作品タイトル不明
387 ボーゼス領の開発
ボーゼス侯爵領の、観光地化の件。
イリス様からの、スーパー銭湯の催促が激しくなってきた。
侯爵様からのラム酒の催促も激しいけれど、それはサトウキビの栽培に成功してからだ。
既にうちの領地とボーゼス領に試験的な作付けを行っており、気候や病虫害に負けず無事収穫にこぎ着けることができるかどうか、ワクワクドキドキ、って状態なのだ。
両方の領地で栽培しているのは、何らかの条件のため失敗する可能性があるから、普通に試験栽培するボーゼス領と、私が眼を光らせて監視し、過保護なまでに世話をするヤマノ領との2本立てにしているわけだ。
領地が広く、陸地の方にも拡がっているボーゼス家と違い、うちの領地は小さいから全ての土地が海に近く、潮風の影響下にある。
でも、日本のサトウキビ産地って、沖縄と鹿児島の2強だし、その中では、奄美や種子島とかの南西諸島でも作られてるんだよねぇ。
……ということは、つまり、サトウキビは潮風に強い、ってことだろう。
うん、何とか、なるなる!
で、まあ、そっちは収穫期待ちということで、問題は、イリス様の方、……つまり、スーパー銭湯だ。
技術的には大きな問題点はないはずだ。
何しろ、日本では平安時代には既に銭湯の走りである湯屋ができていたし、外国では古代ギリシャや古代ローマにもあったくらいだから、ここの文明レベルなら建設できないはずがない。
……私が、資料や便利道具を提供するなら、尚更だ。
だから、作ること自体に問題があるわけじゃない。
なのに、なぜ私があまり気乗りしないかというと……。
私が、色々と忙しいということだ。
やることが多すぎて、そんな大事業に関わっている暇がないんだよね。
いや、分かるよ?
イリス様は美容に興味津々だし、スーパー銭湯を作れば、ボーゼス領を観光地として売り出す大きな武器になるということくらい……。
造船所と軍港、そして海に浮かぶ4隻の軍艦(修理中のイーラスを含む)だけじゃ、遠くからわざわざやって来るにはちょっと弱いし、『見るだけ』じゃあ、あまりお金を落としてくれないよね。
見学だけじゃあ、1日で観光が終わっちゃうからね……。
だからこその、スーパー銭湯なのだ。
長期滞在。飲食。そして追加料金での特別サービスである、スパ。
そう。目指すはスーパー銭湯であり、かつ、 スパ銭湯(・・・・) なのである!
リピート客ができないと、一過性のもので終わっちゃうしね……。
あ〜、やっぱり、そろそろやんなきゃ駄目かぁ……。
もう、『夏休み終了の3日前』だよねぇ。
宿題をやらなきゃならない時期か……。
* *
地球で、調べた。
この世界でも作れそうな、スーパー銭湯とスパの施設について。
燃料は木材。動力は人力。
頑張ればこの世界でも製造や修理ができそうなものを、最初は地球で用意する。
……こっちでイチから作っていちゃ、時間が掛かりすぎるからね。
製造もだけど、設計段階や、材質、強度計算とか、液体や気体を扱う新規機材をいきなり作らせるのは怖すぎる。
無防備な裸の貴族と平民を一緒にはできないから、当然、男女別、身分別にしなきゃなんない。
マッサージ師やエステティシャンの養成にも、時間が掛かる。
……教育とか、私がやらなきゃなんないのか?
うああああ……。
……でも、この事業にも、ボーゼス家の儲け以外にいいところがある。
まず、領民が清潔になり、健康の増進と病気の予防効果が期待できる。
そして、スーパー銭湯とその関連施設……レストランとか休憩処、売店とか……には、軽作業や単純作業とかの、あまり体力や技術を必要としない仕事がたくさん発生する。
うん、寡婦や孤児達の働き口が増えるってことだ。
ヤマノ領には引き取り手のいない孤児や浮浪児はいないけれど、人口が多く、そして大発展を遂げつつあるボーゼス領には、元々の住民であった者達だけでなく、他領から流れ込んできた者達も大勢いる。
噂を聞き、『ボーゼス領に行けば、孤児でも生きていける』と考えた子供達が、命懸けで遠路を歩き続け、そしてそのうちの何割かが無事に辿り着いていたりするのだ。
途中で力尽きた仲間達を置いて、涙を 堪(こら) え、振り返りたいのを我慢して、ただ前を向いて歩き続けた子供達が……。
その者達に、仕事が提供できる。
また、こんな世界だ、夫に先立たれたり、出稼ぎに出たまま帰らぬ夫を待ち続ける寡婦もいる。
その人達にも、仕事を与えることができる。
……うん、分かっちゃいるんだ。
これは、ボーゼス領がお金を儲けるだけの事業ではなく、領民の生活を支えるための公共事業として大きく役立つだろうということは。
……やるしかないか……。
それも、本気で。
失敗は、許されない。
* *
まず、設計図を用意した。
日本のスーパー戦闘、じゃない、スーパー銭湯を参考にして、採用する施設と、真似る建物を決定。
だいたいの構造図を描いて、現地の建築家に丸投げ。
……いや、勿論、日本の設計士に描いてもらうという方法もあったよ?
でも、そんなに精密な設計図を描いてもらっても意味がない。
現地の技術者や作業員がそんなのに忠実に作れないし、建築資材の強度も違うし、金属製の補強材も、接合技術も、全く違う。だから、日本の設計士による強度計算なんか、何の意味もない。
鉄筋? 何ソレ、美味しいの? って世界だ。
だから、設計図というより、簡単な配置図、見取り図みたいなやつの殴り書き……ラフスケッチである。
それを渡して、現地人の現地人による現地人のための設計をお願いするのだ。
そして次に、建設道具の用意。
いや、さすがにパワーショベルやユンボを持ってきたりはしないよ。
スコップ、 唐鍬(トンガ) 、 一輪車(ねこぐるま) 、その他諸々の、ここの人達が見て理解できる、『高度な技術による製品だけど、別に不思議なものじゃない』土木用の道具を少し提供したのだ。
上質な鉄製品による作業効率の向上は、工期の短縮に繋がるからね。
そして、建物の建築が進んでいる間に、設備の手配。
日本じゃ電気で動いているものを、全部人力で。
噴流式泡風呂(ジェットバス) ……浴槽の下や横に穴を設けて、そこから気泡や湯が噴出する設備……とかは、全て孤児や寡婦を雇って、人力で行う。
勿論、あまり力が必要ないように設計するよ。
あまり力のない小さな子供や身体の弱い人には、垢すりの三助さん役を割り当ててもいいか。
直接お客さんと接する業務の人は、チップを貰えるようにするかな。
勿論、施設内では 代用貨幣(トークン) を使わせるから、チップもトークンで受け取ることになる。
金属製にするから、お湯や蒸気に当たっても問題ない。だから、浴室内でもチップを渡せるよう、トークンを入れた小さな皮袋を首から下げて……、って、金属製品を持ってサウナに入るのはマズいか? 火傷(やけど) しちゃうか?
う〜ん、再検討かなぁ……。
まあ、建物が完成するのは、まだまだ先の話だ。
設備の方は、日本の下町にある小さな 工場(こうば) に頼んでみるかな。
面倒な仕事だと思われるか、面白そうだと思ってもらえるか。
たくさんの工場を回らなきゃならなそうだな……。