軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

286 報 復 3

「ラルシア貿易を通してください。

うちが直接商品を卸すのは、1国につきひとつの商家のみ。ひとつの国で複数の商家と同じような取り引きをするのは面倒でしょう?

わざわざ他国から出向いて来られたので今回はお会いしましたが、以後はこのような雑事は自国のヤマノ商品取扱店であるラルシア貿易にお話しいただきますように……。

先程申しました通り、当家が取り引きするのは、1国につき1商店。

もしその商店が潰れたり経営者が代わったりした場合には、また最初から店の選定をやり直します。私が選ぶのは、店の名ではなく、経営者の人格と信用度ですから。

なので、店を乗っ取ったり経営権を引き継いだりしたところとそのまま契約を継続することはありません。各国の取引先商店との契約書に、はっきりとそう明記してありますので……」

エノバ商会の大番頭とやらが、わざわざヴァネル王国までやってきて、私に接触を図ってきた。

最初は、取り引きのあった馴染みの商会に仲介を頼んだらしいけれど、勿論、全ての商会に断られたらしい。

そりゃ、みんな、疫病神には関わりたくないよねえ。下手に私への仲介なんかすれば、レフィリア貿易から切られることになるかもしれないんだから。

そして次に、レフィリア貿易に仲介を頼んだらしいんだけど……。

いや、まあ、ヤマノ子爵領産の商品は国を跨いでの転売禁止、という話は広く知られているけれど、レフィリア貿易は別にうちの商品しか扱っていないというわけじゃない。うちの商品が強力な武器ではあるけれど、その武器を使って、普通の商品も大量に取り扱っているのだから、他国の商家から取り引きの話が来ること自体は、何の不思議もない。

事実、『女性事業主国際ネットワーク』加盟店同士でそれぞれの国の特産品を売買して、かなりの利益をあげているらしい。互いに優遇しあっているからね。

勿論、他の商店とも取引しているらしい。どうせ商隊を動かすなら、たくさんの荷を運んだ方が稼げるもんね。

……でもまあ、当然のことながら、私との面会を取り次いで欲しい、という話が出た時点で、『それは御自分の国のヤマノ子爵領特約店である、ラルシア貿易にお願いしてください。うちの担当外です』と言って断られたらしい。

勿論、全ての『女性事業主国際ネットワーク』加盟店には、この手の連中にはそう対処するように指示してある。

ま、そんな指示を出していなくても、そんなのを私に取り次ぐような馬鹿は、加盟店の中にはいやしないけどね。

そんな馬鹿を、私がメンバーに選ぶわけがない。

そして大番頭とやらが選んだ最終手段が、コネのある貴族を介しての接触だった。

まあ、この国の貴族であれば今回の件は知らないだろうし、私やラルシアから通知が行ったわけでもないから、謝礼金を積まれれば紹介くらいはするだろう。別にデメリットはないのだから。

私も、事情を知らずに紹介だけしてきた貴族に対しては何も思うところはないし、レフィリアにその貴族への販売制限を指示したりすることもない。なので、その貴族の顔を立てて、会ってあげることにしたのだ。

……ま、大番頭の御希望通り、ってわけだ。

そして、顔を合わせて挨拶を受け、本題を切り出されての私からの最初の言葉が、これである。

うん、当たり前だよねえ。私が、全ての黒幕なんだから。

私の言葉に、まだ何か言い 募(つの) ろうとしている大番頭に対して、とどめの一撃を。

「そもそも、他国の貴族家当主に対して直接取り引きや頼み事をするのに、商会主ではなく番頭如きを寄越すとは……。

平民の分際で、我が子爵家を自分より下位にみなすとは、言語道断!

以後、何があろうと、我がヤマノ子爵家がエノバ商会と取り引きをすることは永久にありません。

下がりなさい!!」

この人は、大店ならば複数いるであろう番頭のひとりではなく、それらを束ねる大番頭、つまり商会主に次ぐNo.2の人物なんだけど、ま、貴族から見れば『商会主ではなく、従業員のひとりを寄越した』という解釈で間違いないだろう。

「え……」

あれ? 何か、大番頭の顔色が悪いぞ?

いや、そりゃ、私から完全に拒否されて任務が失敗したのだから、焦るのは分かる。

でも、それだけじゃないみたいな……。

あ!

もしかすると、私がヤマノ子爵家当主だと知らなかった?

子爵家の妾腹の娘のひとり、くらいに思っていて、だから交渉役は大番頭でいいと思われた?

まあ、この国の貴族や商人の間では、私は他国の大貴族か王族の娘であり、親が複数持っている爵位のうちのひとつを貰った、と思われている。だから、『貴族の娘』と言われているのだろう。

それを、事情を知らない者が聞いたなら、『貴族の(爵位を持つ)娘』ではなく、『(親が)貴族の、娘』だと思うのは、無理のないことだろう。

この国の貴族や商人は私をこの国に留め、取り込みたいと思っているだろう。ならば、他国の貴族や商人に私に関する詳細データをわざわざ教えるわけがない。それどころか、私に対して勘違いして失礼な言動をし、大失敗するよう期待されているんじゃないかな……。

……でも、不正確な情報や、自分達が勝手に思い込んだことを基としての行動は、致命的だよ。

特に、貴族と、商売に関することでは。

まあ、爵位貴族がひとりで、他国の賃貸店舗に住んでいたりはしないか、普通は……。

「では、お話はこれまで、ということで。お引き取りください」

私が退出を 促(うなが) したけれど、大番頭と連れのふたり……紹介はなかったけれど、多分、番頭あたりだろう……は、固まったまま、席を立とうとはしなかった。

なので、連中の後ろで立ったまま待機している3人の方に視線を向けると、慌てて大番頭達の腕を掴んで店から連れ出してくれた。

その3人は、エノバ商会の連中を私に紹介してきた貴族家の者達である。執事さんらしき人がひとりと、護衛らしき人がふたり。

うちが普通の貴族の邸であればともかく、 物産店(ここ) にいるのは、私ひとりだ。

だから、『貴族の少女がひとりで住んでいるところに、自分が紹介した他国の男3人が押し掛ける』ということで、もし何かあれば自分の立場が、と心配して、護衛兼情報収集のために手の者を派遣するというのは、納得できる判断だ。

……そう、護衛は護衛でも、訪ねて来た連中ではなく、私の護衛だったというわけだ。

まあ、私の後ろには、自前の護衛がいるんだけどね。

お隣の、警備隊詰所の常駐員6名のうちの4人。

日頃の交流や差し入れが、こういう時に役立つんだよねえ……。

『他国の商人が陳情に来る』と言っただけで、女の子ひとりである私が不安に思っていると即座に察して、立ち会おう、って言ってくれたんだ。

まあ、警備隊詰所の隣で、他国の貴族の少女が複数の男達に取り囲まれて威圧されたり脅されたり、そして万一暴力を振るわれたりすれば、警備隊の面子丸潰れだろうからねえ。警備兵としては、そりゃ、看過できないか。

そういうわけで、起死回生の策としてエノバ商会が送り込んできた連中は、何の成果を挙げることもできずに、すごすごと自国へと戻ることとなった。

こうして時間を無駄にしている間にも、『エノバ商会がやらかしたらしい』という噂がどんどん広がり、今では商人以外の人達にも知れ渡っている。

……毎日、転移で 市井(しせい) の人々の噂話を聞きに行ってるからね、おばさん連中の井戸端会議とか、お酒も出す飯屋で定食をゆっくり食べて粘ったりして……。

そして、下の方に噂が広がるということは、逆の方、つまり『上の方』へも広がっているということだ。

そうなると……。

* *

「大番頭達が戻るのは、まだ数日は先か……。 上手(うま) くヤマノ子爵家の者と話をつけられれば良いが……」

エノバ商会の商会長は、ヴァネル王国に駐在しているヤマノ子爵家の代表者がまだ年若い少女だと聞いており、当然ながらそれは子爵家の娘か親族のひとり、それも単身で他国に出しても構わない程度の、『何かあっても惜しくない者』、もしくは『何かあって消えて欲しい者』だと思っていた。

それにしては交易に関して大きな裁量権を与えられているようではあるが、その人物の重要性や立場と、本人の能力とは別に比例しているわけでも連動しているわけでもない。

そう思い、その点に関しては大して気にしてはいなかった。

「……しかし、ラルシア貿易の小娘の小細工のせいで、まるでうちが押し込み盗賊の犯人であるかのような噂が広まっているのはマズいな……。

平民共だけであれば何とでもなるが、上の方に話が行くと……」

犯人であるかのようなも何も、事実、犯人である。

そして、自分も平民でありながら、一般の人達を『平民共』呼ばわりするという、傲慢さ。

おそらく、そのうち金の力で爵位を手に入れるつもりなのであろう。そして、既に自分が貴族になったつもりででもいるのであろう。

金さえあれば、貴族になることは不可能ではない。方法はいくらでもある。

借金まみれになった下級貴族に、自分を養子にして爵位を継がせることを条件にして、借金全ての精算と贅沢しなければ働かずに暮らせる程度の金を融通してやるとか……。

「警備隊を使うか……。

こういう時に使うために、日頃から 鼻薬を利かせ(袖の下を渡し) ているのだからな。

使わねば損というものだ……」