作品タイトル不明
406 ソロリティ 11
翌朝にはサビーネちゃんとベアトリスちゃんが復活していたので、お化粧の勉強の続きをさせた。
実習として、例の美容部員のお姉さんのところへ行って、順番にお化粧してもらった。
ひとりがお化粧をしてもらう所を他のふたりが見学する、というやり方で。
……どうしてみんなにお化粧技術を習得させようとしているのか。
それは、 旧大陸(こっち) の組織、『ソロリティ』での、私の影響力を強化するためなのだ!
こっちでも、『ソロリティ』結成時の第0回お茶会、つまり発足前の顔合わせというか説明会というか、その時にお披露目したのだ。
美容部員のお姉さんに完全なナチュラルメイクを施されたコレットちゃんの顔をみんなにじっくりと拝ませた後、水タイプのクレンジングを含ませたコットンタオルで 拭(ぬぐ) い、一挙にそれを落とす、ってやつを……。
うん、 戦闘証明(コンバット・プルーフ) 済みの作戦は、安心感があるよね。
そして、勿論その後、お試し用として基本的な化粧品を無料配布。
次回からは有料。購入してね、という、前回と同じパターンで……。
日本製の化粧品は人寄せの目玉商品だし、被害担当艦……私にとってはそうだけど、本人達にとっては『被害』ではなくメリット……として活躍してもらうためには、日本の化粧品と化粧技術は必要だからね。私の貴重な収入源にもなるし。
……領地の収入ではなく、私の個人資産の方ね、勿論。
但し、新大陸であったイベント、シーレバート伯爵令嬢カーレアちゃんによる、ソルバイン伯爵家長男に対する 攻撃(アタック) 作戦のようなものがなかったため、美容部門のお姉さんによる化粧指導も、販売する化粧品のランクアップもない。
ただ、見本として見せたコレットちゃんのお化粧顔と、ネットから落とした画像を数枚見せただけだ。……あとは自分達で自由に研究してね、と言って……。
だから、ある程度の成果は出しているものの、 新大陸組(ソサエティー) の時のような、社交界が鳴動する程の騒ぎにはなっていない。
いや、それでも『貴族家令嬢としては、普通』の 範疇(はんちゅう) だった者達が、いきなりトップグループに 躍(おど) り出るくらいの効果はあったよ。
そこに、日本のお化粧技術を完全に 会得(マスター) したサビーネちゃん、ベアトリスちゃん、コレットちゃんの3人を投入するわけだ。
そして、3人にアデレートちゃんへの指導をやってもらうのだ。
……今まで『ソロリティ』のみんなには提供していなかった、新しい化粧品や化粧道具を少しずつ提供しながら……。
その後、アデレートちゃんから他のメンバー達に対して、その一部を少しずつ教え、提供してもらう。
これの目的は、3つ。
まず、『ソロリティ』のメンバー達の戦闘力を更に上げて、私の増加装甲としての能力を向上させること。
次に、アデレートちゃんの立場の絶対化。
アデレートちゃんを『ソロリティ』にとって絶対に必要な者、替えの利かない人物として不動の立場を与えるのだ。
そして、新大陸の『ソサエティー』と違って 旧大陸(こっち) の『ソロリティ』では私は活動にあまり関わっていないから、私の影響力というか、求心力が弱いので、それに対するテコ入れだ。
……いや、貴族家の当主達は、勿論私に対して一目置いてくれているよ。……その大部分は。
まぁ、直訴事件前のエスノール伯爵みたいに、王都絶対防衛戦での私の活躍は神輿として担ぎ上げられただけであり、神兵とかも近衛軍の秘匿部隊のことだと思っている人達もいるけどね。
特に、あの時に領地にいて王都にはいなかった人とか、出世のための野心に燃えていて、私の存在が邪魔だと思っている人とかは……。
それに、私は『雷の姫巫女様』なんて呼ばれているけれど、別に 神様側の人間(ゴッドサイダー) だと思われているわけじゃない。
ただ、特殊な武器を持った母国の兵士を呼んだ小娘に過ぎない。
私と直接会った人は、私が貴族らしい洗練された所作も、高度な会話術も身に付けていないことはひと目で分かるだろう。
いや、そりゃ、私にはこの国の人が知らない知識があるけれど、それは『貴族が知っていなきゃならないもの』じゃない。
そして、その『貴族が知っていなきゃならないもの』の多くを、私は知らない。
……うん、そりゃ、舐められるわなぁ……。
そういうわけで、私のことを『神輿として担ぎ上げられただけの、名前も知らない遠くの小国から来た下級貴族の娘』、『運が良かっただけの、田舎貴族の小娘』とか思っている、 情報に疎い(アンテナの低い) 貴族とか、親からそう教えられた子とかもいるんだよね〜。
……そして、ぽっと出の田舎娘が 第三王女殿下(サビーネちゃん) に付きまとったり、大聖女様(未公認)である 侯爵家御令嬢(ベアトリスちゃん) にべったりと張り付いていたりするのは業腹である、と……。
また、いきなり陞爵し、領地が急速に発展し始め、王様やアイブリンガー侯爵様と懇意になり、 第一王女殿下(うえねえさま) が長男であるアレクシス様に気がある素振りを見せているボーゼス侯爵家に対して、敵対心や警戒感を抱いている貴族も、それなりにいるらしいのだ。
そりゃ、この国はまともな貴族が多いけれど、だからといってみんなが善人で、聖人君子ばかりだというわけじゃない。
当然ながら、悪い貴族がそれなりにいるし、まともな者であっても、自領の利益のためには私やボーゼス家が邪魔、ということもあるだろう。
私も、いつ『コイツは本当の御使い様ではない! そう詐称しているだけの、偽者だ!!』と弾劾されて、王子様から婚約破棄されて国外追放になるかもしれないのだ。
……いや、私は自分から御使い様だなんて一度も言ったことがないし、王子様どころか、誰とも婚約していないけどね!
まあ、もしそうなったら、コレットちゃんを連れて この世界(こっち) での本拠地を 新大陸(ヴァネル王国) に移すだけだ。
そして万一の時には、サビーネちゃん、ベアトリスちゃん、そしてアデレートちゃんに亡命の希望の有無を確認する。
亡命先をどこにするかは、その時に考えればいいか……。
この大陸の、どこかの国。 新大陸(ヴァネル王国) 。そして、地球。
候補地は、いくらでもある。
……って、話が 逸(そ) れたよ。
とにかく、『 ソロリティ(こっち) 』では、『 ソサエティー(むこう) 』のようには私による恩恵は与えまくらない。
この国(ゼグレイウス王国) では、 向こう(ヴァネル王国) とは違い、私の貴族家当主としての立場とか、政治的な立ち位置とか、色々とあるし、あまり社交界での力関係や人間関係、そしてバランスを崩してメチャクチャにするわけにはいかないんだよ……。
向こう(ヴァネル王国) でなら、私は余所者であり、表立っての攪乱行為とかであればともかく、 悪気のない(・・・・・) 、 良かれと思って(・・・・・・・) した行為(・・・・) に関しては、何の責任もない。
たとえ社交界や人間関係に混乱を起こしたとしても、そもそも、あそこでの私の目的が『情報収集と、政財界に影響力を持つこと』であり、そして『あの国の足を引っ張ること』なのだから、問題ない……どころか、アレだ、『計画通り……』というヤツだ。
……でも、『ソサエティー』のメンバーや、その他の『罪のない、いい人達』には、幸せになってもらいたいと思ってるよ、勿論。
国家レベルでの対応と個人レベルでの対応は、別物だ。
地球の某国の人は、個人として付き合うとすごく良い人なんだけど、国家として付き合うととんでもなく横暴で危険なんだよね。
ま、それは仕方ないよ、うん。
で、とにかく、『お化粧作戦』なんだけど……。
これを発動するのは、勿論、今回の『私に対する、舐めてくれた態度』に対して、一発喰らわせた後で、だ。
さて、どうするかなぁ……。