作品タイトル不明
380 樫の木 7
……そして、職員室の前に着いた3人。
「じゃ、行くよ。……転移!」
7~8秒後に、転移で消えたミツハが戻った。
予定通りに行動したようである。
……そしてその内の5〜6秒は、以前病院に転移した時に使った段ボールに潜り込むのに使われたものと思われる。
そして、小声で……。
「行くよ! 突入!!」
ガラガラッ!
どどどどど!
バスバス、バスバス、バスバスッ!
バスバス、バスバス、バスバスッ!
職員室内に突入し、それぞれ、6人の敵に2発ずつのサボット弾を発射する3人。
狙いを変えるために少し時間をロスするが、奇襲である今回は問題のない程度である。
これは、狙った敵が 偏(かたよ) って、10発以上撃たれる者と全く撃たれない者ができたりするのを防ぐための被弾数均等化措置なので、事前に目標を割り振ることができなかった今回には必要なことであった。
弾倉に装填されているのは15発なので、残る3発は、ダメージが少なくて向かってくる敵に備えた、予備である。
このあたりは、ウルフファングの 本拠地(ホームベース) で訓練した時に、様々なケースにおける戦術として、しっかりと打ち合わせしてある。
そして、敵ひとり当たり6発ずつでは制圧効果が足りず、敵が向かってきた場合。
……その時には、残りの3発掛ける3挺、9発のサボット弾を叩き込み、なおかつ敵の戦闘力を完全に奪えなかった場合は、やむなく、 短銃身散弾銃(ライアットショーティ) と、ミツハのヒップホルスターの 回転式拳銃(リボルバー) の出番である。
散弾銃と 回転式拳銃(リボルバー) に込められているのは、ゴム弾とか岩塩弾とかの『お優しい弾丸』ではなく、普通の弾である。
さすがに、これを使うことになるような事態においては、あまり余裕がない。
戦いにおける慈悲や優しさは、圧倒的優位に立つ者にのみ許される贅沢である。
そしてそれらが間に合わない場合は、最後の手段として、超常現象を見せることになってしまう。
これがあるから、ミツハがサビ・コレコンビを敵の前に出すことを許容しているのである。
もしこの『最後の手段』がなければ、いくら相手の武器を封じていても、こんな無謀なことはやらないであろう。
転移を犯人や人質達に見せると後が面倒なので、それはあまりやりたくはないのであるが……。
犯人達を転移させる場合は、どこか……無人島の上空10メートルとか……へ送り、落下時のダメージで抵抗できなくするとかの方法を使うことになるが、さすがに『犯人達が、そのまま行方不明に』というわけにはいかないだろう。
超常現象を隠すために、犯人達の銃本体はそのままで弾倉や薬室の弾だけ、とかいう小細工をしているのが台無しになるから、ミツハとしてはあまりやりたくはないのであろうが、安全のためには仕方ない。
なお、雑貨屋ミツハに転移させた弾倉や弾丸は、勿論後で犯人達の周りにバラ撒いておく予定である。
本来、 FN303Mk2(ランチャー) の想定使用距離は、もっと長いはずである。
室内での、こんな超至近距離での使用だと、設計者の想定よりかなり威力が強くなり、 副兵装(サイドアーム) の出番はないかな、と考えるミツハであるが、万一の事態に備えるのが、一人前の兵士というものである。
なお、弾種には刺激性の唐辛子成分が入ったオレンジ弾とかもあるが、人質が近くにいるため、今回は通常弾のみを使用している。
ちなみに、敵との距離を自動的に計測し、それに合わせて威力を自動調整するという超最新型の話も聞くが、ウルフファングは、そんな、高くてわざわざ威力を低下させるようなタイプのものを購入する気は皆無だったようである。
この FN303Mk2(ランチャー) も、その存在を知ったミツハが発注したから用意してくれたものであり、元々ウルフファングが持っていたものではない。
そもそも、傭兵が低致死性の武器など使うはずがなかった。
……で、各12発ずつ、合計36発のサボット弾を犯人達に叩き込んだ3人であるが……。
発射されたサボット弾は7~8割が命中し、犯人達はひとり残らず床に倒れ伏した。
犯人達も、入ってきたのが未成年の子供達だということで一瞬硬直したが、銃を手にしているとあっては甘いことを言っている場合ではなく、すぐに撃とうとして銃を構えはしたのであるが……。
負い紐(スリング) で肩に吊っていた銃を構えるには時間が掛かり、更に引き金を引いても弾は出ず、そして弾倉が付いていないことに気付き、呆然としてそれ以上何もできないうちにミツハ達から一斉射撃、というわけであった。
弾倉がなくなったことくらいは当然すぐに気付くはずであったが、何の衝撃もなく消え、そして銃を構えていたわけではなく肩に吊っていたため、弾倉消失からミツハ達の突入までの僅か数秒では反応できなかったようである。
「みんな、犯人達を取り押さえて、縛って!」
そう言ったミツハであるが……。
人質達は皆、縛られていた。
……当たり前である。
教室組は、何をするでもなく、ただ銃を持ったふたりに見張られていただけ。
なので、女子小学生と老女ひとりくらい縛る必要もないと思ったのか、そのままであった。
しかし、こちらは比較的若手の教師2名を含む上、犯人達には色々とやることがあり人質をずっと見張っている余裕がないからか、縛られていたわけである。
「……サビーネちゃん、解いてあげて……。先生の机に、ハサミかカッターナイフくらいあるでしょ」
「うん、分かった!」
そう言って、机の方……犯人達が倒れている方へと近付くサビーネ。
ばっ!
床に倒れていた犯人のひとりが急に立ち上がり、近くに来たサビーネに掴み掛かろうとした。
おそらく、銃が使えないと気付き、反撃ではなく、とりあえず人質を取るつもりなのであろう。
確かに、サビーネを人質に取られれば、いくら犯人が武器を持っていなくても手出しできなくなる。
幼い少女の首など、大人が頭を掴んでゴキリ、とやれば簡単に折れる。
それに、武器などどこにでもある。教師の机の上にあるボールペンや定規でも、人は簡単に殺せる。
(マズいランチャーサビーネちゃんの頭部に当たったら死んじゃう間に合わないクソっ油断した転移しかないどっちを転移させるか犯人を残すと危険が……)
ミツハが焦り、サビーネか犯人か、どちらを転移させるかで一瞬行動が遅れた。
どかっ!
「ぐえっ!!」
「え……」
犯人に抱え込まれそうになったサビーネが身体を回転させ、 後ろ蹴り(ソバット) で男の腹に右足の裏を叩き込んだ。
「ソバット参上、ソバット解決!
天才であるこの私が、ランチャーの操作法を身に付ける程度のことで特訓を必要としたとでも?」
サビーネは、まだ身体も手足も小さい。
そして手足が小さいということは、打撃面の面積が小さいということであり、それすなわち、運動エネルギーが狭い範囲に集中するということを意味し、……つまり、効くということであった。
敵に後ろを見せるという危険性、そして威力があるため素人が遊びで使うと危険であるが、武術に関しては素人らしき凶悪犯罪者相手に使うには、問題ない。技を返されることはないであろうし、骨折や内臓破裂とかをしても、自業自得。正当防衛で済む。
「狙われる確率が高い王族が、護身術を身に付けていないはずがないでしょうが!」
「「「「「「おおおおお!!」」」」」」
サビーネの決め台詞に目を輝かせるクラスメイト達であるが、教師のふたりは、『……王族?』と、顔を引き攣らせていた。
他国における王族の権威というものを知っていれば、この事件に巻き込んだということは非常にマズい、ということは理解できるであろう。
(その台詞、本当の天才であるサビーネちゃんが言うと、 洒落(シャレ) にならないよ……。
……って、サビーネちゃん、そんな格闘技、向こうの世界にあったの?
こっちで覚えた、聞きかじりのプロレス技とかじゃないよね?)
ミツハは余計な心配をしているが、『ローリングソバット』ではなく『ソバット』なので、他の格闘技で学んだものと思われる。
先程、ミツハは焦りまくっていたが、実は、サビーネ自身は、自分はそんなに危険な状況ではないと考えていた。
敵はサビーネを殺しても何のメリットもなく、ただ罪が重くなるだけである。
なので、常識で考えれば、敵はサビーネを確保して人質にし、交渉をしてくるだろうと考えるのが普通である。
なので、ミツハが自分か犯人のいずれかを転移させるための時間的余裕は充分にあり、たとえ自分が犯人に抱え込まれたとしても、大した危険はない。
そう考えていたわけである。
だが、追い詰められた者は、常識では考えられない行動を取る場合がある。
サビーネは自分が非論理的な行動を取ることがないため、他者も多少は馬鹿で愚かな行動を取ることがあっても、明らかに自分の利益に反する異常な行動を取ることはないと思っているのである。
しかし、現実においては、決して、そんなことはない。
殺しはしないにしても、興奮した男がサビーネの指を、そして腕を折るくらいのことは、やっても全然おかしくはないであろう。
天才には、凡人の愚かな行動が理解できない。
そのあたりの危うさがあるあたり、いくら頭がいいとは言っても、サビーネはやはりまだ経験不足のお子様であった……。