軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

184 洋裁工房

あれから、追撃の手紙は来ない。どうやら、手詰まりらしいね。ふはは……。

中学生の頃、『すくいのミツハ』とか、『真綿のミツハ』とか呼ばれていたのは、伊達じゃないよ。

うん、『救い』じゃないし、真綿のようにふわふわしていたり、純白だったり、というわけじゃない。

すくうのは、『足』。そして、『真綿で首を絞めるように』という意味の、『真綿』。

……うるさいわ!

あ、『真綿』というのは、アオイ科ワタ属の、つまり植物から採れる綿のことじゃないよ。蚕の繭のうち、絹にするには少し問題がある不良品から作られたものが、『真綿』。だから、『真綿色した~』とか言うと、それは、 絹(シルク) のように純白な、って意味になる。

紛らわしいよねぇ……。

よし、お隣の警備隊詰所に差し入れをして、『また、暫く家を空ける』と言って根回しもしたし、レフィリア貿易への商品の補充とうちが買い取るものの引き取り以外は、こっちはしばらく放置!

* *

そして、領地経営である!

今の私は、自分自身の安全と幸せと金貨の次に考えなければならないのは、大切な人達の安全と幸せである。

……で、サビーネちゃんは、私なんかよりも遥かに安全で幸せでお金持ちだから、必然的に、私の担当から外れる。なので、私が守るのは、コレットちゃんを始めとするヤマノ子爵家の家臣や使用人達、そして領民のみんなである。

勿論、『守る』というのは、魔物や外敵からの、いわゆる物理的な『護る』という意味だけではなく、健康を、幸せを、そして豊かな生活を『守る』ということだ。

そして、そのために立ち上げたのが、ここ、洋裁工房である!

科学的に、洋裁の研究を行い、製作する。

……科学洋裁研究所。

って、うるさいわ!

勿論、養蚕どころか、桑の栽培も、製糸も、織り機も、何も準備できていない。だから、地球で買い込んだ布地で洋裁を行う。それも、最初は失敗の連続だろうから、安い木綿生地で。

出来た衣服は、領民用に格安販売と、王都の孤児達に無料配布だ。

あ、ネットで、凄いのを見つけた。

な、何と、昔ながらの、木製のつむぎ車、機織り機を売ってるお店ががが!

探せば、あるもんだなぁ……。

しかも、羊毛、染料とかも各種揃っていて、おまけに講習会まで開いてる。そして、何とそれが、日本のお店だ。

ふぅん、本物のつむぎ車や織り機って、あんなんだ……。

木製だし、これなら、いくつかサンプルを買えば作れそうだ。若干性能が悪くなるだろうけど。

製造に特許とかがあるかも知れないけれど、そこは勘弁してね。日本の法律どころか、国際法も届かない場所なんだから。……少しは売り上げに貢献するからさ。

しかし、このお店がやっている講習会、私が出るしかないよねぇ。言葉の問題で……。

ま、面白そうだから、いいや! 新大陸の方も、少し手が離れたし。

数セット購入して、練習を始めさせようかな。工房のつむぎ・機織り部門のスタート時は、全部ここで購入したものになりそうだなぁ。自力製作は、かなり先になりそうだから。

一度に30台とか50台とか注文して、すぐに納入できるのかな。

というわけで、洋裁部門、スタート!

洋裁から始まって、機織り、製糸、養蚕と 遡(さかのぼ) る。

富岡製糸場設立の立役者、深谷の三偉人が助走つけて殴りかかってきそうだな……。

最初は、この世界でのやり方で、自由に作らせよう。それを店長さんに見せて、全てはそれからだ。店長さんも、何もない段階では、アドバイスのしようもないだろう。今の技術、今の状態を見せて、まずはスタート地点に立たないとね。

で、洋裁職人の募集を掛けると、……来た。来た来た来た来た。大量に来たよ。どうすんだよ、これ……。

町の女性だけでなく、農村、山村、漁村、全ての村々から希望者殺到。

まぁ、それらの村での厳しい肉体労働に較べて、室内でお上品に仕事ができて、しかも技術が身に付けば王都のお店で雇って貰えたり、自分で店を持ったり、とか、色々と頭がお花畑になっちゃったんだろうなぁ……。

世の中、そんなに甘くはないよ。

いや、こんな小娘に言われたくはないだろうけど……。

あ、誕生日が過ぎたから、19歳になったよ。みんなには内緒にしてるけど。

……誕生日、とか言うと、絶対に『何歳の』という話が出るに決まってるし、ボーゼス伯爵とかが、『大々的にパーティーを』とか言い出すに決まってる。この年になって、そういうのはいいよ、もう。

とにかく、ブラック企業にするつもりはないけれど、どの仕事にも、それなりの苦労はあるんだ。他の仕事とあまり大きな格差を作るわけにもいかないし。

ま、私が始める事業には是非参加したい、と思わせる程度には好条件にするか……。

* *

「アピア!」

怪しげなポーズを付けて、転移で出現。

うん、最近の、マイブームだ。

私は、マイブームになると、1週間カレーを作り続けたり、同じお菓子ばかり延々と買い続けたりする。……そして、暫く経って飽きると、次に移るのである。

そして今は、転移で出現する時の決めポーズと決め台詞に凝っている。

今回、ポーズはアンドロー梅田をリスペクトしたものである。決め台詞は、冒険さん。

いや、誰の眼にも触れないんだけどね。

というか、誰にも見られないからこそ、好きにやれるわけで……。

今回転移したのは、新大陸の、レフィリア貿易の倉庫の近く。時刻は、勿論深夜。

人目に触れないところに転移して、そっと倉庫が無人であることを確認してから、補充物資を転送する。いつものお仕事だ。

そして、倉庫に近付くと……。

「なんじゃこりゃあ~!!」

勿論、今日の私の恰好は、ジーパンを 穿(は) いている。誰にも見られずに転送作業をするだけなので、ドレスとかを着ているはずがない。

そして、なぜ、私が殉職した刑事のような叫び声を上げたかと言うと。

……そう、それは、レフィリア貿易の倉庫に大穴が空いており、その中が空っぽになっていたからである。

「……帰ろう」

今は、深夜である。

そして、倉庫の周りは、少し片付けた様子がある。

つまり、ついさっきこうなったわけではなく、レフィリア貿易の者はこのことを既に知っており、対処に努めているということだ。

ならば、深夜にレフィリア達を叩き起こす意味はない。昼間、これの対処で疲れ果てたであろうレフィリアは、ゆっくり休ませてあげよう。

……全ては、明日だ。

ふは。

ふはは。

ふはははははは……。

山野一族の、怒りを見よ!