作品タイトル不明
462 終 焉 4
あの後、パーティーは盛況の内に終了した。
別に、王太子殿下が婚約破棄の宣言を行ったというわけじゃない。
貧乏伯爵家の三男と地方の男爵家の四男が恥を晒したくらいのことは、有力貴族である侯爵家のパーティーにとっては、苦笑する余興程度に過ぎなかったようだ。
パーティーの主役である御令嬢からは、『なかなか面白かったですわ。またこういうことがあれば、是非声を掛けてくださいましね』と、良い笑顔で微笑まれたよ。
侯爵様からは、『「ソサエティー」の皆さんなら、いつでも大歓迎ですよ』、『ヤマノ産の蒸留酒、お願いしますぞ』と、同じく、良い笑顔で微笑まれた。
…… 父娘(おやこ) だなぁ……。
キイディス達は、あの後、いつの間にか姿が消えていた。
いや、別にあれ以上糾弾するつもりはなかったし、ふたりとも黙り込んだ時点で、ミレイシャちゃんが彼らを無視して他の人達と普通に話し始めたから、あの連中はみんなから完全に 無視(スルー) されていたんだよね。
だから、連中がいなくなっても、誰も気にしていなかったみたいだ。
……結局、取り巻きのうちの最後のひとりは、発言することなく、名を呼ばれることもなく、目立たないまま終わったから、超ラッキーだったのかも。
最後までキイディスと一緒だったのに、『その他1名』のままで終わったのだから……。
運の良い人って、いるよねぇ……。
キイディスとエンルードは、表面上は何の罰も受けていないかのように見えるけれど、勿論、そんなことはないらしい。
『ソサエティー』のメンバー達が言うには、あのふたりは、今後婚約相手探しとかに苦労するだろう、って……。
貴族の婚約相手が見つからない場合の最後の手段、裕福な大商人の娘と、というのも、貴族の縁者になれて貴族相手の商売が、というのが相手側の目的なのに、悪評塗れの貴族家と縁ができても、意味がない。……それどころか、却ってマイナスとなってしまう。
そんな貴族家と縁を結びたがる金持ちはいないだろう、ということらしい。
……うん、そう言われれば、確かに……。
ミレイシャちゃんは、別に他国の貴族家の子息を破滅させたいわけじゃないし、その家名に泥を塗りたいわけでもない。ましてや、国家間の関係に悪影響を及ぼしたいなどとは、思ってもいない。
ただ、自分と実家の家名を傷付けられるような悪質な攻撃をはね返し、毅然とした態度を示すことによって、貴族としての矜持を示したかっただけだ。
……そして、自分の留学を成功させるべく、交友関係を守りたかっただけ……。
なので、障害を無事排除できた今、もう 取り除いたゴミ(・・・・・・・) になど、何の興味もないはずだ。
これが、逆恨みで危害を加えてきそうな相手であればともかく、これだけ派手に関係性が暴露されてしまっては、今後ミレイシャちゃんに何かあった場合、真っ先に疑われることになるから、下手な手出しはできまい。
……そもそも、ミレイシャちゃんには何の落ち度も責任もないしね。
さすがに、今度何かをしでかせば完全に破滅することくらいは分かるだろうし……。
よし、これにて、一件落着!!
* *
あの後、キイディスと取り巻き達の実家から、ミレイシャちゃんに詫び金が支払われたらしい。
……そして、ミレイシャちゃんから私に、相談依頼に対する成功報酬が支払われた。
うん、ただ働きだと、悪しき前例となって、揉め事は全部ヤマノ子爵にお願いすればいい、なんてことになると大変だからね。
依頼ということであれば、相談者が来ても、忙しいからと受注を断ればいいし、依頼料を思い切り吹っ掛けて、諦めさせてもいい。
……そう。仕事だということにすれば、簡単に断れるわけだ。『あの人の頼みは聞いたくせに、どうして私からの頼みは聞いてくれないのか!』なんて言われることなく、ね。
ミレイシャちゃんから貰った依頼報酬金は、ほんのちょっぴりだ。……形だけだよ。
だからミレイシャちゃんは、貰った詫び金が殆ど残って、大黒字のはず。
それに対して、今回は『ソサエティー』のメンバーだけでなく、他の令嬢方にも色々と協力してもらったから、その人達にもお礼をしなきゃなんないんだよねぇ、私の方は……。
どうも、赤字っぽいぞ、こりゃ……。
いや、ミレイシャちゃんから報酬金を貰ったの、各家からの詫び金がミレイシャちゃんに支払われる前だったんだよ! だから、あまりお金に余裕がないであろう他国からの留学生からたくさんのお金を巻き上げるのに気が引けたんだよ!
それで、別に赤字でもいいや、って思っちゃったのだ。
あんなに詫び金を手に入れると分かっていたら、もっと高くしたよ、報酬金……。
ぐぬぬ……。
各令嬢達へのお礼、どうしようかな……。
ヤマノ領産……本当は、地球産……の化粧品や香水、アクセサリーとかでいいかな。
あ、香水も化粧品の一種か……。
一度だけ、『ソサエティー』のお茶会に招く、というのもいいかな。
加入させるのではなく、一度だけの御招待、という形で……。
喜んでもらえるかな?
* *
あれから、その後のみんなの様子が噂話で伝わってきた。
キイディスとエンルードは、親からたっぷりと叱られ、国の方からも警告があったみたいだ。
まあ、元々ふたりとも跡取りとかじゃなかったし、勘当されたり追放されたりするほどのことじゃなかったから、立場は悪くなったけれど、身の破滅、というようなことはなかったらしい。
……本人と兄弟姉妹の縁談には、かなりのダメージとなったらしいけれど……。
うまく逃げおおせた取り巻きのふたりと、最後まで残っていたけれどエンルードに注目が集まったため名を呼ばれることもなく目立たずに済んだひとりは、そっと息を潜めて、自分達の名が口にされることを避け、危険が過ぎ去るのをじっと待っているらしい。
それはそれで、見事な危機管理能力として、どこかの貴族家に拾ってもらえる可能性があるかもねぇ……。
まあ、あの3人は立場上キイディスの指示に逆らえなかっただけで、別に悪意があったわけじゃないだろうしね。
上司の命令に逆らえなかった部下、というようなものだ。情状酌量の余地が充分にある。
ミレイシャちゃんも、自分絡みでこの国の大勢の貴族家令息が失脚したりするのは望まないだろうし、余計な怨みは買いたくないだろうから、それでいいのだろう。
ミレイシャちゃんは、あのパーティーでの凜々しい態度が立派だったからか、評判も上々。
今回の件で友人も増え、『この国の、大勢の貴族令嬢にコネができる』という留学の目的を見事に達成しつつあるとか……。
国に帰れば、『ヴァネル王国の貴族子女、それも上級貴族家や「ソサエティー」と呼ばれる非常に影響力の大きい親睦団体の者達を含む大勢と親交を結んだ』という大成果で、この国との交易とかに手を染めている貴族家への売り込みには、充分な武器になるだろう。
そしてミレイシャちゃんは、更に強力なチート武器である、ヤマノ式の化粧技術を手に入れた。
ミレイシャちゃんの母国であるノーヴェス王国の王都にも、女性事業主ネットワークの加盟店があるから、一般販売はしていない化粧品を、ミレイシャちゃんのみに販売するように指示して送ることも可能なんだよね……。
上手くすれば、伯爵家の跡取り息子とかも狙えるかもね。
……ミレイシャちゃん、ガンバ!!