作品タイトル不明
214 輸 入 4
どこの村に任せるかはコンペで、と思っていたけど、どうやら血の雨が降りそうなので、3つの村に分散してお願いすることにした。
他の作物の生産に影響が出ないように、新しく畑を開墾して、と思っていたんだけど、どの村も、今の畑で試験栽培を始めて、その分の土地を新たに開墾して芋を植える、とか……。
ま、失敗しないように、既に畑として土が肥えた場所を試験場に 充(あ) てて、開墾したばかりの土地を芋畑にするというのは、論理的だ。それだけ、本気だということなのだろう。
サトウキビの苗は、なるべく日本で北限近くのを入手しよう。その方が、少しは寒さに強いかもしれないからね。年に2回収穫できるらしいけど、とりあえず、気温を考えて春植えで試そう。
植え方は、挿し木植えかな。……サトウキビの枝を挿すだけの、簡単なお仕事です。
あとは、植える時期が来るまでは、待つしかないか。
よし、これで、とりあえずはOKか……。
余計なこと言っちゃったから、そのうちボーゼス伯爵家からの催促が来そうだけど、まぁ、そう急がなくても大丈夫か。こういうのは、年単位の時間が掛かるものだからね。
「ミツハ様、ボーゼス伯爵家から、何やら事業計画について、とかで使者の方が……」
早すぎるわっっ!!
* *
ボーゼス伯爵領からやってきた商隊が、うちで輸入品と領地産の商品を満載して、王都へ向けて出発していった。
代金は、まだ受けとっていない。
いや、伯爵様は別にお金に困っているわけではなく、その場で支払う、と言って下さったけど、私が 掛け売り(あとばらい) でとお願いしたんだ。……その方が色々と安全だからね。
そう、新大陸でのやり方と同じだ。
お金を受けとっていないから、あれはまだ ヤマノ子爵領(うち) のもの。
だから、襲ったり騙し取ったりした場合、それは 姫巫女様(わたし) に対して喧嘩を売ったということになり、私からの報復、つまり全面攻撃を受けることを意味する。勿論、ボーゼス伯爵領及びその友好貴族領全てからの全面攻撃と共に。
……それを示すために、商隊はボーゼス伯爵領の領旗だけでなく、ちゃんとうちの領旗も掲げているのだから、後で言い訳をしても、聞く必要はない。
まぁ、今、飛ぶ鳥を落とす勢いのボーゼス伯爵領に喧嘩を売る者はいないと思うけどね。盗賊も、そして盗賊の振りをして商隊を襲わせようとするどこかの貴族とかも……。
ベアトリスちゃんは、自分が書類仕事をした商品を運ぶ商隊の出発に、浮かれまくっていた。
まぁ、未成年の、それも女性がこんな仕事を差配するなんて、この世界では滅多にないだろうからねぇ。
ここよりはずっと女性の扱いというか、地位がマシなヴァネル王国でさえ、ただ女性だというだけで、レフィリアはいくら商才があろうと『商家の娘』、そして『商家の妻』としての人生しか与えられなかった。そう、荷物を抱えた私とぶつかるまでは。
そしてこのあたりの国では、女性の地位は、ヴァネル王国よりずっと低い。
ベアトリスちゃんが、女性の地位向上、下働きではなく経営陣に進出する旗印となるかどうかは、後世の歴史家の評価を待とう……。
……あ、私?
そう言や、一応、商店の経営者だったか……。
でも、ま、『雑貨屋ミツハ』は従業員ひとりの零細商店だからねぇ。いくら女性の社会的地位が低くても、宿屋のおかみさんとか、小間物屋の女性店主くらいはいるよ、そりゃ。
そして、領地の店は『領主の直営店』であって、ひとりの女性が経営する店、ってわけじゃない。いくら女性でも、貴族とか領主とかなら、そりゃそこらの男性商会主より立場が上なのは当たり前だ。男尊女卑より、身分制度の方が優先だよ。
そりゃ、ベアトリスちゃんも貴族だけど、自分が爵位貴族本人、つまり女子爵である私と違って、ただ貴族の娘だというに過ぎないベアトリスちゃんは、どこかの貴族家に嫁ぐのがせいぜいで、歴史の表舞台に立つようなことはあり得ない。……そのはずだった。
ま、ボーゼス伯爵様が侯爵に 陞爵(しょうしゃく) されそうで、しかもボーゼス伯爵領がこれからの国防の 要(かなめ) となりつつある今は、王族へ嫁ぐという目もありそうだけどね。伯爵様と力を合わせて、全力で潰すけど、そんな『目』は……。
そして逆に、家臣の息子の嫁に、という目は、ほぼ潰れただろう。
家臣の息子の嫁にするには、ベアトリスちゃんの価値が上がりすぎた。
もしベアトリスちゃんに惚れてる家臣の息子さんがいたら、ごめんなさい……。
「いえ、相手が王族なら、ちょっといいかも……。お父様も、さすがに王族相手ならうんと言うのではないかと……」
「えええええっっ! というか、どうして私が考えていることを!!」
いつの間にか、ベアトリスちゃんが私の背後に立っていた。そして、読心術を……。
結婚相手が見つからない術? それは『独身術』!!
「声に出てたわよ!」
あ、ソウデスカ……。
でも、ベアトリスちゃん本人の意向は、あまり重視されない。全ては、伯爵様とイリス様、そして私の暗躍で決まるのだだだ!
私より先に、嫁にやって堪るものか!
「ミツハがお嫁に行くのを待っていたら、私、 嫁(い) き遅れちゃうわよっ!」
うるさいわっっ!!
そして、心を読むなっっ!
「だから、全部声に出ていると……」
あ、ソウデスカ……。
「それでね、輸送商隊のことなんだけど……」
唐突だな、ベアトリスちゃん……。
「護衛は、あと2割減らしてもいいと思うの。盗賊や他領の者は襲ったりしないでしょうし、主要街道周辺は定期的に『お掃除』されているから、魔物もせいぜいゴブリンかコボルトの小集団か、はぐれオークが出るくらいだからね。ある程度の戦闘経験がある護衛が少しいれば充分よ。御者や商人達も、相手がゴブリンかコボルトくらいなら、充分戦力になるしね」
「え……」
「それと、塩の出荷量を増やさない? 多分、既存の商人達に気を使っているんだろうけど、向こうが扱っているのは岩塩だからね。ミツハのところの海塩とは全然違うよ。
そりゃ、向こうにとっちゃ大打撃かもしれないけれど、消費者が求めているなら、それを提供するのが商人というものよ。それに、あの値段で売ってて品薄となれば、買い占めや転売が起こるんじゃないかな……。
岩塩を売っているのは商人であって、生産者じゃないんだから、売れなくなれば別の商品を運ぶわよ。岩塩しか取り扱っていないというわけじゃないんだから。
生産元は他国だから、うちの国への売れ行きが多少落ちても、大したことはないでしょ。
それに、もし大きな影響があったところで、うちが知ったことじゃないわよ」
うわぁ……。
「それと……」
まだあるんかい!
「次の輸送商隊、私が指揮官として同行したいんだけど……」
「伯爵様とイリス様に殺されるわっっ!!」
護衛の数と塩の出荷量増加については、ミリアムさんやペッツさん、そしてボーゼス伯爵様とも相談してみるということに。
そして、ベアトリスちゃんの輸送商隊指揮官の件については……。
「却下!!」
そう、世の中、絶対に認められないことはある。
……それも、自分の命が懸かっているとなれば……。
そんなの、伯爵様とイリス様が許すわけがない。そんなのを私が許可すれば……、って、そうだ!
別に、私がヤバい橋を渡らなきゃならないわけじゃない!
「じゃあ、ベアトリスちゃんが自分で伯爵様とイリス様の許可を取ってね。元々、あの商隊はボーゼス伯爵領の商隊なんだから。
私はただ、商品を掛け売りで提供しているだけで、商隊に関しては何の権限もないよ」
「ぐぬぬ……」
よし、勝った!
これで、ベアトリスちゃんが伯爵様とイリス様を撃破できる確率はほぼゼロだから、何の心配もない。
よし、万事解決、バンジージャンプ!
* *
「ミツハ、お父様とお母様が、次の輸送商隊を指揮していいって!」
「えええええええ~~っっ!!」
……どうしてこうなった……。