作品タイトル不明
206 ソサエティー大作戦 3
「物産店から嬢ちゃんへ! レベル5! レベル5!」
常に持ち歩いているハンディ機から、呼び出しの声が聞こえた。
私達以外に、この世界で人為的な電波を出している者はいない。だから、 雑音制御(スケルチ) をきちんと調整しておけば、無信号時には静かで、入力があればちゃんと音声が出力される。 雑音(ノイズ) にスケルチを突破されてうるさい、ということがないので、楽ちんだ。
……などと 暢気(のんき) にしている暇はない。
急いで応答しないと、無線機のトラブルかと思われて、打ち上げ花火やサイレンを鳴らされてしまう。しかも、レベル5というのは、多くの人命に関わることで、時間的余裕があまりない、というやつだ。
うん、俗に言うところの、『緊急事態』ってやつね。
「こちらミツハ、緊急事態の概要を述べよ!」
「陸路輸送隊が襲撃を受けた。現在、街道の前後を塞がれ、敵が接近中! 座標、CE257-321」
「了解、CE257-321、対応C-7!」
忘れないように、座標を殴り書きでメモし、直ちに転移。この位置なら、ウェンナール男爵領に入る少し手前、……つまり、他の貴族の領地だ。
自領で隣領への救援物資の輸送隊が襲われたなど、領主としては大恥だろう。だから、多分こっちが正当防衛で何をしても、領主から文句は出ないだろう。もし文句を言ってきたら、国中から袋叩きだ。上層部からも、……そして一般民衆からも。
対応C-7には、物産店チームは関係ないから、そっちは放置。そして……。
「対応C-7!」
待機室に出現すると同時に私がそう叫ぶと、 緊急出動(スクランブル) の待機番であった者達が、手にしていたカードをテーブルに投げ出して外へと駆けだした。仲間の命が懸かっているんだから、そりゃ急ぐか。
武器は既に、待機室の真ん前に駐めてある2台のクルマに積んである。そして勿論、即時待機の連中が完全装備状態でないはずがない。……そう、彼らは『プロ』なのだから……。
そして勿論、一番最後にクルマに飛び込んだのは、私だ。
車内に用意してあった、変装のためのウィッグを付けながら、叫んだ。
「転移!」
位置は、座標番号で分かる。そして輸送隊の移動ルートは以前航空偵察で上空を飛んだから、そのうちのどこかということが分かれば、問題ない。
最初の出現地点は、勿論誤差があるだろう。でも、視認範囲内でさえあれば、もう一度転移し直せば済むことだ。
そして……。
夕暮れ時で、暗くなりかけた街道の上に見える、輸送隊と盗賊らしき者達のシルエット。
「視認! 連続再転移!!」
地球、輸送隊の後方。
クルマを1台残して、地球、輸送隊の前方。
そして、スピーカー用のマイクを掴んで……。
『アピア!』
うん、やはり登場の時の叫びは、コレだよねぇ……。
どうやら賊は、自分達にも、そして獲物にも無駄な被害を出さずに済むよう、いきなり襲い掛かったりはせずに降伏勧告を行っていたらしい。なので、まだ輸送隊との間には少し距離があった。
まぁ、距離といっても、高々100メートルそこそこだけど。
それ以上近付くと、弓で射られるかもしれないからねぇ。
既に薄暗くなっているのと、クルマの出現は完全に無音、かつ一瞬のことなので、馬車の前に出現したクルマに、賊達は反応した様子はなかった。……いや、気付いたけれど反応できなかっただけかもしれないけれどね。目の錯覚か、とか思ったのかもしれないし。
『盗賊です、向こうからこちらへ、降伏勧告中。殲滅、支障なし!』
輸送隊の馬車から、携帯スピーカーが突き出されて、そう叫んできた。
ま、この距離で、時間がないのに無線機でちまちま連絡するよりは、その方が早いか。無線機の前にいる者だけでなく、全員に一度に伝わるし。
『了解!』
こっちも、スピーカーで返事をしておく。
別に返事をする必要はなかったけれど、同種のものでやりとりすれば、喋っている言葉は分からなくても、私達があの護衛役の者と仲間同士だということが分かって貰えるという利点があるからね。
そして、駄目押しに、今度はこっちの言葉で。
『崇高な任務を帯びし、敬虔なる我がしもべ達に 仇(あだ) 成(な) す者達よ。我が怒りを見よ!』
そして、車載スピーカー用のマイクを団員さんに渡し、全ての装備のスイッチを入れた。
頭の上の、光がぐるぐると廻る輪っか。
両肩からびよよんと延びた、次々と色が変わりながら光る、大きなお星様。
次々と異なるパターンで光る、首に掛けた怪しいペンダント。
そして左手に持った、光が走るステッキ。(女児向けの、魔法のステッキ。)
……そう、お祭りやら夜店やらでよく売っている、アレである。
いくつか用意してクルマに積んでおいた変装道具のうちの、夜間装備のひとつである。
その、怪しさ大爆発の恰好で、上部ハッチを開けて上半身を出した。飛んでくるかもしれない弓矢には、しっかり注意を払っている。
そして、ハッチのところにも設置してある車載スピーカー用のハンドマイクを掴んで……。
「5秒以内に武器を捨てて降伏すれば、命だけは助けてやろう。5、4、3、2……」
賊は、降伏する様子はない。
……というか、呆然として、思考が停止しているだけなのかもしれないけれど……。
でも、見逃せば、今後この連中によって、この輸送隊の帰路とか、次の輸送隊とか、他の商隊とか、乗合馬車とかが襲われるわけだ。これから先、ずっと……。
ならば、見逃すべきではない。
これが初犯というわけでもあるまいし、既にこいつらは凶悪殺人犯だ。
旧大陸とは違って、このあたりにはそんなに専業の盗賊が多いわけじゃないらしい。だから多分、こいつらは物資を奪おうとしているだけの、ただの農民……だった者達なのかもしれない。
でも、今はもう、ただの盗賊だ。たとえ兼業だったとしても、それは免罪符にはなり得ない。
専業だろうが兼業だろうが、襲われた方にとっては、何の変わりもありはしないのだから。
「……1、ゼロ!」
タタタタタタタ……
5.56ミリ車載軽機関銃の軽快な音が鳴り響き、バタバタと倒れる盗賊達。
銃を知らないわけじゃないだろうけど、奴らが知っているのは、球形弾を使用する、先込め式の単発銃だ。なので、奴らにとってこの軽機関銃は、日本人にとっての『UFOから掃射された、謎のビーム兵器』みたいなものだろう。
……そう、想像を超えた超兵器、ってことだ。
後方でも軽機関銃の発射音が響いている。こっちが警告を終えて撃ち始めたのだから、当然だ。
盗賊達は、算を乱して逃げ惑っている。
まぁ、ひとり残らず始末する必要はないだろう。今後盗賊団として機能できないくらい叩きのめし、輸送隊を襲おうとした者が辿る末路をこのあたりに広めてくれる広報員を何人か残しておけばいいか。
そして、輸送隊の者達の士気を高めるためと、逃げ延びることができた盗賊達が噂を広めてくれるよう、スピーカーで駄目押しの言葉を……。
『女神は、そなた達の行いをお喜びである。誇りを持って、その責務を果たすがよい!』
「「「「「「おおおおおおおおお!!」」」」」」
輸送隊の間から、大歓声が上がった。
当たり前である。
御使い様から伝えられた、女神からのお言葉。
そんなものを賜ることができる者が、この世界に、いったい何人いると?
これで、彼らは命を懸けて荷を守るだろう。
……うん、『死兵』の誕生だ。
役に立たない場所に無駄に配置された兵? それは『死に駒』だ。
死兵というのは、既に死んでいる兵のことではなく、死を恐れぬ兵のことだ。
国のため。仲間達のため。そして家族を守るため。
死兵を生む要因は色々とあるが、中でも一番タチが悪いもの。
……うん、それがこれ、『宗教絡み』のやつだ。
最悪だな、うん……。