作品タイトル不明
348 復讐の弾道 5
あれから、同じような調査を繰り返した。
飯屋、軽食屋、甘味処、……そして商工ギルドとかで。
傭兵ギルドには、近寄らなかった。景気が悪い町の傭兵ギルドは、食い詰め者が多くて危険だからね。
そして商工ギルド……この町は規模が小さいため、商業ギルドと職人ギルドが合体して、ひとつのギルドになっている……では、祖母の形見と称した小粒の宝石を換金することにより、うまく情報収集ができた。
勿論、地球産の人造宝石である。ごく小さな、無加工の 裸石(ルース) 。
そこそこの価格ではあるものの、一品限りの『形見の品』なので、騒ぎになるようなことはない。
裸石(ルース) なのは、人造宝石の場合、石本体よりも台座や脇石、チェーンとかの方が高くつくからだよ。……地球ではね。
そして得た結論は……。
「「代官は、馬鹿でクズだ……」」
うん、最初の情報の通りだった。
別に、裏を掻かれたりダブルトリックだったりはしなかったよ。
「……うん、知ってた……」
「そして、領主はよく分からん!」
「同じく、井坂十蔵!」
うん、まぁ、普通の領主は、あんまり領民と友達付き合いをしたりはしないし、護衛も付けずにひとりで領内をうろついたり、屋台で買い食いをしたり、ふらりとそこらの飯屋に立ち寄ったりはしないからね。普通の領民が、領主の人となりを知っているわけがないよ。
「……ここに、その全てをやっている領主がいる件について!」
「うるさいなぁ……」
いいじゃん、たまにはそういう領主がいたってさ!
ここの領主は、別に良くも悪くもなかったらしい。
と言っても、普通の領民達と直接交流があるわけじゃないから、みんなにとっての領主観は、税率と、官吏の一般領民に対する態度や治安の良し悪しくらいしか判断材料がないらしいけどね。
……まぁ、それはごく普通のことらしいけど。
で、今、領主はここ、領地に戻っているらしい。
そりゃ、いくら援助の申請やら根回しやらで王都での活動が増えたとは言っても、大変な状況の領地を放りっぱなしというわけがないか……。
まぁ、代官を配置して業務を任せているという時点で、別に放りっぱなしではないけどね。
……それが、ちゃんと機能しているならば、だけど。
さて、次の行動は、と……。
* *
「すみません、表敬訪問に来ました!」
「……え?」
門衛さんが困っている。
まぁ、子供(に見える者)がふたり、いきなり貴族家の領地邸にやってきて、そんなことを言われればねぇ……。
物事の分かっていない子供の悪ふざけにしては、年齢層が高すぎる。
ちゃんと着替えてきたので、明らかに平民とは思えない服装。
高貴なお方オーラをバリバリに放射している、サビーネちゃん。
……うん、これで門前払いする勇気のある門衛は、まずいないだろうね。
下手をすれば、首が飛ぶ。
比喩的表現ではなく、物理的に。
そりゃ、責任を転嫁するために、上に取り次ぐよねぇ。
そうすれば、その後どうなろうと、少なくとも自分の責任ではなくなるからねぇ。
「あ、あの、どちら様でございましょうか……。本日はお客様の御来訪の予定はなかったかと……」
うん、まぁ、そう聞くよねぇ、普通……。
「ヤマノ子爵です。ミツハ・フォン・ヤマノ女子爵が表敬訪問に来た、と領主様にお取り次ぎください」
「……はっ! 直ちに!!」
ふたりいる門衛さんのうちのひとりが、ダッシュで邸の中へと駆け込んで行った。
もうひとりは、当然のことながら、門と私達の見張りとして残っている。
王都から遠く離れた領地の門衛さんは、当然のことながら、私達の顔なんて知らないだろう。
王都にも、それよりずっと遠いヤマノ領にも行くことなんかないだろうし、私の正確な姿絵なんかこんなところまで出回っているはずがない。
いや、絵師の腕が悪いとかじゃなくて、私が至近距離で何時間もモデルをしてあげて描かれた肖像画なんかないからね。
あ、遊戯盤大会の時の写真から起こしたやつがあるけれど、あれは手に入れた人が絶対に手放さないから、こんなところに出回ったりしないよ。
でも、まぁ、この国の住民で、私の名を知らない人はあまりいないだろうから、ここの門衛さんも私の名前くらいは知っているよね、うん。
……って、遅いなぁ……。
門の前で待たされるにしては、ちょっと長すぎる。
立場の違いを見せつけるために、わざと待たせているのかな?
いやいや、悪く考えちゃ駄目だ。
アポなしで突然訪ねてきた、こっちが悪い。
他のお客さんが来ているのかもしれないし、家臣達との大事な会議中なのかもしれない。
ここは、追い返されない限り、じっと待つべきだろう。
そして更にかなり待たされた後、ようやく執事さんらしき人が出て来て、邸の中へと通された。
……多分、応接の間とかで更に待たされるのだろうなぁ……。
* *
そして、予想通りお茶も茶菓子も出されずに更にしばらく待たされた後、この領地の領主である、エスノール伯爵が執事を連れて、仏頂面で現れた。
さすがに、小娘ふたりを相手にするのに、護衛はないか……。
そして、私達を見た瞬間、伯爵が固まった。
真っ青になって、ぶるぶると震えて……。
「 謀(はか) ったな、ヤマノ子爵!!」
いきなり、怒鳴りつけられた。
そして、大声でメイドを呼び付けて……。
「茶葉と茶菓子を、最高級のものに変更しろ! 大至急だ!!」
あれ? 私には安物の茶葉とお菓子で充分だと思っていたのに、気が変わったのかな?
どうして?
「き、ききき、貴様! 自分が最上位者のような振りをして、『表敬訪問』だと……。
王女殿下の御来訪であることを隠し、我がエスノール伯爵家に粗末な接待をさせて恥を掻かせようとは、何たる悪辣な罠を……。
王女殿下、私は騙されたのです! 決して、王女殿下を門外で長時間待たせるつもりなど!!」
あ。
ああ。
あああああ!!
そりゃそうだ! 私が悪かった!
私にとっては、サビーネちゃんは『サビーネちゃん』であって、『第三王女殿下』だという認識が薄い。
……でも、他の人達にとっては、そうじゃないよねぇ……。
サビーネちゃん本人も、うっかりしていたのか、『あ!』って顔をしてるよ……。
こりゃ、アレをやるしかないなぁ。
「すみませんでしたああぁ〜〜!!」
……そう、私の必殺技、ジャンピング土下座である。
王女殿下の連れであり、子爵家当主にして救国の大英雄、『雷の姫巫女』に土下座させたとあっては、風聞が悪かろう。
ここは、謝罪を受け入れるしかないよね?
ふはははは!