるいは車両を抱えた『赤竜』を合わせた呼称だ。
先頭の飛竜車からアーロンが降りてきた。
ベッシュ砦を制圧したこと、引き渡すから部隊を派遣してほしいことを王宮に伝える伝令は、アーロンに任せた。うちの騎士団長だしね。
そして後ろの飛竜車からは、続々と騎士?兵士?が降りてくる。
この区別がよく分かっていない。騎士の方が実力も地位も上なことは分かっているのだけれども・・・。うちではみんな騎士だし。
降りてきた集団の先頭には、2人のこれぞ武人といった感じの男性がいる。
アーロンが王都を行き来するだけなら、飛竜車は1騎でいい。
それが、わざわざ領都から追加で飛竜車を呼び寄せてまで5騎で向かわせたのは、彼らを連れてくるためだ。
「久しぶり、ギブスさん」
「ご無沙汰しております、クルセイル大公殿下、大公弟殿下」
そう言って、私とカイトに頭を下げるのは、サイル伯爵ギブスさん、サーシャのお父さんだ。
そしてその後ろにいるのが、
「あなたがバロナム伯爵かな?」
「はい。お初にお目にかかります、陛下より伯爵位を賜っております、レストレック・フォン・バロナムと申します。この度は、ベッシュ砦の攻略、お見事でございました。また、愚息がお世話になっておりますこと、遅ればせながら心より御礼申し上げます」
・・・固いなぁ。
「初めまして。私は、コトハ・フォン・マーシャグ・クルセイル大公。こっちが弟のカイト。ヤートンさんのことだけど、後で話があるの。ああ、ギブスさんもサーシャのことで」
「・・・はい? 承知いたしました」
「とりあえず中に入ろうか。一応、応接室っぽい部屋もあるからさ」
「「はい」」
元々はこの砦の指揮官の部屋だったらしい応接室にて、ベッシュ砦を制圧したことや捕虜の情報を伝えた。
そして予定通り研究所を消し飛ばしたことも。
うちの作戦が失敗するとは思っていなかったようで、特に驚かれることもなく。
ただ、研究所跡地を見たら驚かれるんだろうな・・・
いかんせん、デッカいクレーターになってるから。直径200メートルほどで、半球状に地面が抉られ、というか消えている。ほとんど綺麗な半球。
しかも、その最下部からはどうやら水が湧き出ていた。地下水脈を刺激したのか、理由は不明だが、水がたまって池、というより湖になるのも時間の問題かも。水量によっては排水先を考えなければならない。
まあ、今はいいか。
「大方これくらいかなー・・・。ああ、そうだ。研究所でも捕虜にしたのがいたわ。3人」
「捕虜、ですか? 研究所にいる者は全て殺害する予定と伺っておりましたが」
「うん。そのつもりだったし、研究者とかは皆殺しにしたよ。ああ、魔力を吸い取られていたり、実験材料にされかけていた人たちは助けたけど」
「それはそれは」
「うん。でね、予定外に捕虜にしたのがさ、ちょっと訳ありで」
「と、申されますと?」
「皇子なのよ、捕まえたの」
「皇子? まさかダーバルド帝国の!?」
「うん。第9皇子だって。詳細はともかく、間違いないよ。ダーバルド帝国の現皇帝の九男、第9皇子とその取り巻きの貴族子息2人。どっちも家督を継いだりする可能性がない末の子だってさ」
発見の経緯なんかも伝えておく。
ちなみに、この3人が研究所における研究内容をほとんど知らないことは確認済み。
といっても拷問したわけではないので、こちらは確たるものはないけれど、ほとんどが外周警備や施設間の奴隷移送をしていたらしく、召喚された人たちと接触したのが最も研究に触れていた機会だそう。
とはいえ、やっぱり殺しておくべきだったかもしれない、とは繰り返し自問自答してはいる。
私としては殺しても全く困らず、むしろ後顧の憂いなく研究所に関する問題が終わる。
彼らを生かしているのは、この先カーラルド王国がダーバルド帝国に攻め入り、最終的にいずれかの方法で統治するにあたり、ちょうどいい神輿となり得るから。
別に必要もないのに、ハールさんたちに恩を売れると思ったから。
後は、ヒロヤ君やユイハさんを助けたのが、おそらく彼だから。まあ、私がそこまで気にすることもないんだけどさ。
何はともあれ、ここまで生かし、そしてギブスさんたちに伝えた。ここまで来た以上、もはや殺すことはしない。
♢ ♢ ♢
ここに来たのは王宮騎士団及び王国軍の面々らしい。
騎士団長以下、王宮騎士団の主力はジャームル王国との国境沿いに派遣されており、王都に残っている騎士団を、ギブスさんが率いている。
そんな騎士を中心に、うちの騎士団からベッシュ砦の警備などは順々に引き継がれていく。
ギブスさんとバロナム伯爵、レストレックさんは、帝国の皇子に会いたいとのことで、引き合わせておいた。どんな話をしたのかは知らないけど、どのみち引き取ってもらう予定だし、あんまり興味もない。
そんなわけでギブスさんたちが来た翌日、改めてギブスさん、レストレックさんと相対していた。
今は非公式な場ではあるが、私にとっては最も大事な場だ。
「・・・・・・コトハ様、本当にサーシャたちを配下に?」
ギブスさんの困惑した問いかけが静かな部屋に響く。横ではレストレックさんも同様の表情を浮かべている。
昨晩、サーシャはギブスさんと、ヤートンさんはレストレックさんと話したのだろう。
私の後ろには、ニコニコ顔のサーシャとヤートンさんが控えている。
「うん。配下ってほど厳密な予定はないけど。うちで働いてほしいって思ってる。ちゃんとした待遇を保障するし、何かあっても、必ず守るから」
「・・・そう、ですか。・・・・・・娘を、よろしくお願いする」
あっさりと認めたのはギブスさん。
娘至上主義、は言い過ぎかもしれないけど、そっち方面だと思っていたギブスさんがあっさり認めたのはちょっと意外だった。
「・・・いいの?」
「もちろんです。そもそも、娘はヤートン殿に嫁ぐ身。私はヤートン殿、そして横にいるレストレックを信じ、娘を託しました。そして何より、娘を信じておりますれば。娘とコトハ様の仲も承知しておりますので」
「そっか」
「・・・・・・私からも。よろしいでしょうか」
とはいえ、なんだかんだギブスさんが認めてくれるのは織り込み済み。
問題は初対面のレストレックさん。彼が良い人であることは昨日一日で分かったけどね。
とりあえず、頷いて続きを促す。
「正直に申しまして、驚いている、というのがお答えになります。昨日は、宰相閣下へのご恩を忘れたのか、と息子と喧嘩にもなりました」
「まあ、そうだよね。なんかごめん」
「・・・とはいえ、息子の意思を尊重すること、これが正解なのだろうと確信しております」
「・・・・・・えらくあっさりだね」
「むろん、打算もございます。おそれながら、クルセイル大公殿下との繋がりを欲する貴族は多い。私は軍務畑の人間ですし、宮廷政治にはあまり関心はございません。けれど、今、カーラルド王国で最も影響力のある殿下のもとで、息子が働いている、それも直属の配下として。これは我がバロナム伯爵家にとっても歓迎すべき事柄と考えておりますれば」
「ふふっ。結構、ぶっちゃけたね」
「ギブスより、殿下の前では正直になれと」
「コトハでいいよ。ありがとう。ドロドロした貴族社会に首を突っ込む気は毛頭無いけど、ヤートンさんやサーシャの家族が困っているのなら、できることはするよ」
「ありがとうございます」
よし!
あ、そうだ。レーノと決めたことも伝えておこうかな。
あれ? まだヤートンさんにも言ってなかったっけ?
「ああ、そうだ。ヤートンさんは、子爵になるよ」
「「「「えっ?」」」」
あ、ヤートンさんとサーシャも驚いてるから、言ってなかったみたい。