軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

91 焼肉強食

翌朝、サビーネちゃんが返事をくれた。

「とうさまもかあさまも、そして姉様や兄様達も、私がみんなと一緒に死ぬより、新しい世界で生きる方が喜んでくれると思う。……それに、私自身が、そうしたい。

ミツハ姉様やコレットと一緒に生きていきたいし、もし私ひとりになったとしても、とうさまやかあさまの、そして王族の血を絶やすことなく、この国で私が新たな祖となってお家を再興します!」

きりりと引き締まったサビーネちゃんの顔は、立派な王族の顔だった。

「それと、勿論今後もミツハ姉様と一緒に旅をするよ。姉様が死ぬようなことがあるなら、どうせ本隊も全滅してるよ」

「ね、姉様、苦しいです……」

気が付くと、私はサビーネちゃんを力いっぱい抱き締めていた。

その日は1日、家の中の物の使い方や、緊急時の対処方法、非常持ち出し物件の場所や重要な物の埋設場所やその深さ等、あらゆることをふたりに教え込んだ。

大事なことはメモさせた。メモを見られても、こちらの世界の者には読めないし、向こうの世界の者に読まれても何の問題もない。

昼食は、ピザを取った。

ふたりの反応を楽しみにしていたが、結果は、まぁ、予想通り、とだけ。

隊長さんのところへの国際電話の掛け方も教えた。そして、受話器の前で流す、私からのメッセージを入れたDVDの隠し場所も。念の為、投函する国際郵便も一緒に置いてあり、ポストへの投函方法も教えてある。後は、まぁ、追々教えればいいか。

夕食は、焼肉屋へ。

食べ放題ではなく、ちょっとお高いところ。

いや、お姫様にあまり変な肉を食べさせるわけにはいかないし、日本の肉料理を馬鹿にされるわけにはいかないからね。

そして最大の理由は、これが経費として落とせるからである。うん、王様から、食費として。

「な。ななななななな!」

「はぐ。はぐはぐはぐはぐはぐ!」

コレットちゃんは論外として、サビーネちゃんも、我が日本の高級肉の前には、ひとたまりもなかったようである。

うむ、圧倒的ではないか、我が軍は!

「ごめんね、サビーネちゃん。本当はもっと美味しいお肉を食べさせてあげたかったんだけど、ちょっと高過ぎて……」

申し訳無さそうにそう言って、にやりと嗤う私。

コレットちゃんは、もっと美味しい肉がある、と聞いても実感が湧かないのか反応しないけど、サビーネちゃんは反応した。

ぐぬぬ、と。

そう、勿論、私が日本のお肉を自慢しているだけだと気付いているのである。

ふはは、存分に悔しがるが良い!

牛刺しやユッケは、食べさせない。

このお店はきちんと正規の処理をしているから安心だけど、私が知らない間におかしな店で食べたり、向こうの世界で料理人に指示して似たようなものを適当に作らせたりされると、大惨事になるかも知れないからだ。

だから、しっかり火を通した肉しか食べさせないよ。

焼肉屋といっても、勿論、肉以外のメニューがないわけではない。

肉をたらふく喰った後でも、デザートは入る。俗に言うところの、「寿司とフルーツは別腹」というやつである。食べたのは、アイスクリームであるが。置いてある種類、全部ひととおり。

「「「うっ……」」」

ぐきゅるるる……

そして、学習効果のない3人であった……。

夜は、3人一緒にお風呂にはいり、セミダブルの私のベッドで一緒に寝た。……私があまりにも何度もベッドから落ちるため、部屋が狭くなるのを承知で、買い換え時にベッドを大きくしたのである。それがまさか、こんな形で役に立つ日が来ようとは。

明日からは、再び旅の再開である。

今回の寄り道は、必要なものであった。

これから先、私が一定以上の時間ふたりから目を離す場合には、安全のためにいったんふたりをここに連れて来るつもりなのである。でないと、あの世界に美少女ふたり、しかも片方は王女様を、護衛もなしで放置できるわけがない。

人質ならば、居場所さえ分かれば奪還できる。

しかし、人質ではなく、ただの人買い、奴隷商人とかであれば?

あの世界で、素人ひとりで発見できるとは思えない。

そう、なのでどうしても、この家や周囲に慣れて貰う必要があったのだ。ここで長時間待機する場合の、不測の事態に備えて。そして、万一私が二度と戻ってこなかった場合の覚悟と対処を身に付けるために。

もしサビーネちゃんがこの世界で生きて行くつもりがないなら、また別の選択肢を考えた。

でも、サビーネちゃんはこっちを選んでくれた。ならば、もう、他の選択肢の必要はない。

……コレットちゃん?

とっくに意志の確認は終わっている。

どちらを選んだか?

言うまでもない。

当初、コレットちゃんの御両親のことを考えたのであるが、何と、コレットちゃんが言うには、コレットちゃんはひとりっ子ではなく、兄と姉がいるらしいのである。

知らなかったよ、そんなの!

姉は15歳になってすぐに隣村に嫁ぎ、兄はボーゼス領で働いているらしい。そして何と、コレットちゃんのお母さんのお腹には、コレットちゃんの弟だか妹だかがいるらしいのだ。

……夫婦だけになったもんだから、アレか! アレなのか!!

もう、コレットちゃん、私が貰っちゃっていいよね? 結納金なら、払うよ!

で、コレットちゃんが言うには、兄や姉がいるということもあるけれど、もし国が侵略とかされた場合、家族で一番危ないのが、コレットちゃん本人らしいのだ。

農民は、支配者が誰になろうが関係ない。

新しい支配者も、新たな国民であり税収の元となる農民を、無下に扱うはずもない。

なので、国が侵略されても、コレットちゃんの両親にとっては何の関係もないのだ。徴兵とかさえされなければ。そして、あんな端っこの田舎の村が戦場になるはずもないし。

しかし、コレットちゃんは違う。

貴族家の家臣候補で、可愛い少女。

うん、処刑要員としても見せしめ要員としても、絵になるよねぇ。勿論、愛玩要員としても、引く手 数多(あまた) 。

下手に残れば、自分だけでなく、却って家族にも累が及ぶ。だから、万一の時にはミツハと一緒に逃げて、新天地でふたりで幸せになります、と両親には宣言済みらしい。

……いや、ちょっと待て! 何か、不穏な言葉がなかったか? いや、ま、いいけどね。

まぁ、そういうわけだ。

もしあの帆船の国から新たな船団が来た場合も、自国に連れ帰る奴隷は若者か子供、それも健康で見目の良い者を選ぶに決まっている。遠い距離を運ぶのだから。子供だと水や食料も少なくて済むし。

うん、この場合も、コレットちゃんは大人気間違いなし! 本人は嬉しくはないだろうけどね。

そう、最早、私とコレットちゃんは、一蓮托生。

そして今は、サビーネちゃんもだ。

まぁ、ふたりが嫁に出たら、それも解除されるけどね。

結婚したなら、それから先、彼女達を守るのは私ではなく、それぞれの旦那さんの役目だ。

(新天地でふたりで幸せになります)

脳裏にコレットちゃんの声が甦ったが、あれは、そういう意味で言ったわけではないだろう。

……ないよね?

翌日は、台所で簡単な朝食を済ませて、すぐに出発。

キャンピングカーで、まずはガソリンスタンドに行って給油。

ここでこのクルマに給油するのは初めてなので、店員さんに驚かれた。主に、アクセルやブレーキに足が届くのか、という方面で。

セルフは利用しない。ミスってガソリンをぶちまけたりするのが怖いし、私がクルマから降りて色々とやっていると、大人が寄ってきて色々と面倒だから。

……多分、無免許の中学生が親のクルマを勝手に持ち出した、とか思われてる。

軽の時ですらそうなのに、このクルマだと、何を言われるやら……。

その点、ここなら、軽で何度も給油しているから、問題ない。

初回に、ちゃんと足が届くことさえ納得させれば。

わざわざクルマごと来なくても、ガソリンだけ買って異世界に運べばいい?

いやいや、タンク容量が大きいこのクルマを満タンにするって、20リットル入りのジェリ缶で、転移できそうな人気のないところまで何往復しなきゃならないの?

運ぶのも大変だけど、そんな大量のガソリンをしょっちゅう買い込んで運んでいたら、絶対通報されるか、お巡りさんに職務質問されるよ。世の中には、消防法令というものがあるんだから。

……って、セルフスタンドで客が自分で容器にガソリン入れるの、禁止されてるじゃない! 一発アウトだったよ! 危ない危ない……。

そして、スーパーの駐車場に乗り入れて、人気がないのを見計らって、転移。

走りながらだと、むこうの状況によっては危険だし、このデカいクルマでは国道並みの広い道しか走りたくないので、人目がない状況にはできないからである。

向こうに着くと、そのまま私は再度転移して、うちの町の浄水場へ。そして、配水池、つまり沈殿、濾過、塩素注入等を全て終え、町へ配水する寸前の水が蓄えられているところから、キャンピングカーのタンクにぴったりの形状を指定した水を伴い、転移した。

うん、クルマへの給水である。

手間や衛生面、その他を考えると、これが一番楽ちん。

……窃盗ではないか?

う……、これから色々と稼いで、住民税をたくさん納めるから、見逃して下さい!

『ホワイトルーク、こちらキングワン!』

再度転移してクルマに戻ると同時に、陛下からの呼び出しがきた。

うん、走行中は常に発電機が回っているから、無線機の電源は入れっぱなし。

「はい、こちらホワイトルークです」

『何をやっておった! どれだけ心配したと思って……』

いやいや、毎日定時連絡するわけじゃない、街にいてクルマに乗っていない時は連絡できない、って、何度も説明したでしょうが!

『ホワイトルーク、こちらホワイトホーム、何をしていた! あまり心配を……』

無線機の電源を入れて受信状態で待機していたらしい、本隊の伯爵様からも文句がきた。送信は神力をたくさん使う、と教えておいたから、呼び出しは陛下に任せていたのかな。

あ、『ホワイトホーム』というのは、本隊のコールサイン。味方陣営は『ホワイト』で、敵対した勢力は『ブラック』を付けた符丁になる。怪しいのは、『グレイ』。

『ホーム』というのは、『ホームベース』から。一応、本隊なので。

『ベース』の方を使わなかったのは、……撃沈される艦と同じ名前になってしまい、縁起が悪いからね、やっぱり。 験担(げんかつ) ぎは大事だよ、うん。