作品タイトル不明
478 狼は狼を呼ぶ 11
「どういうことよっ!」
「え?」
寄贈の食料品を持って孤児院を訪問したら、いきなり詰問された。
……例の、『謀略少女』に……。
まだ、ペッツさんのところに完全に移籍していなかったのか……。
そろそろ、商人としての修行に専念しなよ……。
私は、 孤児院(ここ) のポップコーン販売からは完全に手を引いたのだけど、王都にいる時に馬車や愛馬を預けているし、御者としてここの子供達を雇っているし、全く顔を出さなくなると幼い子達が泣いちゃうから、時々の訪問を続けているのだ。
そして、ここでは食べ物を持ってくる私の評判はいいはずなんだけど、顔を出すなりいきなり怒鳴りつけられたわけだ。
……なぜ?
「ど、どういうことって、いったい何のこと?」
「 惚(とぼ) けないでよ! お金儲けの新事業に孤児達を雇っていながら、どうして 孤児院(ここ) の者達には声を掛けないのよ! ふざけてるの!!」
「え……」
「そりゃあ、今現在、日々の暮らしに困ってるのは、向こうの方よ。
……でも、15歳になってここを出て行く時、 孤児院組(わたしたち) には碌な仕事先がないのよ! そりゃ、院長先生が色々と探してくれるから、向こうの連中よりは少しマシだけどね……。
それが、何? 姫巫女様や貴族の子達が作った作業場で働けて、住むところが無料で提供される?
そんなうまい話に、どうして私達が除外されてるのよ! おかしいでしょうがっっ!!」
「あ……」
言われてみれば、確かにその通りかも……。
私が技術者候補としてスカウトした、ロイク君達、3人。
あの3人は、孤児院の者達から見れば、信じられないくらいの幸運を掴んだわけだ。
そしてこの子、『謀略少女』こと、ベルオーネちゃん。
この子自身は、ペッツさんが商人見習いとして面倒を見ると言ってくれているから、将来の心配はない。
だから、この子には私の不興を買う危険を冒してまで文句を言う必要はないはずだ。
なのに、他の子供達のために、敢えて自分がその役目を引き受ける。
……馬鹿だねぇ……。
でも私は、そういう馬鹿は嫌いじゃない。
そして、問題の『その件』については……。
「……ごめん。とりあえず、今現在、飢え死にや凍死、そして悪党の餌食とかになる心配がない 孤児院(ここ) の子達のことは、対象外だと考えてた。
そして、15歳になってここを出る時は、もう成人、大人になってるから、って……。
無料宿舎の方も、成人すれば宿舎は出て、次の子のために空けてもらうつもりだし……」
「……仕事の方は?」
「え?」
「その連中が成人したあと、仕事の方はどうなるの?」
「そっちは、事業が上手くいっていれば、工場を拡張して、雇用はそのままかなぁ。
そんなに順調じゃなければ、順次、他の事業を始めてそっちへ回ってもらうかも……」
「それって、どちらにしても、孤児院出身者が卒院後に普通に仕事を探して働くよりは、ずっと好条件だよね?」
「……た、多分……」
「……」
「「「…………」」」
「「「「「「………………」」」」」」
……イカン。
孤児達の目が、冷たい。
ヤバい。
やばたにえん……。
「「「「「「姫巫女様、酷い!!」」」」」」
あああああああ〜〜っっ!!
* *
……詰められた。
徹底的に、詰められたよ……。
孤児院(ここ) の子達も、今すぐ自分で働いてお金を稼げ、貯金ができ、4~6人部屋とはいえ自分の部屋を持てるなら、 孤児院(ここ) で暮らすよりもそっちの方がいい、と思っているらしい。
そして自分達が出て行けば、その分、他の幼い子供達が孤児院に入れるから、と……。
……まあ、そう考えるのも無理はないか……。
ただ、いくら席が空くからといっても、ある程度の年齢になった者が全員いなくなって、孤児院にいるのが幼児ばかりというのもマズいだろうけどね。
年長の者がいれば、その子達が幼い子達の面倒を見てくれるし、異状があればすぐに大人達に知らせてくれる。
それが、全員が乳幼児になってしまうと、全員を大人達が面倒を見て、危険がないよう、そして急な病気や発熱がないか等、常に確認していなければならない。
そんなの、大人の負担が大きくなりすぎる。
孤児院の従業員の人数を大幅に増やさなきゃならないし、色々と問題が発生するだろう。
……そもそも、ちゃんと守られている存在である孤児院の子供達は、今回の『孤児達が悪党の餌食になるのを防ぐ』というのが主目的である作戦の、対象範囲外だ。
だけど、そう言っても、この子達が納得するとは思えないよねぇ……。
うむむ、どうすべぇ……。
「今、宿舎は建設中で、住む場所が足りないんだよ……」
一時凌ぎで、そう言ってみたところ……。
「 孤児院(ここ) から通えばいいじゃないの!」
うっ……。
確かに、 孤児院(ここ) も衣食住はタダだから、貯められるお金は変わらないか……。
昼食は向こうで無料で食べられるし……。
いや、多分、朝食も夕食も向こうで食べるつもりか? そうすれば、居残り組の小さな子達が食べられる量が増えるから……。
食うに困らない、とは言っても、別に腹いっぱい食べられるというわけじゃないんだ。
自分達も小さな子達も、両方が腹いっぱい食べられる方法があるなら、そりゃ食らい付くだろう。
パンとかの持ち帰れるものは、食べずに幼い子達へのおみやげにしたりも……。
なのに、そんなうまい話から自分達が除外されていたというわけだ。
フリーの子達より私との繋がりがずっと強いと思っていた、 孤児院組(じぶんたち) が……。
あ~、そりゃ、怒るか……。
「ごめん、ちょっと待って。
とりあえず、今危ないフリーの子達の窮地を何とかしてから、考える……。
それと、今回の件は私主導じゃないんだよ。貴族のお嬢様達の親睦組織がやっていることで、私はそこに所属しているだけの、ただの子爵家の者に過ぎないんだ……。
一応、ある程度の影響力はあるから提案はできるけど、会長の判断とか多数決とかには勝てないからね?」
一応、私の影響力をかなり控え目に説明したけれど、……駄目だ、信じている様子が、 欠片(かけら) もない……。
この子達、私のことを『救国の大英雄』、『女神にコネがある』、『王様を 顎(アゴ) で使える』とか思ってるから、貴族のお嬢様くらい言いなりにできると考えているんだろうなぁ……。