軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

208 新規会員

「では、今回の入会審査の合格者は、ネレーア・ド・ウェクター様おひとり、ということで……」

みっちゃんからの結果発表に、みんなから、ぱちぱちぱち、と拍手がわき起こった。

「既に我が『ソサエティー』設立からある程度日数が経ちましたし、あまり人数が増えましても、身動きが取れなくなって組織としての活動に困難が生じてしまいます。

ですので、この 度(たび) の私達の活動により知名度が上がり、この国のほぼ全ての貴族家の女性から入会の申し込みが殺到する以前に申し込まれておりました、今回の審査分をもちまして、当分の間、特別な事情がない限り新規会員の募集は中止したいと思います。

賛同される方は、挙手をお願いいたします」

そして挙げられた、全員の手。……うん、満場一致だ。

主要な上級貴族の令嬢達は既に大半が申し込んでいて、不合格になっている。

会員のみんなも、誘いたい者にはとっくにお誘いの声を掛けていたはずだ。だから、今になって申し込んでくる者は、敵対派閥とかで親に反対されていた者とか、下級貴族家の者が駄目元で申し込んでくるとか、大商人の娘が『自分は上級貴族と同格である』と勘違いして申し込んでくるとか、そういった 類(たぐ) いの者達だ。だから、以後は、面倒な審査をする手間を省こうというわけである。

それに、いくら合格者は僅かとはいえ、あまり人数が増えるのは問題だし、これから先は『名声やメリットを聞いて、それを目的にやってくる者達』ばかりだろうから、そういうのは 要(い) らないよ。

我が『ソサエティー』に、下品な者は不要だ。ふはは!

ミシュリーヌ総統、ばんざ~い!

……そういうわけで、当分は、このメンバーで固定。

脱退者が出れば、補充を……、って、辞めるわけがないか。

結婚しても辞めないんじゃないかな、多分……。

そして勿論、こっちもそれを望んでる。

有力貴族の心臓部に、こっちの手の者を送り込むわけだ。手放すはずがないよね、うん!

* *

「では、本日は、皆様に新規会員を御紹介いたします。では、どうぞこちらへ!」

司会のみっちゃんに招かれて、前方に出た、ふたりの少女。

「ガルバラーク伯爵家のファレーニア様と、ネレーア・ド・ウェクター女子爵様です」

ふたりの紹介の仕方が少し違うが、それは仕方ない。ファレーニアちゃんはただの貴族家の娘だけど、ネレーアちゃんは貴族家の御当主様、つまり女子爵様なのだから。

……うん、私と同じ、というわけだ。

でも、ネレーアちゃんが自分で初代として貴族になったとは思えないから、男兄弟がいなくて、父親が早世したか、親が複数持つ爵位のひとつを貰ったかの、どちらかだろう。

ファレーニアちゃんは、初めての審査合格者だ。そしてネレーアちゃんは、最後の合格者。

……といっても、審査で合格した、創設メンバー以外の者はこのふたりだけなんだけどね。

ファレーニアちゃんは、審査合格時には領地にいたから、ネレーアちゃんと同じく、今日が初参加になる。

そして、みっちゃんに 促(うなが) されて、ふたりがそれぞれ自己紹介をした。

「ガルバラーク伯爵家の、ファレーニア、13歳です。どうぞよろしくお願いいたします……」

ふわふわした、妖精のような可愛い少女。邪気や悪意の 欠片(かけら) もない、その純真さ。

うん、本性を現す前のサビーネちゃんを思い出すなぁ……。

続いて、ネレーアちゃん。

「ネレーア……」

え? そんだけ?

さすがに、メンバー達も呆気にとられているけど……。

でも、もしかすると、家族全員が亡くなった場面に居合わせて、自分だけが助かった、とか……。事故とか、火事とか、盗賊の襲撃とか……。

そうであれば、ショックであまり喋れなくなったとしても、全然不思議じゃない。

そもそも、メンバー達が誰ひとりとして入会に反対しなかったんだ。それは、この子がおかしな子じゃないという証明だ。

おそらく、みんな、気の毒なこの子を守り、味方になってあげたいと思って……。

ううっ、いい子ばかりだなぁ、うちのメンバーは……。

そう思い、私が感動に浸っていると……。

「……殿下?」

え?

メンバーのひとりが、おそるおそる、という様子で、何やら言い出した。

「……あの、第三王女殿下……、ですよね……?」

「うん」

何じゃ、そりゃああああぁ~~!!

「やはり……。以前、王宮に 参内(さんだい) いたしました折、遠目にちらりとお見かけしたことが……」

「貴族家の名前はだいたい覚えたと思っていたのに、入会申込書に記憶にない家名があったから不思議に思っていたら、そういうわけかああああぁっっ!

そして、他のメンバー達も、知らない令嬢だから、みんな投票用紙にバツ印を付けずに出したってわけか! 問題がある者ならば、知っている他のメンバーがバツ印を付けるだろうと思って!!

やられた! やられたああああぁ~~!!」

私が、つい声に出してそう叫んでしまったところ……。

「にやり」

「声に出して言うなああああぁ~~!!」

……強敵現る。

しかし、どうするべきか……。

既に合格として入会させてしまったのに、身分を理由にして追い出すわけにはいかないだろう。それでは、身分を超えた対等のお付き合いを、という『ソサエティー』の大前提を否定することになる。

それに、あくまでもここでは、自分が持っている爵位である『ウェクター女子爵』として通すつもりらしいし、別にそれは爵位詐称というわけじゃない。そもそも私自身が、実家の家名や爵位は名乗らず、自分が持つ爵位をもってここでの身分としている、と思われているわけだから、そんなところを 突(つつ) くわけにはいかないし。

うむむむむ……。

「第三王女は使えます。取り込むべきです」

「ひぇっ!」

いつの間にか私の側に来ていた、新入会員のファレーニアちゃんが、他の者には聞こえないよう、小声で私にそう囁いた。……にやり、と笑みを浮かべて……。

お前もかあああああああぁ~~っっ!!

* *

……結局、ネレーア第三王女……じゃない、ネレーア・ド・ウェクター女子爵は、無事、入会することと 相成(あいな) った。あくまでも、『女子爵』として。

そして勿論、『何の問題もない』、ファレーニアちゃんも……。

大丈夫なのか。

『 ソサエティー(クジラ) 』が、シャチを飲み込んでしまったのではないのか。

そのうち、内側から腹を食い破られるのではないのか。

バンババ~ン!!

「ミツハ、ここは、こっちも新戦力を投入すべきだよ。でないと、『さーらすぽんだ』になっちゃうかも……」

……うん、『 劣勢(れっせい) せ!』ね……。

コレットちゃんは、そう言うけれど……。

「でも、この国に、みっちゃん以外の信頼できる貴族なんか……」

うん、『 ソサエティー(うち) 』の子達は、みんな良い子達ばかりだ。友達思い、領民思いの。

……でも、自国と他国が対立すれば? 自分の家と他の貴族家との利害が対立すれば?

その時にどちらの味方をするかといえば、考えるまでもないだろう。みんな、『教育を受けた、立派な「ヴァネル王国の貴族」』なのだから……。

なので、『お友達ごっこ』においてはある程度信用できても、生臭い話となると、全く別だ。

つまり、この国においては、本当に私の味方になってくれる者は……、あ、私を崇拝しているらしいレフィリアあたりは、国を捨ててでも私に付いてくれるかも。……あくまでも、商売目当て、お金目当てだろうけどね。

でも、地球や旧大陸の者を連れてきても、意味がないしなぁ。

貴族と対等に話せて会話の流れを誘導できるだけの知識と能力があって……、って、そもそも。

「どんなことがあっても私の味方をしてくれる人で、ここの言葉が喋れる者なんていないよ」

そう、そもそも、この国とその周辺国の者しか対象にならない時点で、そんな人材がいるわけがない。なので、考えても無駄……。

そう考えていたら。

「ヤマノ子爵領で、ミツハが書いたヴァネル王国の言葉の翻訳辞書の筆耕写本を手の者に買わせた人がいるんだよね。そして、王都の地下牢に捕らえられている、侵略艦隊のボート上陸組にしょっちゅう差し入れを持って会いに行っている人が……」

「えええええっっ!」

とんでもない情報である。

もしそれが国の敵対者だったり、他国の密偵だったり、小物がお金欲しさにあの連中を脱走させる手引きをしたりされると……。

言葉が通じない、ということが、あの、ボート上陸組の連中が逃げ出したりおかしなことを企んだりすることを防ぐ最大の防壁となっていたというのに……。

「コレットちゃん、誰よ、それ!」

私が、勢い込んでそう聞くと……。

「うん、たまたま、ネレーアちゃんとおんなじ身分の人」

「どこかの子爵家の者?」

「ううん、『第三王女』の方……」

「サビーネちゃんかああああぁ~~っっ!!」

全然、気付かなかった。

この山のミツハ、一生の不覚!!