軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

185 反 撃 1

「……どういうことかな?」

多分、今、私のコメカミには青筋が浮いている。

「いや、別に、レフィリアに対して怒っているわけじゃないから。何があったのか、最初から説明して」

私の不機嫌さにビビって、レフィリアが萎縮してしまっている。なので、私の怒りは他の者に対するものだと言って、なんとかレフィリアを落ち着かせた。そしてレフィリアから聞き出した話の内容は……。

2日前の夜中に賊が侵入、倉庫にあった在庫を根こそぎ奪われた、と……。

「人的被害は?」

「あ、賊は20人くらいで、そのうちの半数は剣や槍で武装していたそうです。そのため、警備の者達に勝ち目はなく、そして賊が全員覆面で顔を隠していましたから、そういう場合の指示通り、抵抗せずに降参しました。なので、殴られたりはしましたが、骨折1名、打撲3名で、死者や後遺症が残るような重傷者は出ていません」

よし、不幸中の幸いだ。

いくら人間の命が安い世界だとはいえ、そして商会の正規従業員ではないただの警備員だとはいえ、自分が関係する商会のために働いていた人が、人生を棒に振るような理不尽な目に遭うことは看過できない。重傷も、……そして、死も。

もし賊が覆面をせず顔を剥き出しにしていた場合は、また判断が微妙になるけれど、顔を隠しているということは、すなわち『余計な殺しをするつもりはない』ということなので、そういう場合には、抵抗せずに降参するよう指導してある。

……もし皆殺しにするつもりなら、わざわざ顔を隠す手間を掛けたりしないよね。覆面は呼吸しにくかったり、視野が少し狭くなったりと、戦うにも作業するにも邪魔になるだけなんだから。

目撃者はいない方がいいだろうけど、人を傷付けず盗みを働いただけの場合と、警備員を皆殺しにしての強盗殺人では、警吏の追及の度合いが段違いだし、捕まった場合の刑罰もまた、大違いだ。

これで更に、証拠隠滅のために逃げる時に放火でもしようものなら、アレである。

……火付盗賊 改(あらため) 方(かた) 、鬼の平蔵の出番である。……日本であれば。

この国でも、おそらくそれに相当する連中が 出張(でば) るに違いない。そしてそれは、賊達の死を意味するだろう。絞首刑か斬首刑かは知らないけれど……。

ま、賊と警備員、みんな死ぬより、みんな生き残った方がいいだろう。Win-Winの関係、というやつだ。……ちょっと違うような気もするが。

レフィリア貿易自体には、今回の件は致命傷というようなものではない。

日本の書店が1冊の本を万引き……いや、軽い言葉で犯罪行為を矮小化しちゃダメだな。盗み、窃盗常習犯、犯罪者……の被害に遭った場合、書籍販売は利益率が2割だから、仕入れ原価を回収するためには4冊売らなきゃならない。

そして頑張って4冊売っても、仕入れ原価が回収されるだけ。本当ならば得られたはずの5冊分の利益が、ゼロ。家賃や光熱費、人件費等を考えれば、大赤字だ。店が潰れちゃう。

でも、レフィリア貿易が扱っている品は、もっと利益率が高い。そして、それ以前に、今回の損害を被ることはない。……倉庫の修理費以外は。

うん、勿論、警備員に鍵を持たせるような馬鹿じゃない。

賊に脅されたり奪われたりして簡単に扉を開けられちゃうし、そもそも、警備員自身が平気で中抜きするような世界だからね。

……まぁ、本当は、真面目な警備員が鍵を奪われまいと抵抗して殺されるのを防ぐためなんだけどね。最初から鍵を持ってさえいなければ、無用な被害が防げる。

その代償として、鉄製のものに換えて強化した扉ではなく壁をぶち抜かれて修理費がかかることになったけれど、人命に較べれば、安いものだ。

「よし、想定Cの3と判定。対処は、K」

想定表には、地球のアルファベットを使った。レフィリアには馴染みがない文字だけど、記号の一種として認識して貰っている。

なぜアルファベットを使ったか? ……その方が、ここでは暗号っぽくて、カッコいいから!

「え……」

そしてレフィリアが、驚いたような声を漏らした。

うん、想定Cというのは、武力攻撃、と言うか、実力行使を受けた場合。

その中の3番は、敵の想定が、国や貴族が持つ正規の軍ではなく、誰かが雇った傭兵や犯罪者の類いだということ。……つまり、貴族か商人が身バレを避けて人を雇った、というような場合だ。

……そして、対処の『K』。

別に、『KILL』のK、ってわけじゃないよ。

想定表で、自衛を表す文字、『 J(ジェイ) 』。

アルファベットで、その横にある文字、K。

J、 自衛(じえい) の 側(サイド) 。

…… 自衛(じえい) の 側(サイド) ……。

うん、『ジェイノサイド』だ。

さぁ、ペンペン草も生えないような焦土になるのは、どこかなぁ?

「対処Kだから、 ヤマノ家(うち) が正面から全力攻撃するよ。レフィリアは、各商家に対してうちに都合のいい情報をリークして、世論誘導と敵の孤立化を!」

「はっ!」

……どうして軍隊式の敬礼をするかなぁ、レフィリア……。

* *

「聞いたか、ヤマノ子爵の荷が賊に襲われて奪われたという話……」

「ああ。しかも、輸送中ではなく、ここ王都で、警備員付きの倉庫が襲われたとか……」

「王都で、他国の貴族が賊の被害に遭うなど、王都警備兵の……、いや、陛下の 面子(めんつ) 、丸潰れじゃないか! こりゃ、大掛かりな捜査が始まるぞ……」

兵士達の間で。

「何だと! ヤマノ子爵の倉庫が襲われただと! どこの馬鹿が子爵に手出ししたのだ、すぐに調べろ!」

「まずいぞ、今、こんなことになれば、子爵が本当に我が国を見限って他国に拠点を移しかねんぞ!

とにかく、賊と、黒幕が誰かを早急に調査するのが先決だ! 警備隊なんかに任せてはおけんぞ、我々で独自に調査せねば!!」

貴族や大商人達の間で。

「ばっ、馬鹿な! どうしてそのようなことに……」

国王の執務室で。

「ど、どういうことだ! 襲ったのは、レフィリア貿易の倉庫だろう! ヤマノ子爵からレフィリア貿易が購入した荷が奪われたところで、被害に遭ったのはレフィリア貿易であり、ヤマノ子爵家には関係ないだろう!

ぽっと出の新米商人が、不幸にも賊に襲われて仕入れた高額商品を全て失い、破産。そして商品の納入先を失ったヤマノ子爵家に、我がドレートル商会が素早く取引を持ち掛け、販売ルートを引き継ぐ。

奪った商品は、ヤマノ子爵家から仕入れた商品に紛れさせて売れば、うちが売っても怪しまれることはない。

そういう計画だったのに、どうして荷を奪われたのがレフィリア貿易ではなく、ヤマノ子爵ということになっておるのだ!!」

……そして、とある商会の商会主の部屋で。

「はい、どうやらヤマノ子爵家とレフィリア貿易は掛け売りをしているらしく、レフィリア貿易の倉庫に商品が入った時点では、まだ支払いが行われていないため、商品の所有権はヤマノ子爵家のままなのだそうです。そして、まだ代金の支払いも商品の販売もされる前の段階で奪われたため、被害者はレフィリア貿易ではなく、ヤマノ子爵だそうで……」

「ばっ、馬鹿な! そんな『掛け売り』があるものか!!」

「……そうおっしゃられましても、ヤマノ子爵家とレフィリア貿易の間では、そういう条件で契約している、ということですので……。

なので、被害届はレフィリア貿易とヤマノ子爵家の両方から出されており、警備員が負傷していることから、『盗み』ではなく『押し込み強盗による強奪と殺人未遂事件』として捜査されているようです。

また、子爵からの陳情書により、警吏だけでなく王都警備軍、そしてなぜか近衛の一部も動いているようで……。

更に、各貴族の護衛や雇われ者、商家の子飼いの連中までが、こそこそと嗅ぎ回っている様子でして……」

「…………」

完全に、全方位からの集中攻撃である。

「これでは、混ぜ物をして増量、品質を落として『他のルートから仕入れた品である』ということにしても……」

「一発アウトでしょう」

「密かに運び出し、他国へ売るというのも……」

「輸送業者は完全に見張られていますし、近隣諸国の市場も監視されているでしょう。それ以前に、王都から運び出される荷は徹底的に調べられているようですし……」

「くそっ、どうしてこんなことに……。

まぁいい、さすがに、何の証拠もなく商家の倉庫に立ち入って調査するようなことはできまい。そんな前例を作ることを、商業組合が許すわけがないからな。ここはおとなしく、ほとぼりが冷めるのを待つしかないか……」

そういう結論に落ち着いた商会主であるが、勿論、世の中、いや、ヤマノ子爵はそんなに甘くはなかった……。