軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

440 『ソロリティ』の危機 8

アルシャちゃんの義手のうち、メイン装備である筋電義手は、色々と手間が掛かる。

まず、訓練に掛かる時間。

前腕切断では、ある程度動かせるようになるまで、最大10週間くらいの装着訓練が必要だ。

そして自分の意思で動かし生活に使えるようになるまでには、1~2年くらい掛かるらしい。

……まぁ、アルシャちゃんならもっと早く使いこなせるようになるのだろうけどね、多分……。

うん、知ってる。

筋電義手の耐用年数は、3~5年くらいらしい。

子供だと、成長に合わせて 頻繁(ひんぱん) に部品交換や調整が必要らしいけれど、アルシャちゃんはもう成長期は概ね過ぎているだろうから、そこは大丈夫か……。

価格は、最低でも150万円以上するらしいし、継続しての維持整備にはもっと掛かるみたいだけど、それはまぁ、大丈夫だろう。

私ではなく、ヴィボルト侯爵家が払ってくれるだろうからね、それくらいのお金なら。

たかが、金貨60枚だ。クルバディ伯爵家からも出してくれるかもしれないし。

平民にとっては大金だけど、上級貴族が娘の命の代価として支払うお金としては、 端金(はしたがね) だろう。

筋電義手を駆動するためのバッテリーは、1個でほぼ1日中使えるらしい。

充電には8時間以上掛かるらしいけれど、交換用のバッテリーをたくさん用意しておき、ソーラー発電パネルと蓄電器、制御システムを設置しておけば、私がたまに確認するだけで大丈夫だろう。

予備の、作業用義手も 充電室(そこ) に置いておけばいいだろう。

充電が追いついていなければ、うちの日本邸で充電するとか、色々と対策を考えればいい。

それに、その内バッテリーの技術も進んで、更に小型化、高性能化がなされるだろうし。

多分、余計な手出しをする者はいないだろう。

何しろここは、『女神が実在すると思われている世界』なのだから……。

さすがに、女神から賜ったものに手出ししようとする者はいないだろうからね。

アルシャちゃんには、バッテリーを装着するための、カッコいいベルトをプレゼントしよう。

私からではなく、『ソロリティ』からの贈り物とした方がいいかな。身を挺してメンバーを護ってくれた功績に対して、とかいう名目で……。

ベルトには、バッテリーだけでなく、護身用の防犯ブザーや防犯スプレー、便利道具、武器とかも装着できるようにしておこう。

サビーネちゃんは、私がアルシャちゃんに肩入れし過ぎだって言うけれど、私のミスで、させなくて済んだはずの怪我をさせちゃったわけだから、そりゃ責任を感じて当然だろう。

……それに、私も腕を失っていたかもしれないんだ。

あの、コレットちゃんを助けるために狼と戦った時。

母狼の口に左腕を突っ込んだ時、下手をすると噛み千切られるとか、後で感染症で腐敗するとかして……。

まあ、『それ』に貰った自動治癒能力(極小)のおかげで完治したけど……。

でも、もし自動治癒の能力が貰えていなければ。

そして地球に戻ることもできなければ。

左腕が駄目になった確率は、結構高かったと思うんだよね。

だから、私がアルシャちゃんに特別大サービスをするのは、ごく当たり前のことだ。

あれは、もしかするとあり得たかもしれない、私の姿……。

もしあの時私が左腕を失ったとしたら、後悔したかな?

……いや。

コレットちゃんを助けるために失ったなら、後悔なんか、カケラも……、って、それじゃコレットちゃんやアルシャちゃんと同じじゃん!

それじゃ、私が『自己犠牲は駄目』なんて言っても、説得力がないか……。

似た者同士。狼は狼を呼ぶ。

そういうことか……。

* *

アルシャちゃんのことは、傷の部分が落ち着いて、義手が出来るまでは様子見だ。

その間にやっておかなきゃならないのが……。

「ティーテリーザ様とラステナ様、あれ以来、お元気がありませんわよね……」

「無理もありませんわ。おふたりとも、平民思いの方ですから……」

「御自分達のせいで使用人に一生残る大怪我をさせてしまわれたこと、そう簡単に忘れることはできませんものね……」

そう。コレなんだよねぇ……。

今日は、『ソロリティ』のお茶会の日なんだけど……。

……暗い。

暗いのだ、ティーテリーザちゃんとラステナちゃんの周りが……。

勿論、照度計で何ルクスあるかを計ったわけじゃない。

……何か、ジメジメとした雰囲気で、暗いんだよねぇ……。

アレだ……、『どんよりどよどよ』という感じ……。

ふたりがあんなことをした原因である、『皆に迷惑を掛けた分、何か貢献してお返しをせねば』ということは、全然解消されていない。

それどころか、使用人に大怪我をさせてしまった。

……そう、『ソロリティのメンバーが、平民に片腕を失うという大怪我をさせた』という事実が生起してしまったのだ。

怪我をした使用人に対する申し訳なさは勿論であるが、創設して間がなく、まだ何の実績も上げていない『ソロリティ』に関する最初の噂が、『平民に大怪我をさせた、貴族のお遊び倶楽部』という悪評になってしまうことに対する申し訳なさ。罪悪感。

そりゃ、人の悪意から護られて純粋培養で育ってきたお嬢様には、ちょっとキツいか。

私も事件にはガッツリ関わってるから、当事者のひとりなんだよね。

だから、私からは励ましづらいのだ……。

なので、ここは……。

「サビーネちゃん、お願い!」

「うわぁ! 姉さま、それは無茶振りだよ!」

うん、分かってる。

でも、他に適材がいないんだよ!

上級貴族であるふたりがちゃんと話を聞いてくれる身分で、事情を全て知っていて、口が上手くて頭が回る天才小悪魔は、他にはいないんだよ……。

さすがに、ベアトリスちゃんでも荷が重いからね、これは……。

「任せた! ユーハブ!」

「……ア、アイハブ……、って、えええっ!」

よし! コレットちゃんから、ヤマノ子爵家の領主権限一時譲渡の儀式の話を聞いているということは、確認済みだ。

だから、こう言えば、反射的にそう答えると思っていたよ!

ふはははは!

「ズルいよ、姉様……」

困ったような顔をしているサビーネちゃんだけど、きっと上手く励ましてくれる!

……代わりに、また私への『貸しポイント』が増えることになるのだろうけど……。

ま、仕方ない。

これは、必要経費だ。

可愛い女の子の笑顔を護るためなら、サビーネちゃんからの我が儘くらい……、手加減してください、お願いします……。