作品タイトル不明
第350話:だっぴ?
「・・・んぅ」
身体が思うように動かない。なんか凄く重い?
それに目を開けているはずなのに視界が開けない。
少しモゾモゾして、ようやく身体が薄い膜のようなもので覆われていることが分かった。いや、膜というよりはもう少し固い? 薄い板のようなものかもしれない。
何にせよ、動けないのは問題。とりあえず「ふんっ」と全身に力を入れてみたら、アッサリとそれが砕け散った。
途端に視界が開け、上半身を起こすことが出来た。・・・というか、私は寝転がっていたのか。
軽く周囲を見れば、森の中。たまにある森の中の開けた場所みたい。もっとも、それは無理矢理生み出された開けた場所であることは、一箇所に集められた倒木の山からよく分かる。
・・・・・・で? ええっと?
そうだ、研究所。研究所にブレスを・・・
「コトハ様!」
余り聞かないホムラの焦った声に驚き振り返ると、いつもは綺麗に整えられている髪を乱したホムラが駆け寄ってきた。
両肩をガッチリと掴まれ、順に怪我がないかを確認されている。
・・・やっぱりさ、ホムラって美人だよね。などと関係無いことを考えている間に、確認を終えたらしいホムラが、
「コトハ様。どこか痛むところはございませんか? 一応、墜落する前に受け止めることは出来たのですが、かなりの衝撃を受けましたので」
「・・・墜落?」
そうだ。私とホムラ、飛んでた。
研究所に向けて、恥ずかしさを押し殺して口を半開きにさせながらブレスを放って・・・?
ホムラが焦った様子でこちらに向かってきたのは覚えてる。
ホムラに視線を向けて説明を求めたところ、
「コトハ様の放たれたブレスは、それはもう凄まじい威力でしたわ。研究所を中心に大爆発が起き、その衝撃は全方位に広がりましたの。コトハ様や私もそれに巻き込まれたのです」
「・・・それで、ここに墜ちる前に」
「ギリギリのところで、元の姿に戻りコトハ様を受け止めることが出来ましたわ。まあ、その際にこの辺の木をなぎ倒すことになったのですけどね」
「なるほど。ありがとう、ホムラ。それにごめんね。ホムラは怪我してない?」
「謝罪は不要ですわ。当然のことですもの。それに、私も怪我はしておりません。コトハ様もご無事のようで一安心ですわ。後は・・・」
お互いに怪我がなくて良かったけど、「後は」って?
「どうしたの? ・・・ああ、飛空団? もしかして・・・」
焦りながら周囲を見ても『赤竜』も飛空団もいない。
いないんだけど・・・、今気づいたけど私とホムラの周りを騎士と騎士ゴーレムが包囲、いや護衛していた。
「飛空団は無事ですわ。爆発の範囲からは外れていて、少ししてからこちらに着陸しましたの。それから、マーカスさんが半分以上の騎士と騎士ゴーレムを降ろして、コトハ様の護衛をするように命じ、捕虜を連れて行きましたわ」
そっか、巻き込んでなくて良かった。
目が合った騎士は敬礼し、直ぐに森の警戒に戻っていた。
「捕虜を置いたら迎えに来る感じ?」
「ええ。そう言っておりましたわ」
「ん、了解。みんなもありがとう」
だとすると?
ホムラは何を気にしているの? ここがどこか分からないけど、爆発で飛ばされたとしても、クライスの大森林かその周囲の森でしょ?
・・・ていうか、何してたんだっけ?
そうだ、研究所。
口が半開きになる恥ずかしさを我慢しながら、研究所に向けてブレス放ったんだ。
それで確か・・・、ああ、そういうことか。やり過ぎた。直前にホムラの焦った声も聞こえたし。
多分あれかな。ダーバルド帝国、特に研究所に関する恨みというか、怒りを込めすぎた。
焦ったりムカついたりした場合に、放った魔法の威力が想定より高くなったことはこれまでもあった。
魔法の基礎がイメージにあることを合わせて考えれば、魔法の威力についてキチンとイメージできていない場合に、簡単に多くの魔力を使えてしまう私は、必要以上の魔力を込めてしまう傾向にあるのだろう。
対策できるものかは分からないが、意識しておく必要があるな。
それはそうと、ホムラが何か気にしているのは?
「それでホムラ。何か気になるの?」
聞くのが早い。
ホムラは少し困ったような、そんな表情をしてから、
「その、コトハ様の気が、これまでと比べて強いのです。それに、意識しなくとも感じるほどに魔力が脈動していますわ。それが気になりまして・・・」
ホムラに指摘されて気づいた。
なんか、体内を巡る魔力の量がかなり増えているし、抑えているはずのオーラが身体から漏れ出している。
それに、自分の身体に意識を向けてみると、なんか変な感じ。
『龍人化』は解けておらず、角や翼、尾が出ており、身体を鱗が覆っているのだけど・・・・・・、色が変わった?
前までの青白い感じから、少し青色が増したというか、濃くなった感じ? それに、感覚的にだけど、力が漲っているような?
そこまで考えて、先ほど意識を取り戻した際の不思議な感覚を思い出した。
全身が何かに包まれていたような不思議な感覚。そして力を込めたら、私を覆っていた何かが割れたような感じ。
この感覚をホムラに伝えてみたところ、
「・・・・・・推測、ですが」
「うん」
「コトハ様は脱皮なされたのではないでしょうか?」
・・・・・・・・・・・・だっぴ? ダッピ? ・・・・・・脱皮!?
はい? 脱皮って、あの、トカゲとか蛇とかがする!?
私が!?
戸惑う私を余所に、ホムラが続ける。
「私たち『古代火炎竜族』を含めたドラゴンは、成長過程で複数回脱皮しますの。私も既に何回か脱皮を経験していますわ。コトハ様は種族としては『魔龍族』ですが、そのルーツは『龍族』にあるのでしょう? でしたら、コトハ様も成長過程で脱皮を経験しても不思議ではありませんわ。ただ、私も『人化術』を身に付けてからは脱皮したことがありません。ですので、この姿で脱皮を迎えた場合、どのようになるのかは分からないのですが・・・」
「・・・・・・さっき私を覆っていたのが、それなんじゃないかってこと?」
無言で頷くホムラを見て、少し考え直してみる。
私は『龍族』の卵に宿り、生まれた存在。
『龍族』とホムラの種族『古代火炎竜族』の異同は分からないけれど、これまでに聞いた話を踏まえると、『赤竜』の上位存在が『火炎竜族』であり、その上位存在が『古代火炎竜族』であるみたいな感じで、更に上位の存在なんだと思う。
とすれば、他のドラゴンと同様に、私、というか『龍族』が成長の過程で脱皮する生態であっても不思議ではない。
自分が脱皮した、という事実を受け入れられるかはともかく、かなり正解に近い推測だと思う。
先ほど砕けた膜が、私の古い皮なんだとすれば、筋は通る。
次に気になるのは、脱ぎ捨てた皮の行方と脱皮した理由。
もっとも、前者の答えはなんとなく分かる。魔素となって散ったのだろう。そうでもないと、私の足下には破れた人の皮が落ちているはずだし。
後者は謎だ。考えられるのは・・・・・・
「ホムラ。研究所にブレス放った時の私って、どんな感じだった? 結構、オーラ集中させてたんだけど」
「・・・一体どれほど強力な攻撃を放つおつもりなのか、失礼ながらかなりの恐怖を感じましたわ。それほどの魔力と気を感じました」
「・・・・・・なんか、ごめん」
確かに、ここまで自分のオーラを増大させたことはなかったかもしれない。
周囲の魔素を取り込み魔力へ変換させ、その上でオーラを混ぜ込んで口元に集中させた。
そんな作業をじっくりやってたことで、副次的に自分自身の身体の成長まで促したのだろうか?
「よく分からないけど、身体に不調は感じないし、大丈夫かな? 身体を巡る魔力が増えた気がするし、オーラの制御が難しくなってるから、その調整はいると思うけど」
「そうですわね。脱皮直後によく見られる状態だと思いますわ。脱皮したばかりの頃は、よく攻撃の加減を間違って、地形を変えてしまう者もいますの」
「・・・・・・気をつけるね」
正直、自分が脱皮したというのは受け入れられていない。
けれど、自分の種族や症状、ホムラの説明からするに、事実なんだと思う。
その原因はイマイチ分からないところがあるけど・・・
まあ、前向きに考えよう。加減をミスって事故りそうな気はするけど、多分強くなったんだし。
それはそうと、私がオーラを撒き散らす弊害はよく知っている。
ホムラが困った感じだったのもそれだろう。
聞いたところマーカスの迎えがじきに来るみたいだし、それまでオーラの制御を確認しておこう。
じゃないと、飛空団の『赤竜』が怖がってしまうかもしれないし・・・