作品タイトル不明
第339話:ガーンドラバルへ
〜カイト視点〜
僕からの提案は簡単。
サーシャさんとヤートンさんの2人を、結婚式までの間うちの領に招待し、避難してもらうというもの。
その際に、「2人の結婚を祝してクルセイル大公が領都に招待した」という体裁を広めることで、馬鹿な貴族を牽制することになる。コトハお姉ちゃんが祝福している結婚に難癖をつけることの愚かさに、是非とも気づいてほしい。
コトハお姉ちゃんの了解は取ってないけれど、反対されることはないと思う。
というより、遅かれ早かれこの件を耳にしたコトハお姉ちゃんが王都に乗り込むことをサーシャさんに止めてもらえることを期待してすらいる。
いくら大公とはいえ、王都で他の貴族、それも形式的には罪を犯していない貴族を物理的に粛清して回るのは外聞が悪い。
コトハお姉ちゃんは全く気にしないだろうけど、僕としては、家族に要らぬ悪感情を向けさせたくはない。
僕の提案を理解したギブスさん、ロッドさんは直ぐにサーシャさんにも話をしてくれて、サーシャさんは受け入れてくれた。というか、「行くわ!」と二つ返事だった。
ヤートンさんはアーマスさんの所、つまり宰相室で働いている。
一昨日の話はもちろん、王国の運営の中枢である宰相やその部下は忙しいに決まっている。ダーバルド帝国はもちろん、内政にも課題が山積み。学院のこともあるわけだし。
なので、ヤートンさんの調整には時間が必要だと思っていたのだが・・・
「ご招待、ありがたく頂戴いたします」
サーシャさんの意向が分かると直ぐに、サイル伯爵家からヤートンさんへ何らかの伝令が走り、僕たちがお茶をいただきながら軽く雑談をしている間に、ヤートンさんがやってきてこの返事。
「こちらから招待しておいてなんですけど、大丈夫なんですか? お忙しいのでは?」
当然の疑問を聞いてみたのだが、
「お気遣いありがとうございます。ですが、ご心配には及びません。元々、結婚に向けた準備のために休むことを勧められていましたので。加えて、宰相閣下より、貴領との連絡役、という役職を暫定的に与えられております」
「分かりました。ヤートンさんが問題ないのでしたら、是非我が領に。姉もヤートンさんとは会いたいと言っていましたので」
「ありがとうございます。私も、サーシャが大変楽しそうに話すクルセイル大公殿下にはお目通を願いたいと思っていました。挨拶させていただければと思います」
とりあえず、ヤートンさんも問題なさそうで安心した。
ちなみにヤートンさんはアーマスさんからの手紙を預かっていた。
内容は、今回の件への詫びとヤートンさんたちを頼むといったもの。
確かに、今回王都に来てから、色々と心配になる貴族がちらほらと見受けられるし、その対処はハールさん、アーマスさんとコトハお姉ちゃんの約定により、ハールさんたちの仕事になる。
どうやら、旧ラシアール王国時代から貴族の地位にあり、ランダル公爵の反乱時には日和見を決め込んだ結果、カーラルド王国でも貴族の地位にはあるもののその権勢が削がれた者たちを中心に、愚かなものがいるらしい。
もっとも、近いうちに纏めて対処する予定とのことなので、今は見守ることになる。というか、ウチができるのは物理的な解決になるから・・・
どこかで、やむを得ないこともあるのかもしれないけれどね。
♢ ♢ ♢
翌日、王宮からの「要望書」も無事に届き、王都ですべき仕事が終わった。
「飛空団」は出発の準備を急いでおり、ちょうどサーシャさんたちも到着したところ。
「カイト殿。お邪魔している。改めて、妹と妹婿のこと、よろしくお願い申し上げる」
見送りに来たロッドさんが頭を下げ、馬車からはサーシャさんとヤートンさん、そしてそれぞれお付きとして同行する人が2人ずつ降りてきた。
簡単に挨拶を済ませたところ、
「カイト君。紹介してもいいかしら?」
とサーシャさんから。
頷いて返すと、
「私の専属メイドのファミア。それから、サイル伯爵領騎士団のノバク。ノバクは、以前うちの領で手を貸してもらった際に会っていると思うわ」
「はい。ノバクさんのことは覚えています。ファミアさんもよろしくお願いしますね」
「「お世話になります」」
ヤートンさんの連れも、執事1人と護衛騎士1人だった。
正直、護衛の必要はない。2人は賓客対応であり、うちの騎士団による護衛が常時つくだろうし、可能性として考えるのがうちからの攻撃ならば、焼け石に水もいいところ。
まあ、貴族の子女が護衛もなく他所へはいけないので仕方がないんだけれどね。
「ピィィィィ!」っと、指笛の音が鳴り響き、視線が集まった。
すると、3体の『赤竜』が翼をはためかせ、ゆっくりと空中へ舞い上がった。もちろん、その背には『ヤリュシャ族』の騎士が騎乗している。
興味津々といった様子のお客さんに軽く説明しておく。
「今離陸したのが、今回の編隊で護衛を務める1騎と、荷物などを積んだ車両を抱えた2騎です。今はここに9騎全部が着陸できないので、先に出て王都周辺で合流します。車両の用意が済んだようなので、どうぞこちらへ」
荷物、とは主に騎士ゴーレムや武具のこと。
僕が見た感じ問題はなさそうだったが、王都のお屋敷で活動していた騎士ゴーレムは、一度持ち帰り状態の確認が行われる。
懸念だった活動時間については、魔石の交換を行うことで問題ないようだけれど、念のため。
「カイト様」
一応は軍事機密の「飛空団」について、答えられる範囲で説明していると、「飛空団」の団長、シェニファーさんがこちらへやってきた。
視線を向けると、
「ご報告申し上げます。後発隊、6騎についても準備完了いたしました。ご搭乗願います」
「分かりました。それでは皆さん、こちらへ」
先導する騎士に続き、「飛空団」の車両へと乗り込む。
「1人ずつ座席に着いて、座席の右側にあるベルトを左側にあるフックに引っ掛けてください」
僕の説明にサーシャさんやヤートンさんたちはピンときていない様子?
「カイト君、これは?」
「シートベルト、といいます。「飛空団」は空を飛ぶので、馬車よりも大きく揺れることがあります。その際に身体が投げ出されないように、座席に固定するものです」
そういうと納得した・・・というより、少し恐る恐るといった様子で一斉にシートベルトを装着し始める皆さん。
僕らも最初はよく分からなかったのだけど、コトハお姉ちゃんやヒロヤさんたちが絶対に必要だって主張したんだよね。
「飛空団」は車両を抱える『赤竜』に加え、身軽な状態の『赤竜』も同行する。
主に森の中では、『赤竜』に対しても果敢に攻撃を仕掛けてくる魔獣がいるので、それを迎え撃つためだ。つまり、車両を抱える『赤竜』は安定した飛行を優先し、身軽な『赤竜』が護衛にまわる。
そのため、座席から投げ出されるような揺れ方をすることはあまりないが、離着陸時を中心に、揺れることはあるためシートベルトは必須になる。
こんな説明を簡単にすると、皆さん納得して安心してくれた様子。
領都へ向かう人員の搭乗が完了したとの報告が来たので、出発の合図を出す。
見送りには王都の屋敷の周囲を買い上げる交渉中のレーベルほか、交代で王都勤務になる騎士、そしてロッドさんたちがいる。
彼らの見送りを受け、
「それでは、ガーンドラバルに向けて出発します。「飛空団」、出撃」
「「「はっ!」」」
騎士たちの威勢のいい返事に続き、『赤竜』たちが各々翼を羽ばたき始める。
「カイト様。離陸します」
その合図を最後に、車両が持ち上がり高度を上げ始めた。
♢ ♢ ♢
王都を出発してから数時間、特に問題もなく進んでいた。
車両には窓がほとんど無いが、先ほど僕たちの乗る車両を抱える『赤竜』の背にいるシェニファーさんから赤札が投じられた。
これは、空中にいても簡単な状況を伝えられるようにと備えられたもの。札の色に予め意味を決めておくことで、会話せずとも状況を把握できるようになっている。
今回の赤札は、「問題なし。目的地まで1時間程度」の意味になる。
コトハお姉ちゃんやドランドたちは、窓の設置や外にいる騎士と会話できるようにする設備などを備えた専用車両の開発を目指しているようだけど、今はこれで十分。
そうして、最後の札である緑札 ―「着陸に向けて高度を下げる」の意味― が投げ込まれ、僕たちの乗る車両は無事にガーンドラバルの騎士団訓練場に着陸した。
「皆さま、大変お疲れ様でございました。クルセイル大公領が領都、ガーンドラバルに到着いたしました」
シェニファーさんが車両の戸を開けそう話す。
「ご苦労様。それではサーシャさん、ヤートンさん、どうぞ」
キアラとオプスとともに降り、2人を促す。
「ありがとうカイト君」
そして車両から降りたサーシャを見つけて、
「お帰り、カイト、キアラ。オプスも。それにようこそ、サーシャ」
先行して着陸した護衛騎からサーシャさんのことを聞いていたのであろうコトハお姉ちゃんが、僕たちを出迎え、嬉しそうにサーシャさんの名前を呼んでいた。