作品タイトル不明
412 招 待 1
「え? 私宛ての招待状ですか?」
「うむ……」
王様が呼んでいる、というサビーネちゃんからの連絡で王宮へと登城したところ、そんなことを言われた。
子爵宛ての招待状を、本人ではなく王様に宛てて送るなんて、そりゃ普通の貴族とかからじゃないよねぇ……。
自分の名で直接送るには、子爵である私は格下すぎる。
なので、うちの王様宛てに送り、王様からの指示で出頭させるわけだ。
そうだよ! そんなの、『招待』なんて名ばかりで、強制だよ、『出頭命令』だよ!
そんなことができるのは、王様と対等か、それより上の立場の者だけだろう。
……つまり、他国の国王とか皇帝とか、そういった 類(たぐ) いの人物だ。
「どんなイベントかは知りませんが、多忙につき辞退いたします。
欠席、ということで御返事をお願いします」
「そう言うであろうと思っていた……」
困ったような顔の、王様。
まあ、そりゃそうか。
他国の最高権力者からの招待、それも遥かに格下の者に対する招待を断るなど、相手の顔を潰す行為だ。普通なら、他のどんな予定もキャンセルして 馳(は) せ 参(さん) じるべき案件だものねぇ。
……だが、断る!!
「何が悲しゅーて、無関係の知らない相手からの一方的な要求に従わにゃアカンねん!
……いやいや、アカンねんですわ!」
イカンイカン、王様相手にタメ口はマズいよね、さすがに……。
「姉様、言葉がおかしくなってるよ。普通に喋ろうよ、他には誰もいないんだからさ……」
うん、サビーネちゃんが言う通り、ここにいるのは王様と宰相様、そして私とサビーネちゃんだけだ。まぁ、あまり気を使わなくていい、身内同然の……、って、王様と宰相様相手に、それはどうなのか!!
……まぁ、いいか。今更だよねぇ……。
「で、御招待の名目は何ですか? それと、そもそも相手は誰なんですか?」
そう。それを聞かないことには、始まらない。
「いや、普通は、断る前にそれを確認するものだろう?」
うん、まぁ、王様の御指摘にも一理あるな。
* *
そして、王様が経緯を説明してくれたわけだけど……。
「……じゃあ、その『アレイディス王国』とかいう国の王様が、 雷の姫巫女(わたし) に会いたいと? 目的は何ですか?」
「表向きは、表敬。そして本当のところは、分からん」
え?
「表敬って、格下がやるものですよね? それも、『表敬訪問』って言葉があるくらいだし、 下(した) っ 端(ぱ) 側が訪問する側ですよね?
つまり、招待というのは名ばかりで、『表敬訪問に来いや、下っ端野郎!』ってことですか?
やはりこれは、強制的な出頭命令である、と……。
王様、これって 断れない相手(・・・・・・) なんですか?」
あ〜、王様がしょぼ〜んとしてる……。
「一応、我が国は他の大陸からの侵略に対抗するための同盟の提唱国であり、その議長国ではある。
しかし、それは『公平な立場を守り、各国の纏め役を務める』というだけのことであり、別に強い権限があるわけではないし、その立場を利用することはできん。
で、それを抜きにして考えるとだな……」
「向こうの方が大国で立場が上、と?」
「…………」
あ〜、王様が、ますます萎れてる……。
まぁ、それは仕方ないだろう。外交なんだから、立場が上の国が偉そうにするのは仕方ないよね。
それが悔しいなら、国力を上げて相手国を上回り、見返してやるしかないんだよね。
「その国って、私達の根回しの旅の時には……」
「うむ、ヤマノ子爵達は訪問しておらぬ。
立場が下である我が国からの使者としてヤマノ子爵が訪問すると、興味本位で『雷の姫巫女』に対して無茶な要求をされる恐れがあったからな。
なのであそこには、外務大臣に行ってもらった」
「あ~……」
うん、ありそうだよねぇ。『女神の加護とやらを見せてみろ』とか、『この国に留まれ』とか、『愛人にしてやる』とか……。
そして、ただの外交官ではなく大臣を派遣したということが、相手国に対する配慮を示しているのだけど、もしかすると向こうは、『雷の姫巫女』を行かせなかったということに不満を抱いているのかもしれないなぁ。
「じゃ、やっぱ、パスで!」
「えええええ!」
「いや、当たり前ですよね? わざわざ呼び付けてるんですよ? 目的は 無茶な要求(ソレ) に決まってるじゃないですか!
嫌ですよ、 人身御供(ひとみごくう) なんて……。
行ったきり、二度とこの国に戻って来られなくなるかもしれないというのに……」
「駄目ぇ!!」
よし、サビーネちゃんが食い付いた!
計画通り……。
王様は、サビーネちゃんには逆らえないのだ。
いざとなれば、サビーネちゃんには例の、王様に対する『貸しポイント』とかいうやつがあるしね。減るどころか、増える一方だと言っていたからね、サビーネちゃん……。
よし、これで面倒事は回避できるぞ!
「私も一緒に行く!」
「「「えええええ!」」」
私だけでなく、王様と宰相様も驚愕の叫びを上げた。
……いや、まぁ、反対するか同行をゴリ押しするかの、どちらかだよねぇ。
だって、サビーネちゃんだもの……。
まあ、王女様が一緒なら、捕らえて帰さない、ってことはできないだろうし、そう無茶も言えないだろうからね。
サビーネちゃんは、自分が付いていれば私を守れると考えているのだろう。
確かに、サビーネちゃんに何かあれば、この国の貴族も国民も絶対に相手国を許さないだろうからなぁ。
サビーネちゃんは、貴族達にも国民にも、大人気なんだよねぇ……。
貴族は息子の嫁にと熱望しているし、国民はサビーネちゃんがいてくれれば国が栄え平民の暮らしが豊かになると思っているらしいのだ。
……それって、『 雷の姫巫女(わたし) 』より 御利益(ごりやく) がありそうじゃん!
そんなサビーネちゃんに危害を加えたり、帰さなかったりすれば……。
そしてサビーネちゃんは、私を置いて自分だけ帰ったりはしない。……絶対に。
そうなると、冗談抜きで、戦争さえあり得る。
まぁ、当然ながら、向こうもそれくらいのことは知っているだろうからね。
……それは、一旦置いといて。
いや、この手のことを言い出したサビーネちゃんを止められる者なんか存在しないから、それには触れず、先に重要なことを確認しておかなくちゃならないからね。
それを確認しないと、話を先に進められない。
「王様、招待が来ているのは、『ヤマノ子爵宛』ですか? それとも、『雷の姫巫女宛』ですか?
そして、向こうは私のことをどのように認識しています?
女神の御寵愛を受けし愛し子? 女神の使い? 大国の王姉殿下? それとも、帝国との戦いにおいて兵士達の士気高揚のために 神輿(みこし) として担ぎ上げられただけの、ただの下級貴族の娘ですか?」
うん、私に関しては、国内の貴族の間でもそうなんだけど、周辺国ではかなり温度差が大きいんだよねぇ。この国との関係だとか、入手した情報量やその精度の違いだとか、希望的観測によりバイアスがかかった思考に 囚(とら) われているだとかで……。
だから、向こうが私を どういう存在だと(・・・・・・・・) 思っているか(・・・・・・) 、ということによって、向こうの出方が、そして私の対応が変わるのだ。
そしてそこで重要なのが、向こうが呼んだのが『格下の国の下級貴族である、ヤマノ子爵』なのか、『女神の奇跡により神兵様達を招喚できる、雷の姫巫女』なのか、ということだ。
うん、つまりそれは、私が『自重しなきゃならないか、その必要がないか』の違いだ。
向こうが招待したのは、果たしてどちらなのか。
それによって、御期待に応じたものを見せてあげなくちゃね。
……イッツ、 招待(ショータイ) ム!!