作品タイトル不明
382 樫の木 9
あれから、一週間。
サビーネちゃんとコレットちゃんも通学を再開し、クラスメイト達とも以前と変わらぬ……、いや、以前にも増して仲良くなったらしい。
まぁ、自分達の命の恩人だし、あのカッコ良さを見せられちゃあねぇ……。
ふたりは、『謎の美少女戦士、コマンドー仮面』に並ぶ正義の味方、スーパーヒロインとして人気絶頂らしい。
……クラス内限定で。
うん、クラスメイトも先生達も、ちゃんと秘密を守ってくれているようだ。
さすが、聖職者! さすが、敬虔なる仔羊達!!
…… 仔羊(ラム) 肉は、美味しいよね……。
仔羊(ラム) 肉だっちゃ!
いや、何でもない。
報道を信じるならば、どうやら犯人達は本職の工作員や訓練されたテロリストというわけではなく、単なる無計画な宝石強盗だったらしい。
確かに、連中は銃の他に 折り畳み(フォールディング) ナイフ等は持っていたけれど、特殊な 暗器(隠し武器) や毒物等は持っていなかった。
やはり、ただの馬鹿な犯罪者か、騙されて雇われた使い捨てのクズに過ぎなかったか……。
そもそも、確実に成功するといううまい儲け話があれば、他人に声を掛けたりせずに、自分でやるよねえ。
他人にやらせるというのは、成功しても失敗しても自分は安全で、馬鹿達を使い捨てにして成功するまで何度でもやらせたり、強奪したブツを受け取ったらそのまま連絡を絶って報酬を支払わず、実行犯はタダ働きで手に入るのは前科だけ、ということだ。
犯罪行為を持ち掛けてきた者が、約束を守るだとかちゃんとお金を払ってくれるだとか思っているのかねぇ……。
他人を使っての犯罪を企むような者を信じたり、成功する確率が低い無謀で稚拙な犯罪行為で人生を棒に振るとか、全く理解に苦しむよ。
それに、宝飾品や高級時計なんか、保証書がなきゃ碌に捌けないし、中古品扱いになれば価値は激減するし、そういうのの業界は思ったより狭くて、盗品なんかすぐバレるし……。
時計とかはシリアルナンバーが控えられているから、売りに行ったり修理に出したりした途端、即座に通報されて、ルートを辿られて全員アウトだよ。
宝石とかも、買った時と売る時のあまりの価格差に愕然とする人が多いよね。
カットやデザインが流行遅れになれば、台座やリング部分の金の地金価格にしかならないとか、普通だし。
日本においては、資産を宝石にして、とかいうのは、ちょっとねぇ……。
そして今回は、銃の出所が問題だ。
ナイフとかは自前らしいけれど、銃はネットで募集を掛けた者からの貸与品らしいのだ。
ということは、雇った者達と一緒に使い捨ててもいい安物の銃を大量に密輸している組織とかがある確率が高いだろう。テレビの解説者も、そう言っているし。
まぁ、最初からサビ・コレコンビを狙って、という確率はかなり低かったから、そこはあまり心配していなかったけどね。
ふたりが、そしてそこから 手繰(たぐ) って私が目当てだとしたら、こんな目立つことはせず、誘拐なり強襲なり、他にもっとマシなやり方があるだろう。あのふたりに辿り着いた時点で、このマンスリーマンションのことなんか、すぐに調べが付くのだから……。
こんなやり方じゃ、私とではなく、日本政府や警察と交渉することになっちゃうし、私絡みだということが露見した途端、各国からの干渉が始まるだろうしね。
最初のうちは人質の中にサビ・コレコンビが含まれていたのが故意なのか偶然なのかが分からなかったけれど、ふたりに対するアプローチが皆無で、他のクラスメイト達と同じ、ただの人質として扱われていたことから、その可能性はすぐに排除されたんだよね。
そしてそもそも、サビ・コレコンビが留学していることや、その留学先が日本であり、更にそれがここであることを知っている者は、とても少ない。
……うん、国籍を用意してくれて、留学の依頼にお墨付きを与えてくれた、あの国の国王陛下、外務大臣、情報局の担当者とその部下、くらいかな。
日本側は、ただ単にあの国の貴族子女の留学としか認識していなかったはず。
多分、今は情報関連の部署が首を突っ込んでいて、バレていそうだけどね。
でも、いくら手繰っても、行き当たるのは某国の王宮までだ。
さすがにそこに突撃するわけにはいかないだろうし、不興を買うのを承知で私達に突撃する勇気もないだろう。
平和に、静かに留学生活を楽しんでいる私達の邪魔をすれば、私達の不興を買う。それくらいのことが分からないような馬鹿は、情報部門では出世できないだろうからね。
それに、今回は 異世界勢(わたしたち) が 現地での犯罪(・・・・・・) に巻き込まれたんだ。この世界の某国の貴族という正式な肩書きと国籍を持つ、私達が。
日本側の立場は、すごく悪い。できる限りこの件、『私達が日本で危険な目に遭った』ということは広めたくないはずだ。 表の身分(某国の貴族子女) としての私達としても、 裏の身分(異世界の王族一行) としての私達としても……。
それと、目的は教えていないけれど、腕時計型通信機とか色々な道具を借りたり、諜報部員のお姉さんに変装の仕方を教わったりした、某国。
何も教えてはいなくても、それが地球上で使われるものだということは分かるだろうし、固定機の方は筐体が大きいから、位置を確認するための仕込みをするのは簡単だろう。
元々電波を発信するための機械なんだから、マイクロチップひとつ仕込むだけの、簡単なお仕事だ。
ま、別に構わないから、気にせず放置しているわけだけどね。
ここのことがバレても、ただ単に『ナノハ女子爵を始めとする異世界の一派が、優れた子供達を地球の先進国に短期留学させた』ということしか分からないから。
ここから数百キロ離れた町に住む、ただの一般民である私、山野光波と繋がる情報は何もないし、留学先に日本が選ばれたのは、子供達が日本の漫画やアニメに嵌まっているから、ということで説明が付く。
……というか、それは本当のことだし、国籍を貰った国の人にもそう説明してある。
担当の人には苦笑されたけれど、くだらない理由であるだけに、説得力は抜群だったよ。
漫画とアニメのために日本語を勉強した、というのも、簡単に納得されてしまった。
そういう人、地球にも多いんだってさ。
サビ・コレコンビも、学院の人達にそう説明しているし。
あ、警察の鑑識さんの調査結果では、学院内で銃器が使用された形跡は皆無であり、弾頭部、薬莢、弾痕等は一切発見されず、硝煙反応もなし。ゴム弾のようなものもなかった、とか……。
人質や犯人の証言により火薬を使わない低致死性武器を使用した可能性も調査されたらしいけれど、砕け散ったはずの弾頭部の破片が室内からも犯人の衣服からも一切検出されないとあっては、その可能性は皆無と判断するしかあるまい。
……そりゃそうだ。
あんな短時間で、細かく砕け散った樹脂片やら緩衝材として詰められていた小さな鉛玉とかを全て回収できるはずがない。
……私以外の者には、ね。
これでは、せいぜいが『空気砲のようなものを強力にしたものではないか』と思われる程度であろう。
空気砲といっても、某アニメに出てくるやつではなく、高圧の圧搾空気を前方に向けて放出するというような意味に過ぎないけれど……。
……そして空気砲は、全くの別物である『空気銃』とは違い、銃刀法とは無縁なのだ。
もし『美少女戦士、コマンドー仮面』がそれを使ったと思われても、銃刀法違反の容疑で指名手配されるようなことはない。うむうむ。
まぁ、 私とは全く関係のない(・・・・・・・・・・) 人物(・・) だから、どうでもいいことなんだけどね、うん。