作品タイトル不明
336 ソロリティ 1
「な、ななな、何よ、その『ソロリティ』とかいうのは……」
当然の質問をする、アデレートちゃん。
私が子爵家当主になって、『雷の姫巫女』と呼ばれるようになってからは、私に対しても貴族の子女同士のようなお上品な喋り方になっていたけれど、驚きのあまりか、初めて出会った頃……私がただの平民で、ライナー子爵家からの仕事を受注した商人に過ぎなかった頃……のような、ちょっとぞんざいな口調になってしまっている。
……いや、その方が、私としては仲良しさんみたいで嬉しいんだけどね。
「『ソロリティ』。貴族の女性を主要な会員とする、社交的な組織だよ。大半は貴族だけど、大きな商会の子だとか、政治家の娘とかも加入可。……但し、メンバー全員が認めた場合は、だけどね。
目的は、実家の派閥には関係ない、互いの交流と親睦、そして情報交換と助け合い。
利点は、親の力とは関係なく、自分自身の 伝手(ツテ) やコネ、情報源が手に入ることと、仲間達に色々と助けてもらえることです。狙った殿方にそれとなく自分を褒めた噂を耳に入れてもらうだとか、パーティーにおいて仲を取り持ってもらうとか……。
そして、その組織の元締め、纏め役をアデレートちゃんにやってもらえないかな、と思って……。
経費や必要物資は、ヤマノ子爵家が全て提供。更に、会員には私の母国から送られてくるお酒、化粧品、食べ物、宝飾品やドレス等、色々なものを優先販売……」
「乗った!!」
よし、食い付いた!
……まぁ、当たり前だよねぇ。
新興子爵家であるライナー家にとって、こんな美味しい話、見逃せるわけがない。
それに、もしアデレートちゃんが嫌がったとしても、子爵様御夫妻が断ることなんか許すはずがないよ。
『ソロリティ』自体も魅力的だけど、 姫巫女様(わたし) が全面バックアップするという時点で、私との繋がりが深いと貴族の間での立場が強まるという現状からして、断るという選択肢はないだろう。
それに、私と仲がいいということは、必然的に、私と仲がいい王族一家とかボーゼス侯爵家とかともお近づきになれる、ということだからね。
サビーネちゃんは年下過ぎるし王族だから、重要な役職に就けるのはパス。マスコット役だけにしよう。それでも、敵対者に対する充分な威圧効果があるだろう。
それに、『ソロリティ』に全く関与させなければ、サビーネちゃんがどんな行動に出るか予測もつかないので、それはちょっと怖すぎる……。
ベアトリスちゃんは、これから手を広げる予定の商会の方が色々と忙しくなるだろうから、パス。
……それに、ベアトリスちゃんに任せると、ベアトリス商会と雑貨屋ミツハの関係がややこしくなるからね。
『ソロリティ』での武器となる化粧品やお酒、その他諸々の『雑貨屋ミツハでは扱っていなかったもの』を『ソロリティ』でのみ出すことにした場合、そこの主宰者がベアトリスちゃん……『ベアトリス商会』の商会主……というのは、ちょっとマズいだろう。
商品の出所とか、雑貨屋ミツハとの関係とか、色々な点で。
それに、そうなった場合、ボーゼス侯爵様やイリス様が絶対に口出しをしてくるから、色々と面倒だからね。
ボーゼス侯爵様はいい人だけど、それは私に対しての 個人的なこと(・・・・・・) であれば、の話だ。
ボーゼス領の経営に関わることだとか、大きな儲け話があれば、侯爵様個人としてではなく、領主としての義務で、食い付かざるを得ないだろう。それも、自分の娘が主宰している組織に関係することとなれば……。
そして、イリス様はもっと食い付く。地球産の化粧品や、化粧技術の存在に気付いた時点で。
そりゃもう、猛犬が獲物に襲い掛かるが如く……。
……そんなの、逃げようがないよ。私も、ベアトリスちゃんも……。
その点、ライナー子爵家ならそんなことがないから、安心だ。
同じ子爵同士だし、『雷の姫巫女』である私を 敬(うやま) ってくれているから、おかしな口出しをしてくることはないだろう。私は、あそこの使用人の皆さんとも仲良しだしね。
そして、アデレートちゃんは、私とはほぼ対等の喋り方をしてくれる。
……うん、とてもやりやすいんだ……。
コレットちゃんは、こっちでは、平民だということをみんなが知っているから、『ソロリティ』にはあまり連れていけないなぁ。
コレットちゃんが我が身を呈して私を護ってくれたということは広く知られているから、連れていっても文句が出ることはないだろうけど、コレットちゃんが居心地悪いだろうからねぇ。
新大陸では、自分のことを知っている者は誰もいないところで、貴族の少女になり切って演技をするだけだから、お遊びみたいな感じで気楽にやれるだろうけど、ここは自分が生まれ育った国だから、そこで平民である自分が貴族のお嬢様達の中で、なんて、胃がキリキリ痛みそうだよねぇ。
そういうわけで、コレットちゃんは『ソロリティ』にはあまり連れていかない。
お手伝い要員として必要な時は、別だけどね。
新大陸(むこう) でやった時みたいに、お化粧のモデルとして活躍してもらう時とか……。
コレットちゃんも、そういう仕事のためならば、別に何とも思わないだろう。平民としての、そして私の家臣候補としての、当たり前の仕事の一環なんだからね。
「……でも、子爵家の娘風情の私が主宰者で、上級貴族の方達が文句を言われないかしら?」
当然の心配を口にするアデレートちゃんだけど……。
「大丈夫! お茶会で提供されるものを見れば、私が全面バックアップしていることは一目で分かるし、私が後ろ盾だということは、更にその後ろにはボーゼス侯爵家や王様達が付いている、ってことだから。
それに、もしアデレートちゃんが子爵家の娘だからって 蔑(さげす) んで追い落とし、自分が取って代わろうなんて伯爵令嬢や侯爵令嬢がいたら、私が『下級貴族である子爵家の者はこの会にはふさわしくないということでしたら、私も該当いたしますので、退会させていただきます』って言えば済むからね。
主宰者であるアデレートちゃんと、雷の姫巫女である私を追い出して『ソロリティ』を乗っ取った挙げ句、資金や物資の提供者を失って会を潰した馬鹿。
雷の姫巫女に喧嘩を売った馬鹿。
そういう噂が広まったら、社交界では死んだも同然だからね!」
「……鬼ですか……」
呆れたような顔の、アデレートちゃん。
でも、私の説明には納得してくれたみたいだ。
「ま、そんな馬鹿は現れないと思うよ。こちら側では……」
「……こちら側?」
「あ、いや、何でもないよ、あはは……」
危ない危ない、新大陸のこと……私が向こうに行っているということ……は、内緒なのだった。
「あとは、御両親に説明して、許可を貰ってね」
「確認するまでもないわよ! 新興子爵家の当主が、こんなお話、断るはずがないでしょうが!
私が断ろうとしても、絶対に引き受けさせられるわよ!
そう、私には最初から、拒否権なんかないのよ!!」
そう言って、がるる、と吠えるアデレートちゃん。かわええのう……。
「……でも、私も、別に嫌だというわけではないわよ?
他ならぬミツハ、『雷の姫巫女様』からの頼みだし、それに、何と言っても……」
「「面白そうだから!!」」
……ハモった。
いや、そう言ってくれるだろうと思っていたんだ。
だから、この話をアデレートちゃんに持ってきた。
アデレートちゃんは、アレだ。
ベアトリスちゃんと同類。
女だから、楽しいこと、面白いことは全て諦め、我慢して、家の中でおとなしくしていろ。
そんな、この国の風潮には我慢できないタイプ。
「よぉし、いい返事だ! それじゃ、一丁、やってみよ~!!」