作品タイトル不明
203 阿鼻叫喚 2
「どんな感じかな?」
「はい、入荷予定数、全て予約済みとなっています。そして、リストに載っていてお断りした数は12件、一応受注しましたが明らかに怪しいものが数件ございます」
うん、想定の範囲内だ。
「配達はこっちでやるから、大丈夫。怪しいのは、受注書にその旨記述しておいてね。調査するから」
「はい!」
うん、販売の窓口を、うちともレフィリア貿易とも関係のないところにしたのだ。
これで、この販売店やレフィリア貿易には化粧品の流通に関する権限がないから何を言っても無駄、しつこいところはブラックリストに載って、化粧品だけでなく、ヤマノ子爵領やレフィリア貿易に関連する全てのことにおいて大変なことに、ということを理解してくれるだろう。
勿論、配達は直接注文者の屋敷へ届けるから、他の者の名を騙って、というわけにはいかないし、数量制限を誤魔化すこともできない。
自分の家の分を他家に、と思っても、数量制限はその家の女性の人数に合わせるし、不自然なこと……一部の女性が化粧をしていない、とか……があれば、当然、数量の上限をそれに合わせて減らす。
そもそも、家長である主人はともかく、夫人や娘達が、自分の分を横流しされることを許すわけがない。そして、愛人達に強要される分を確保するのに必死で、とても横流しなどは考えられないであろう。
末娘の分を他家に売って、なんて苛めは許さないよ。そんなことをしたら、即、ブラックリスト入りだ。
情報収集は、僅かでも危険がある場合は『その道の人達』に。全く危険のないただの見張りとかは孤児達に依頼している。……そして一部は、手元不如意の『ソサエティー』メンバーにも依頼している。
うん、『ソサエティー』のメンバーは大半が伯爵家令嬢だけど、一部、侯爵家、子爵家、そして男爵家の令嬢もいるんだよねぇ。子爵以下が私ひとり、っていうのもアレだし、一応、『親の爵位や身分は関係ない』という建前だから。……勿論、それ以外にも『思惑』があってのことだけどね。
公爵家の令嬢は、パス。
王家との繋がりが大きいだろうし、みっちゃんより立場が上の者がいれば、絶対に主導権を取ろうとして揉め事になるからね。……そんなことをしても無駄なんだけど。
何をどうしようが、ヤマノ子爵家の全面協力なくしては存続できないんだからね、『ソサエティー』は。そして私がみっちゃんを見捨てて鞍替えすることなんか、あり得ない。
そういうわけで、噂話の収集や、貴族家令嬢の簡単な動静調査とかは、お小遣いが不足気味の下級貴族の令嬢がバイトとして引き受けてくれている。
ただのお金稼ぎ、というわけではなく、自分達の強力な武器である化粧品の統制のためだから、これは『ソサエティー』への貢献である、という名目が立つので、彼女達も使命感を持って堂々とやれるからね。
孤児達を使うのは、まぁ、アレだ……。
子供達には、お腹いっぱい食べさせなきゃね。そして、大きくなったら、私兵……、いやいや、レフィリア貿易のために働いて貰おう。
……ま、これで流通は概ねコントロールでき、そしてレフィリアが胃に穴を開けるということもないだろう。
私と違って、あの子にはこの国に対するしがらみが多いし、家族や、実家の商会、昔からのお友達等、無下にできない相手も多いだろうからねぇ。そっちを 突(つつ) かれると、苦しいだろうからねぇ……。
とにかくこれで、重要な戦略物資である『化粧品』については、一段落。あとは、『あっちの方』が顕在化するまで、サビーネちゃんにサービスするか。
最近、放置気味だからなぁ、サビーネちゃん……。しかも、コレットちゃんを連れてしょっちゅうどこかへ、というのが完全にバレているっぽい。そろそろ、爆弾マークが危険水準に膨れあがっているんじゃないかな……。
「ミツハ、そろそろサビーネちゃんが……」
おおぅ、さすが、野生児コレットちゃんだ! どうやら、危険の匂いに気付いたらしい。
じゃ、店主さんと別れて、視界外になったのを確認して、……転移!
* *
「陛下、いったいどうなっているのですか!!」
怒鳴りつけられる、ここ、ヴァネル王国の国王陛下。
勿論、国王陛下に対してそんなことができる者は、世界にひとりしかいない。
……そう、奥さん、つまり王妃殿下である。
「そうですよ! この責任を取ってください!」
「聞くところによると、全てお父様のせいだという話ではないですか!」
「……万死に値する……」
いや、もう3人いた。
3人の、王女殿下達である。
「王妃たる者が、こんなみっともない姿で皆の前に出ることなど、できようはずがありません!
あの、ヤマノ製の化粧品を使った、『ヤマノ式化粧術』を手に入れない限り、一切の行事には出席致しませんからね、絶対に!」
「「「私達もですわ!!」」」
王妃と、声を揃えてそう言う娘達に、頭を抱える国王。
王妃はともかく、3人の王女達が全員公式行事に出ないというのは、マズい。マズすぎる。
皆、そろそろ嫁ぎ先を決めなければならない年齢である。
……特に、第一王女は、やや『危険域』に近付きかけている。相手方に、身分と財産だけでなく『若さと美貌、優しさとカッコ良さ』を求めるという我が儘をどうしても取り下げないため、こんなことになってしまったのである。『カッコ良さ』はともかく、『若さと美貌、優しさ』とかは、男の方が女性に対して求めるものであり、決して女性が男性に対して求めるべきものではないというのに……。
そう思いはしても、王妃と王女達が言うことも理解できる、いや、『理解できてしまう』、国王であった。
何度かパーティーで見た、あの、『ソサエティー』に加入しているという噂の令嬢と、その姉妹、そして母親達。
以前見た者と同一人物とはとても思えない……、いや、顔の作りとかは、別に変わってはいない。しかし、明らかに、立ち上るオーラが違っていた。
男性達にとっては嬉しいことであろうが、しかし、その隣に立つ他の女性達にとっては、それはまさに地獄そのものであろう……。
「とにかく、何とかしていただけるまで、陛下とはお会い致しません!」
「私もですわ!」
「私もです!」
「……会いたければ、1回につき金貨1枚……」
第三王女だけ、何だか少しおかしかった。
ミツハと気が合いそうである。……何となく……。
そして、王妃達は去っていった……。
「どうしろと言うのだああああぁ~~!!」
敵対国には非情であるが、妻子には甘々の国王は、頭を抱えて椅子に沈み込んだ。
「……助けろ、宰相!」
「と言われましても……」
いい方法があるならば、とっくに奏上している。
それに、ブラックリストとやらに載ってしまい化粧品を買えなくなってしまったのは、王妃殿下や第一・第二王女殿下達がレフィリア貿易に対し強硬な文面の書簡を送ったせいであるらしく、自業自得だと聞いているため、宰相もあまり親身になるつもりはないようであった。
第三王女殿下だけは、そのような書簡を送ったわけではなく、ただ母親や姉に巻き込まれただけの被害者のようであったが、運が悪かったと思うしかないであろう……。
そして、それぞれが暗躍し、もしくは苦悶する中、 刻(とき) は流れるのであった……。
* *
「ミツハさん、ウェンナール男爵領が、限界のようです」
「きた! キタキタキタキタ~~!!」
レフィリアからの報告に、跳び上がって喜ぶミツハ。
「レフィリア貿易とは直接の取引はありませんから、うちには影響ないのですが……、本当に良いのですか、あの計画で……」
心配そうなレフィリアに、にやりと笑うミツハ。
「うん、今回は別にお金を儲けようって話じゃないからね。儲けたお金は、貯め込むだけじゃなくて、市場に還元しなきゃね!」
そう言うミツハであったが、レフィリアは、あれだけミツハに心酔しているにもかかわらず、その言葉を欠片も信じてはいなかった。
……そう、レフィリアも、既に一人前の商人なのであった……。