軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

157 捜 索 5

『左に4度! イーラスは近いぞ!』

「「「「「「おおおおお~~っっ!!」」」」」」

遭難船と救難艦隊の 会合(ランデブー) の日、イーラスに顔を出した後、私はマストの『見張り台じゃないところ』に居座っていた。

ま、転移で移動したから、別に死ぬ思いでよじ登ったわけじゃない。

なぜ見張り台じゃないかといえば、やはり、第一発見者は救難艦隊の者がふさわしいからだ。その方が、感動も大きいだろう。御使い様が発見して、ばんざ~い、もないだろうからね。

針路の修正値は、哨戒機から無線で知らせてくる。そして、最後の針路修正からしばらく経って……。

日没を過ぎ、辺りは既にかなり暗くなっている。

そして、その時、空に輝く光が現れた。

「何だ、あれは!」

「女神の光か?」

そう、あれは女神の光。その名を、『 吊光(ちょうこう) 投弾(とうだん) 』と言う。航空機から投下され、パラシュートによってゆっくりと降下するタイプの照明弾だ。そしてその光を後方から受けて、闇の中に浮かび上がった、その姿は……。

「イーラスだ! イーラス、発見!!」

見張り台から、喉も張り裂けんばかりの叫び声が上がり、その声は甲板中に届いた。

「「「「「「おおおおおおお!!」」」」」」

「「「「「「ばんざ~い! ばんざ~い! 女神様、ばんざ~い!!」」」」」」

よし、撤収だ!

美味しいところで姿を消すのが、 御使い(しゅくじょ) の 嗜(たしな) み。

その方が、最後まで出しゃばるよりも、女神の使いっぽくて効果的だ。

乗組員達が、ついさっきまで帆桁の上に腰掛けていたはずの御使い様の方に眼を向けると、そこには誰もおらず、ただ風にはためく帆があるばかり……。

うん、これだよ、これ!

よし、転移!

* *

暗闇の中、 灯(あか) りがともされ、移乗作業が続けられる。

人間だけでなく、航海日誌、金庫の中身等、重要なものが運び出され、救難艦隊の旗艦へと移される。イーラスの乗員を他の2艦へ振り分けるのは、夜が明けて明るくなってからである。とりあえず今は、安全な旗艦に全ての乗員を移すのが先決であった。

「イーラスの状態はどうかね?」

「は、 竜骨(キール) には異状ありませんが、その他の部分は損傷が激しく、修理するには新造と同じくらいの予算が必要かと……」

「そうか。元々、曳航するのは難しかったのだ。放棄、ということで決定だな。自沈処分とするか……」

救難艦隊の艦隊司令がそう言うと、イーラスの艦長が首を横に振った。

「いえ、その必要はありません。イーラスの行き先は、既に決まっております。彼女は、新たな主の許へと旅立ち、永遠の航海へと出航致します……」

「何? 君はいったい、何を言っておるのかね?」

艦隊司令の言葉をスルーして、乗員達の移乗が終わったのを確認したイーラスの艦長は、船尾楼から出て、大事に懐に収めていたものを取り出した。

そして何やら少し操作した後、それを右手で握り、高く空に向けて突き出した。

ぱぁん!

空に向けて撃ち出された、オレンジ色の光。

「な、何だ、それは!」

艦隊司令の驚きの声をスルーし、イーラスの艦長が空を見詰めていると、空に次々と輝く光の玉が現れた。イーラス発見時と同じものである。

そして艦長が、その光に照らされたイーラスの船尾楼に眼をやると……。

「おお! おおおおお……」

その船尾楼の屋根の部分に、ちょこんと座ったふたつの小さな人影。

片方は、先程使った御神器を渡して下さった、御使い様の 華奢(きゃしゃ) なお姿。

そしてもう片方は、可愛い服装なのに、ボロボロで、左腕を布で吊り、両足に包帯を巻いた、10歳前後の活発そうな少女。その少女が、笑顔で右手を振っている。力いっぱい……。

「「「「「「おおおおおおお! イーラス! イーラスうぅぅ~~!!」」」」」」

甲板上のイーラス乗員が、歓声を上げた。

そう、何も説明されなくとも、皆には分かっていた。あの幼い少女が、『イーラス』なのだと。『イーラス』の魂であるのだということが……。

「「「「「「イーラス! イーラス! イーラス!」」」」」」

そして、叫ぶイーラスの乗員達と、呆然として見詰める救難艦隊の乗員達の前で、イーラスはその姿を消した。船の魂も、そして本体である、マストを失った巨大な船体も……。

「……女神様の許へと旅立ったのです。我が国のために戦い、そして乗員達を護るために嵐と戦い、その使命を最後まで 全(まっと) うしたイーラスに、女神様が御慈悲をお与え下さり、御自分の御座船、 御(お) 召艦(めしかん) として……」

それは、如何なる栄誉であろうか。

艦長を務めた者として。そして船の魂にとって、それは、如何なる喜びであろうか……。

救難艦隊司令は、自分の両頬に涙が流れているのを自覚していた。

しかし、大の男が人前で涙を流すことが恥ずかしいなどとは、これっぽっちも思っていなかった。

今、涙せずして、いつ男が涙を流すというのか。

それに、今涙を流していない者など、少なくともこの半径数十 海里(マイル) には、ひとりもいないであろう……。

そして、 暫(しば) し感動の余韻に 浸(ひた) った後、艦隊は帆を揚げ、帰路に就くのであった。港を出港した時の重苦しい表情とは一変した、喜びに満ちた顔で。

イーラスの艦長は、御使い様から賜った御神器がいつの間にか手の中から消え失せているのに気付いたが、それを不思議に思うことはなかった。『神から貸し与えられた御神器が、役目を終えた後、消え去る』。何の不思議もありはしない。神話においては、よくあることであった。

* *

「やった! 大破してはいるけれど、新鋭40門艦、ゲットだぜ!」

ぱぁん!

そう言って、コレットちゃんとハイタッチ。

「コレットちゃん、お疲れ様!」

「いや、何かよく分からなかったけど、面白かったよ! こういうのなら、いつでも呼んでね!」

ボロボロの恰好で、包帯を巻いたり腕を吊ったりしたコレットちゃんが、にぱっと笑ってそう言った。確かに、コレットちゃんにとっては楽しかったかも知れない。

前もって手配しておいた漁村の人達が、イーラスを曳航するために漁船でこちらへ向かっている。あまり桟橋に近いところへ転移すると、イーラスの出現により発生した波が漁村を襲うため、少し沖合に出現させたのである。

今は干潮だから、これから満ち潮になる。そして、うまい具合に、風は陸に向かって吹いている。更に、夜が明けてからは、陸地が日射で温められて、海側から陸側に向けての風が吹く確率が高い。何とか桟橋に移動させることができるだろう。

まぁ、もし風向きが変わって沖合に流されたら、また私が転移させて移動させれば済むことだ。今度は、伯爵領の港の方へ転移させれば、人手も曳航するための漁船も充分足りるだろう。

今回のことは、何百人もの船乗りを助けたい、という気持ちも、勿論あった。でも、新鋭の40門艦を 無料(ただ) で入手できるかも知れない、絶好の機会だったんだよね。

みんなに感謝されて、無料で新鋭艦ゲット! いいことずくめである!

拿捕艦は、同じ40門艦だけど、あれは、初めて40門艦が建造された頃の、当時の『最大の主力軍艦』だった船だ。なので、今では廃艦寸前の老朽艦。だから、失われても惜しくない船として、奴隷商人の無謀な探検に貸与されたらしい。

それに対して、今回手に入れたイーラスは、比較的新しい船だ。

何も、海軍は最大の戦艦ばかりを建造するわけじゃない。巡洋艦や、駆逐艦も必要だ。なので、64門艦を造れるようになった技術力で建造された、新鋭の40門艦。これは、うちの建艦において、参考になるはずだ。

修理には、新造並みの手間がかかるらしいけど、うちにとっちゃあ、いい勉強になるだろうから、それも悪くはないだろう。

とにかく、ボーゼス伯爵様のところに引き渡して、研究と修理だ。

……但し、王様達との交渉が終わってからね。イーラスをいくらで買い取って貰うかの。

うん、慈善事業やってるわけじゃないからね、私は。

これでも、ヤマノ子爵領の領主なんだから、領地のために稼がなくちゃならないんだ。領地開発のためには、鉱物資源の調査とか、漁船の建造とか、色々とお金をかけたいことがたくさんあるんだよ。できれば、兵役期間の者にも、少しくらいは手当を出してあげたいし……。

うん、この世は、銭ズラ!

あ、どうしてコレットちゃんに『イーラス』の 船魂(ふなだま) の役をやらせたか?

うん、あの方が船乗り達の間に女神様の話が伝わるのに強烈なインパクトが与えられると思ったし、船に魂があると思わせれば、みんな船を大事にして、簡単に廃艦にはしづらくなると思ったんだよね。

そうすれば、新造艦を造るペースが落ちて、船の性能が上がるのが遅れる。

船は、維持するのに膨大なお金がかかるから、どんどん保有隻数を増やせばいい、ってもんじゃないからね。

うむうむ、順調である。計画通り……。

さて、では、救難艦隊の上空を旋回している対潜哨戒機に戻るとするか。

……転移!