軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

290 報 復 7

「ミツハ様、エノバ商会に査察が入りました!」

「来たか……」

うん、そろそろだと思っていたよ。

「警備隊ではなく、王宮からの査察官です。普通は、国との取引における不正でもない限り、民間の商店に王宮から査察が入ることなんか滅多にありませんよ。

そして、商業ギルドの上層部も同行していたそうです。

普通は、公権力が商人に手出しすることに猛反対するはずの商業ギルドが……。

いえ、まあ、査察を受けるエノバ商会の商会長自身が商業ギルドの重鎮ですから、下手をするとギルドそのものに火の粉がかかるかもしれない事態ですからね。

場合によっては、商業ギルド自体や、その加盟店が次々と査察を受けることになりかねませんから、何とかエノバ商会だけで終わらせられるよう、全力でエノバ商会を叩いて延焼を防ごうとしているのだと思います」

「ああ、破壊消防ね……」

火災の時に、周囲の建物を破壊して潰し、除去することによって延焼を防ぎ、消火する方法だ。

破壊消防とか、破壊消火とか呼ばれるやつ。

おそらく今回は、火元であるエノバ商会を押し潰して消し去ることにより、周囲へ延焼することを防ごうとしているのだろう。

……つまり、商業ギルドはエノバ商会を見捨てた、というわけだ。

ま、仕方ないだろう。

エノバ商会が凶悪犯罪に手を染めたという噂が王都中に、そして国中に広がりつつある。

そして今まで後ろ盾となっていた権力者達は、エノバ商会に対する追及に対立派閥が関与しているとあっては、エノバ商会を擁護することは恰好の攻撃材料を提供することになり、下手をすると大打撃どころか致命傷になる。

たかが平民の商人如きのために、そのような危険を冒す馬鹿はいない。

また、代わりの商人を選んで取引すればいいだけのことである。

うん、信義や友情ではなく、お金や利害関係だけで結ばれている仲間なんて、そういうもんだよね。

「多分、商会主は自分がそんなに簡単に切られるなんて思ってもいなかっただろうね。何しろ、長年に亘って賄賂を送り続け、接待を続けていただろうから……。

でも、そんなの、相手は何の恩義も感じていないだろうからねえ。

自分に利益をもたらさなくなったり、役に立たなくなれば、即、切られるに決まってるよ。

そして、もっと自分の役に立つ者を後釜に据えるに決まってるじゃん。

貴族も、商人仲間も、目を掛けてやっていた、自分を慕っていると思っていた配下の者達も……。

昔は虎か狼だったかもしれないけれど、今は豚か犬に成り下がり、……そして 水に落ちた(・・・・・) 。もう、味方は誰もいないよ……」

そう、真の友がいるかどうかは、羽振りのいい時ではなく、苦境に陥った時に分かるものだ。

……まあ、もし真の友がいたとしても、あれだけの悪事が暴かれ、証拠が見つかり、そして擁護してくれるはずの者達が全て敵に回り、今まで泣き寝入りしていた被害者達がここぞとばかりに訴え出たり証言したりすれば、到底助けることはできまい。

今、エノバ商会の味方をすれば、下手をすれば……、いや、下手をしなくても、巻き添えを喰らって自分も破滅するだろう。

みんな、自分と家族、そして自分の店が大事だからね。

「お仲間のお店は、どんな具合?」

「はい、エノバ商会程の悪党ではありませんが、似たようなものです。悪党の腰巾着というか、小悪党というか……。

直接凶悪犯罪に手を染めていたわけじゃないみたいですけど、共犯扱いされても仕方ない程度には関わっていたようですし、普通に詐欺や脅し、子飼いのチンピラを使った暴力行為とかはやっていたそうですから……」

ラルシアは、自分が商会主になるまでは親の店を手伝っていただけなので、そういう裏の部分についてはあまり詳しくなかったそうだけど、今では経験豊富な従業員に教わったりお金で情報を買ったりして、それなりに事情通らしいのだ。

「なのでおそらく、エノバ商会で押収された書類や 取り調べ(ごうもん) の結果から、芋づる式に査察が入ると思います。

……つまり、良くて高額の罰金と賠償金、悪ければ商会主を隠居させて子供か真面目な上級従業員に継がせるか、国が経営権を奪うか、……あるいは廃業ですね」

「キビシー!」

いや、思わずそう叫んじゃったけど、何人もの人の人生を弄び、壊し、踏みにじってきたことを思えば、あまりにも軽すぎる処罰か……。

あ、いや、たとえ国王陛下からの処罰は軽くても、それだけの悪評が国中に広まれば、客は離れ、監視の目が厳しくて違法行為なんかできっこないだろうし……。

違法行為と悪徳商人グループの威光と助け合いで稼いでいたのに、ボロい商売は封じられ、悪評と賠償金の返済義務だけが残った中規模商会なんて……。

あ、だから頭をすげ替えて、店名も変えてやり直す方がいいのか。

安易に潰したら、犯罪とは関係なく真面目にやっていた従業員とか、取引先とかが困るものね。

国としても、自国の経済力や税収が低下するだけで、一文の得にもならないか。

……そりゃ、なるべく商家を潰したくはないか……。

「で、商家の方はそれでいいけれど、上の方はどうしようかな……」

「え?」

私の呟きに、ラルシアが目を剥いた。

「う、ううう、上の方、って、ま、まさか……」

「うん、エノバ商会を出入りの商家として使っていた、商会の後ろ盾の貴族」

「だ、だだだ……」

うん、ダイアキュートかな?

「駄目ですよ、そんなのっ!

いくら何でも、貴族にまで手を出しちゃ駄目ですよ、これでもう充分ですよっっ!!」

ありゃ、そういうものなの?

* *

あれからラルシアに懇々と 諭(さと) された。

おそらくラルシア貿易襲撃はヤマノ子爵領産商品の独占を狙ったエノバ商会の独断であり、上の方から具体的に指示されたわけではないであろうと……。

せいぜいが、『充分な量のヤマノ商品を納入せよ』程度の、特に悪気のない要求だったのかもしれない。

ラルシアは、上級貴族が他国の商品を少し扱っているだけの小さな新興商家をどうこう、などとは考えないであろう、と思っているらしい。そんな 些事(さじ) などあまり気にせず、出入りの商人に、ただ『あの商品を、充分なだけ納入せよ』と命じて、終わり。

それを、エノバ商会が勝手に『独占して、大儲け』を企んだだけであろう、と。

確かに、うちの商品を独占できれば大儲けできると考えるのは不思議じゃない。

お酒に珍味、そして何より、妻や娘にせっつかれて、どんな価格であろうとも買わざるを得ない、一般販売を許可している少数の化粧品。

これらを独占すれば、多くの上級貴族の出入り商人の座はもとより、王宮の御用商人の座すら夢では……、いや、ほぼ確実に手に入るだろう。大儲けと、地位と名声が簡単に。

……理論的には、ね。

まあ、私があまりにも暴利な値付けは許さないし、ラルシア貿易を攻撃するような商会に商品を卸すわけがない。始めから実現不可能な野望だったんだよねえ……。

とにかくそういうわけで、ラルシア 曰(いわ) く、『貴族には手出ししない方がいい』ということらしく……。

まあ、私としても、わざわざ敵を増やしたりこの国に喧嘩を売りたいわけじゃない。

それに、うちの『女性事業主国際ネットワーク』は貴族家と敵対する組織だと思われるのも都合が悪い。

ここは、このあたりで納得するしかないか……。

そう、アレだ。『今日のところは、この辺で勘弁しといたろか!』ってやつだ、うん。

勿論、念の為に、抑えは利かせておく。ラルシア貿易やラルシア本人がエノバ商会の残党や親族、それらの者達に雇われた者や、その他の貴族や商人の手の者に危害を加えられないように。

効果はあると思うんだよね。根回しした貴族の皆さんに、今回のお礼の挨拶に回った時に『もしラルシア貿易やラルシアの身に何かあれば、そんな怖い国とは取引できないのでこの国からは一切手を引き、周辺国の加盟店にもこの国の商人とは取引しないよう通達します』って言っておけば。

その時に、ついでに『取引のある商家の人達には、しっかりとそのことを伝えておいてくださいね』って言えば、更に効果が上がるだろう。

ま、出入りの商家にはいくらでも替えがあるけれど、『ラルシア貿易』とラルシアには替えがない、ってことだ。何かあった時に、切り捨てられるのがどちらかということが分からないようでは、商会主は務まらないだろう。

あ、賠償金は、亡くなった警備員の家族へも充分な額が支払われるよう念押ししておこう……。