作品タイトル不明
236 戦いの肖像 3
「……実戦訓練、だと?」
「はい」
「実戦なのか訓練なのか、どちらなのだ……」
理解できない、というような顔で、頭を抱える王様。
「実践訓練、ではなく?」
「ではなく」
「実戦のための訓練、とかでもなく?」
「でもなく」
「うむむむむ……」
ここは、日本に次ぐ我が第二の母国、ゼグレイウス王国の王宮。
謁見の間とかじゃなく、内輪用の小さな部屋で、私、王様、宰相様、アイブリンガー侯爵、そしてオマケとして王太子殿下……サビーネちゃんやルーヘン君のお兄さんね……、と、ここまでは分かる。理解できる。
……でも、サビーネちゃんと第一王女殿下……サビーネちゃん言うところの、『上姉様』……、あんたらはどうしてここにいるんだよ!
まぁ、その、『いつものメンバー、プラスα』という面々での、極々内輪の会議……というより、『根回し』というようなものだ。
あ、ボーゼス伯爵様は、今は領地にいるため不参加。港町が大変で、なかなか王都に来られなくなっちゃってるんだよねぇ……。
ま、仕方ないよね。
「出番なしで終わる確率の方が遥かに高いですけど、万一に備えて準備だけはしておきたいと思うんです。……具体的には、国からの事前許可と、乗員達への事前通告を。
うまくすると、貴重な実戦を経験できます。何せ、弾薬の節約のために、実際の砲撃訓練は陸上で一門の大砲を5~6発撃っただけですからねぇ……」
うん、ただの鉄の塊である砲弾は何とか作れるようになったけど、火薬の方がまだなんだよねぇ。
一応、火薬も作れてはいる。私が地球で作り方を調べられるのだから、国がバックアップしてくれていて作れない方が不思議だろう。
でも、性能の均一化とか、安全性とか、硝酸カリウムの大量かつ安定的な入手方法とか、色々と問題があるのだ……。
本当は、砲弾も 榴弾(りゅうだん) ……弾体の中に炸薬が入っており、爆発するやつ。炸裂弾とも言う……にしたいんだけど、大砲どころか発射薬の安定供給すらできていない現状では、まだ先の話だ。炸薬、起爆システム、その他、課題がてんこ盛りだもんねぇ……。やっぱり、起爆は、導火線による時限式かなぁ……。
鹵獲したのと同じタイプのやつなら大砲も作れそうだけど、それはあくまでも技術検証用に過ぎず、ただの通過点だ。うちが本格的に作るのは、椎の実弾使用の後装式 旋条(ライフル) 砲なのである。技術も国力も劣り、小型艦を少し作れる程度の我が国が大国に対抗するためには、砲の性能で圧倒的な差をつけるしかない。
……それが実現するのは、まだ、ずっと先の話だけどね。
つまり、現状では、鹵獲時に搭載されていた弾薬を使い果たした時点で、大砲も船も役立たずの置物と化す、ってことだ。
その貴重な弾薬を、自国の危機というわけでもないのに無為に消費してもいいのか?
そう考えるのは当然であり、間違ってはいない。でも……。
「現在使えるのが、鹵獲船たった3隻で、『イーラス』の修理と今建造中の船が完成したとしても、5隻。それも、敵国では旧型艦で、おまけに新造船に積む大砲は量産どころか、まだ研究中。
そんな状態で弾薬を節約して温存していたって、大した意味はありませんよ。砲撃訓練どころか、試射レベルの経験さえろくに積ませていないのに……」
「うっ……」
そう。素人同然の状態で、1海戦分の弾薬を温存するか。
それとも、少しばかり派手にやってみるか。
いや、別に全部使うわけじゃない。数斉射分だけだ。
それも、必ず出番があると決まったわけじゃない。そういうシチュエーションになった場合のために、そしてその時に悠長に会議を開いたり許可を得たりする余裕がないかもしれないから、事前に全権を任せてもらえるよう根回しをしているわけだ。
そして、暫しの静寂が続き……。
「……良いのではないですかな?」
「え……」
唐突に紡がれたアイブリンガー侯爵の言葉に、驚きの声を漏らす王様。
「どうせ、奴らにとっては旧式艦である船が3隻と、最新鋭艦2隻の砲門数にも及ばぬ砲数。一度戦えば尽きる弾薬。しかも我々が作ろうとしているのは新型砲であり、それが完成すれば船から降ろす予定の砲だ。未来の為の布石となるなら、使っても構わぬのではないかな?
それに、元々ヤマノ子爵が手に入れてくれたものだ。一番状況を理解しているであろうヤマノ子爵が妥当な使い途だと判断するのであれば、全てを委ねるのに異存はない」
王様に対しての言葉なのに、タメ口のアイブリンガー侯爵。王様とは昔からツーカーの仲だとかで、公式な場はともかく、こういう非公式で少人数の場では結構フランクな付き合いらしい。
まぁ、王都防衛戦の総司令官を任されたくらいなんだから、信頼が厚くて当たり前か……。
「「「…………」」」
そして結局、私のお願いは聞き届けられ、他の大臣達や軍部、そして船の乗員達には事前説明がなされることとなった。
他の列席者達の意見?
王太子殿下は、まぁ、勉強のために列席していただけで、発言権はなかったらしい。実質的な会談のメンバーは、私、王様、宰相様、アイブリンガー侯爵の4人だけだ。本当に、身内だけの、ごく小規模な非公式の寄り合いに過ぎない。だから、アイブリンガー侯爵も王様相手にあんな口調で喋っていたのだ。旧友との世間話、って感じで。
サビーネちゃんと第一王女? ははは……。
いや、ホント、どうして居たんだよ、あのふたり……。
勿論私は、新大陸の国同士の戦いにこの国を巻き込みたいわけじゃない。
他国同士の戦いでうちの国民を死なせるなんて、愚の骨頂だ。
でも、『どちらかの国が大勝して、あのあたりの国際情勢が一強多弱状態になる』というのは、望ましくない。余裕のある強国が誕生すると、周りの国を押え込んだあとは、遠方に眼を向けるであろうからだ。
……そう、そして未開の新天地を発見し、侵略し、財宝と奴隷を奪ったあとは永久に搾取し続けるために、探検船団を派遣するのだ。
それを阻止するためには……。
* *
というわけで、やってきました、軍港の街。
軍人くんが乗っている『リヴァイアサン』は、と……。
……いない。
そりゃまぁ、船なんだから、出航くらいするわなぁ。
特に、帆船とか、乗員の半分以上は水夫なんだから、日々の訓練が大事だからねぇ。今まで私が来たときにはいつも入港していたのが、運が良かっただけか。
あ、ここで言う『水夫』っていうのは、『船乗り』って意味じゃなくて、操船に携わる下級船員、って方の意味ね。砲術員とか切り込み要員とかは数に入れない方。
……それにしても、桟橋がガラガラだ。殆どの船が……、って、出撃か!
まだ政治的な遣り取りの段階かと思っていたけれど、帆船は移動速度が遅いし、もう戦争が決定しているならば、植民地と航路を守るために艦隊がすぐに出撃するのは当たり前か。
そして、『リヴァイアサン』は戦隊旗艦だ。艦隊旗艦じゃないけど、最新鋭の64門艦が出撃しないはずがない。
……というか、残っているのは雑船や支援船の類いだけだ。それと、除籍されて係留されっぱなしの廃艦くらいか。
……どうする?
まず、移動している艦隊の位置が分からない。
敵艦隊の位置も分からない。
どこで戦うのか分からない。
いつ戦うのか分からない。
どうしようもないやんか~~!!