軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

289 報 復 6

あれから数日。

事態が少し進んだ。

あの日王城へと駆け付けたラルシア貿易の従業員は、当然のことながら門番に制止され、門番と大声で助けを求める従業員達との間で騒ぎになったらしい。

そして、そこへすかさず駆け寄った、根回し済みの人達の配下の者達。

そこからは早かったらしい。

兵士達の数人がラルシア貿易へと走り、別の何人かはそれぞれの上司へと報告に。

ラルシア貿易へと向かった人達が到着した時には、既に警備隊の連中は立ち去っていたけれど、ラルシアや従業員達、そしてまだ残っていた見物の群衆達から証言を取り、更にラルシア貿易襲撃事件のことも詳しく事情聴取した。

今まで、事件の報告は警備隊で止まっていたらしいので、そのあたりもじっくりと……。

勿論、昨日の『他国の貴族家当主である少女が恫喝され、暴力を振るわれそうになった件』も、私からしっかりと説明しておいた。

上の人には根回しの時に色々と話しているけれど、現場の人が事情聴取で直接得た情報、というところに意味があるからね。

そしてそのすぐ後に、警備隊系の貴族と対立している貴族や、警備隊の者達が王都の治安を守る兵士として倫理に 悖(もと) る行為をしていることを苦々しく思っていた王都軍の兵士や近衛兵、そして上官からの理不尽な命令にはらわたが煮えくりかえっていた真面目な警備兵達が、一斉に攻撃を開始した。

突然の、監察官や査察官による抜き打ち調査。しかも、妨害されて書類を隠す時間を稼がれないよう、多くの兵士を引き連れて……。

無理矢理阻止しようとした警備兵は、兵士が抜き放った剣を首筋に当てられ、固まっているうちに縛り上げられどこかへと運ばれていった。

その、あまりにも常軌を逸した強行振りに、他の警備兵は一切の抵抗をやめたらしい。

……うん、下手すれば、反逆罪でその場で斬り殺されてもおかしくないって雰囲気だったらしいのだ。そりゃ、悪い上官の指示に従って悪党として成敗されたくはないよねえ……。

そして、なぜか次々と発見される悪事の証拠。

迷うことなく、真っ直ぐに裏金の隠し場所へと向かう監察官。

絶対にそんなところに放置しているはずがないのに、机の引き出しとか、書類キャビネットとかに堂々と置いてある裏帳簿や悪事の計画書。

隠し金庫の前に掛けてある絵がなぜか斜めになっていて、後ろに隠してある金庫が少し見えていたり。

そしてピンポイントで、悪事を働いている者ばかりに次々と質問を繰り返す査察官。

悪事というものは、自分ひとりで誰にもバレないようにやるか、せいぜい2~3人の絶対口を割ることのない仲間とやるものだ。

それ以上の人数になると、必ず口を割ったり裏切ったりする者が出る。

それも、もう逃げ切れないと分かると、自分だけ罪を軽くしてもらおうなどと考えて……。

まあ、現代地球にも、司法取引という制度がある。それもまた、正しいやり方のひとつなのだろう……。

とにかく、 なぜか(・・・) 異常に勘のいい監察官達の活躍により、警備隊の 膿(うみ) は全て出し尽くされたらしい。

……うん、 らしい(・・・) 、だ。

私は何も知らないし、そして私には全然関係のないことだからね。あくまでも、私はそういう噂を聞いただけだ。

今まで、警備隊に悪い噂はあったものの、証拠も無く強引な調査を行って、もし決定的な証拠を押さえることができなかった場合、逆に自分達の方が反撃を受けて致命的なダメージを受けてしまうため、思い切ったことはできなかったらしい。証拠も証人も、いつでも簡単に 消せる(・・・) ものなのだから。

そのため今までは強行策は取れなかったが、事前に『どこに何があるかが完全に分かっていて』、念の為にと予めいくつかの証拠を手渡されており、そして脅されて証言を翻したり 突然死亡したりする(・・・・・・・・・) ことのない証人(・・・・・・・) がいる。

こんなチャンスを逃す馬鹿はいなかった、ってことだ。

* *

「け、警備隊がガサ入れ喰らって、うちが 懇意にしている(カネをにぎらせている) 奴らが全員捕まっただと!!」

「はい、そしてその抜けた人員の穴埋めに昇格した者達は勿論、他の部署から補充として転入してきた者も、全て真面目な堅物揃いで……」

警備隊の接待を担当している番頭が、蒼い顔でエノバ商会の商会主にそう報告したが、勿論、問題はそれだけではなかった。

「そして、私が入手しました情報によりますと、調査を行った監察官達は大量の証拠物件を押収したらしく、その中には、当商会との関係を示すものもあったとか……」

「何? そんな馬鹿な! そのような危険を招くだけの書類など、そもそも初めから作っておらぬわ!!」

エノバ商会の商会主、バルトアードがそう怒鳴るが……。

「いえ、それが、会談の時の内容が議事録として書き留められていたとか……」

「ばっ、馬鹿な! 表沙汰にできぬ話の議事録など、残すはずがない!

くそっ、警備隊の奴らがうちを脅すために後で作成したか、それとも監察の奴らが作って押収書類の中に紛れ込ませた偽物か……。

偽物であれば、裏付け調査で矛盾点が見つかれば問題ないが……」

実はそれらの文書はミツハが録音データを元に書き起こしたものであり、事前に警備隊本部の書類の中に混ぜておいたものである。……分かりやすいように。

なので、内容は正確そのもの。それを元に事実確認を行えば、それが事実であることは容易に分かるものであった。

「とにかく、色々とマズい書類が押収されたようです。

そしてその結果、警備隊本部と関わりの深い店が芋づる式に調査される可能性が……」

……それはマズい。

非常にマズかった。

「とにかく、うちはそんな危ない書類など警備隊側に渡すどころか、作ってさえおらん。他の店も同様であろう。……皆、馬鹿ではないのだからな。

それを、警備隊の者共は『商会側の弱みを握っておけば、後々の 金蔓(かねづる) になる』とでも思って、記録を取っていたのであろう。あの馬鹿共めが……。

しかし、勝手に作った記録書類など、筆跡もサインも警備隊側のものしかあるまい。我々を陥れてお金を脅し取ろうとして作られた偽造書類だ、と言い張れば済むことだ」

マズい状況ではあるが、致命傷ではない。

各部にかなりのお金をバラ撒く必要はあるが、カネと、カネによって買える権力があれば、平民の証言など簡単に握り潰せる。証言内容も、証言者の存在そのものも……。

「監察官も、警備隊には調査に入れても、民間商店、しかも貴族や有力者達と懇意にしている大店に、証拠もなく強制調査を行うことはできまい。下手をすると、国中の商人を敵に回すことになるのだからな。

そうなれば、いくら貴族とはいえただでは済むまい。

そうだ。まだ、慌てるような状況ではない……」

商会主は、ミツハとラルシアが『上の方』まで手を回していることを知らなかった。

そして勿論、他の商店や自分の店のあちこちにも、誰が作ったのか分からない書類が何枚も紛れ込んでいることも……。

* *

「ミツハ、どうしてこんな面倒なことをしてるの? 前の時みたいに、倉庫の中身を全部奪っちゃえばいいじゃん……」

コレットちゃんがそんなことを言っているけれど、私にも、ポリシーというものがある。

前回、つまりレフィリア貿易が襲われた時は、倉庫の荷がごっそりと奪われた。

だから、こっちも向こうの倉庫の中身をごっそりと奪った。

それ以外には、現地の法に触れるようなことはやっていない。

今回は、荷は奪われていない。

そして商品が大量に破壊されたり使用不能にされたりしたから、こっちも売り場の商品を全部駄目にしてあげた。奪うことなく。

連中を洋上の孤島に転移させて放置するとか、店を物理的に『潰す』とか、やりようはいくらでもある。

……でも、それじゃあ駄目だ。

犯人達が、自分達に対する攻撃者がいるということ、そしてそれが何者かということをしっかりと認識し、……でも、証拠はないし、なぜ自分達が狙われているのかという理由を誰にも説明することができないという状況に。

同類達にも、『決して手出ししてはいけない相手』の存在を恐怖と共に知らしめること。

そしてラルシア貿易とヤマノ子爵領は違法行為などとは縁のない誠実な取引相手であるということを、全ての真っ当な商人達と国民に知らしめること。

オマケとして、『女性事業主国際ネットワーク』加盟店を敵に回せば、自国内と周辺国との取引において、どういう立場になるかということを教えてあげるのだ。

そう、コネにはコネを。権力には権力を。

武器を持っているのは、別に自分だけだというわけではないということを。

そして武器を振り回していいのは、自分も武器を振り回される覚悟がある者だけだということを……。