軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

508 探 偵 6

脅しっぽい言い方だけど、一応、まだ普通の商談、交渉の範囲内だ。

さすがに、あからさまな脅迫や暴力に出るようなことはないか。

平民が貴族に対してそんなことをすれば、 大事(おおごと) だものね。

しかも、ここは警備隊詰所のお隣で、悲鳴を上げれば充分に届く距離だ。

警備隊の兵士達が、自分達の詰所のお隣さんである他国の貴族の少女が悲鳴を上げて、全力で駆け付けないはずがない。

自分達の面子を潰された、という怒りに顔を真っ赤にしてね……。

……あ、お店から出て行った。

今の捨て台詞で、帰るんだ……。

もっと粘るかと思っていたけど……。

でも、ま、またすぐに来るんだろうなぁ。わざわざ隣国から来ておいて、これくらいで諦めるわけがない。

それに、たとえ本人がどう思っていようが、一度断られたくらいで成果なしで帰って、商会主や大番頭に納得してもらえるはずがないよね。

絶対、自分の出世のために手柄を持ち帰ろうとして頑張るはずだ。

私に 考え直させる(・・・・・・) ためにね……。

* *

あ。

翌日の夕方、今や日課になりつつある 夕方の釣り(・・・・・) ……川や海ではなく、王都の裏通りとかで釣るやつね……をやっていると、前方にふたりの男が現れた。

ずっと向こうから歩いてきたんじゃなくて、横合いからスッと……。

そしてどちらかの方向へ歩いて行くわけじゃなくて、そこに立ち止まったままでニヤニヤしてる。

後方を振り返ってみると、……うん、そっちにも男がひとり、立ち止まっている。

昨日の今日で、あからさまだなあ……。

どちらも、そうゴロツキっぽい感じじゃなくて、一応服装は普通だ。

こういう連中を現地で雇うのは危険……足元を見られたり、自分がお金を 集(タカ) られたり脅されたり……だから、自国から連れて来たのかな。自分の護衛を兼ねて、子飼いの連中を……。

昨日までの 釣果なし(ボウズ) から、一転しての一発ヒット。

こりゃまあ、昨日のおっさん絡みだと考えるのが妥当だよねえ……。

このまま歩き続けると、前方のふたりに接近してしまう。

かといって、反転しても後方のひとりに接近しちゃう。

自分から危険に近付くのはアレだし、見られている状態で転移して、無駄に相手に情報を与えてやる必要もない。

ならば、どうすれば良いかというと……。

……ニヤニヤ。

そう。相手と同じように、立ち止まってニヤニヤ笑いを浮かべてやるのだ。

ほら、向こうがニヤニヤ笑いをやめて、戸惑ったような顔をしてるよ。

そりゃ、戸惑いもするだろう。

怪しい男達に挟み撃ちにされて、ニヤニヤと笑う女性だぞ?

そりゃ、不気味で気持ち悪いよね。

そして少しの間固まっていた前方のふたりが、気を取り直した様子で近付いてきた。

……まあ、まだこちらからは何もできないよね。

ここは裏通りとは言え公道だから、そこを歩いているからといっていきなり撃つわけにもいかないだろう。何か、犯罪行為の宣言か、直接危害を加える動作をしてくれないと……。

私の方は、既にポケットの中に手を入れて防犯スプレーを握っているから、問題ない。

この連中は、有無を言わさず殺しに来るタイプじゃないみたいだからね。

そして、段々と近付いてくる、ふたり。

後方のひとりも、距離を詰めてきたな……。

「お嬢ちゃん、いけないよ、こんなところを護衛もなしでひとりでうろついては……」

あ、やっぱり最底辺のチンピラやゴロツキじゃないみたいだな。

底辺連中なら、『いけねぇな』とか『うろついちゃあ』とか、もっと 下卑(げび) た話し方をするものだ。

ニヤニヤ笑いも、本当に下卑た笑い方じゃなくて、ちょっとわざとらしい感じだし。

こりゃ、普通の護衛がわざとゴロツキっぽく振る舞っている、とかかな。

それも、この仕事のために雇われたというわけではなく、元々常雇いの連中とかが……。

でも、まだ犯罪行為じゃない。ただ、暗くなり始めた裏通りをひとりで歩いている女性に忠告しただけ、と言われれば通る程度だ。

もう少し踏み込んでくれないと、実力行使に出るわけにはいかないよね。

ちょっと、 ピンを打つ(・・・・・) か……。

あ、『ピンを打つ』というのは、潜水艦とかがアクティブソーナーを発振することだ。

パッシブ……聴音するだけ……と違って、相手の確認が明確にできる。

欠点として、こちらの存在が丸分かりになるけれど、今回の場合、こちらにはそれでバレて困るようなことはない。

なので、向こうの反応を確認するために、一発ピンを打つ、というわけだ。

「あれ、昨日うちを訪問された方の、お仲間の方達じゃないですか。確か、隣国レイウン王国の、カールラット商会の番頭さんの……。

うちの間諜……、『影』達から報告を受けていますよ」

うん、ざわっ、という感じがしたね、今。

動揺を顔や身体の動きに出すということは、本職の『その道の人達』ではなく、やはり表の人間、普通の護衛か……。

いや、だからといって、犯罪行為に手を染めていないというわけじゃないだろうけどね。

ただ、裏世界の専門家としての特別教育を受けていないというだけだ。

……まあ、そんな者は滅多にいないだろうけど。王宮の特殊な部門だとか、大きな犯罪組織とかを除いて……。

「な、何のことだ?」

「な、何、ワケの分からないことを……」

「そんな男のことは知らん!」

あ~、動揺し過ぎだよ……。

「……それで、私に何の御用ですか? 番頭さんからの伝言か何かですか?」

「「「……」」」

あ~、お困りのようだなぁ……。

ここで、無関係の者を装って私に何かを吹き込もうとしても、全ての言葉がカールラット商会の番頭からの指示によるものだと思われれば、何の意味もないからなぁ……。

何らかの危機感を煽ろうとか、現在 ヤマノ家(うち) のレイウン王国での取引店であるネサス商会の関係者の振りをしようとか、色々と予定があったのかもしれないけれど……。

この状況だと、どんな言葉を口にしようが、それら全てがカールラット商会の仕業として悪い方に取られるに決まってる。

それが分かっていて、何を言えというのか、というところだろう。

私に直接の危害を加えられない以上、どうしようもないよね。

そして更に、私は今、衝撃の事実を告げている。

『影達から報告を受けていますよ』と……。

それはつまり、私の手駒として『影』がいるということであり、そんな者が自分の護衛としてその『影』を付けていないはずがない。

剣で戦う普通の護衛は、『影』に対しては相性が悪い。

剣では、毒を塗った吹き矢やダート、棒手裏剣や投擲用ナイフ等を相手にするには厳しいだろう。

通りすがりの無関係な者を装ってグサリ、とか、遠距離から弓矢で狙撃されたりも……。

そして今現在も、どこかから自分達を狙って弓が引き絞られている可能性が……。

いや、いないけどね、私の『影』!

旧大陸、ゼグレイウス王国にいる時なら、王様が私に付けているかもしれないけれど……。

さすがにここヴァネル王国では、あのいけ好かない王様も、ミッチェル侯爵……みっちゃんのお父さん……も、私にそんなものは付けていないだろう。

「「「…………」」」

かなりお困りのようだけど、そろそろ何か喋ってくれないかなぁ……。