軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

142 作戦方針

作戦方針を決めよう。

この前の海軍派閥のパーティーで、大分情報が集まった。なので、そろそろ基本方針というか、作戦方針を立てよう。

今までは、情報を集めるのを目的として、ただ色々なことを調べて廻っただけだ。私が意図を持って何かを働きかけたりはしなかった。

でも、そろそろ方向性を決めなくちゃ。

まず、第一優先は、私とヤマノ子爵領のみんなの安全。第二優先が、ボーゼス家や国のみんな、そして協定告知の旅で知り合ったみんなの安全。第三優先が、新大陸で知り合った人達の安全。

うん、旧大陸の見知らぬ人々より、新大陸のお友達の方が大事だ。

そして困るのが、新大陸のヴァネル王国の基本方針が、『新たな大陸の発見と、そこからの搾取』らしいということだ。そう、うちの国がある旧大陸が発見されたら、侵略か搾取が行われ、第一、第二、第三の優先事項が対立し、競合しかねないってことだ。

う~ん……。

やっぱり、暗躍しかないかなぁ。

明らかに自国より文明が劣り、簡単に属国化して搾取できそうな国を発見して、対等な条約を結ぼうとする施政者なんかいやしないだろう。少なくとも、今のこの世界には。

もしそういう奇特な政治家がいたとしても、その意見を表明した瞬間、他の政治家や貴族、商人、そして国民達に袋叩きにされて、失脚間違いなしだ。

だから、そういう政治家を後押ししたり、そういう勢力を助長して、なんていうのは無理。意味なし。ヤマもオチもない。

……結局、『手出しすると、痛い目に遭って、大損するぞ』と骨身に 沁(し) みさせるしかないだろう。つまり、交戦は避けられない、ってことだ。だから私が目指すのは、その時になるべく双方に多くの死者が出ないようにすることと、敗者側があまり悲惨なことにならないこと、だ。

……つまり、うちの国を勝たせる、ってことだね。

うちの国が勝っても、とても海を渡って新大陸を侵略するほどの力はないだろう。敵を撥ね返して、お終い。せいぜいが、賠償金と捕虜の身代金を要求する程度だろう。そして負けた場合は、金銀財宝を奪われて、国民を奴隷として連れ去られて、永遠に属国としての搾取が続く。そりゃ、負けるわけにはいかないよね。

なので、戦いの未然阻止、なんてのは不可能。そんなの、小娘ひとりの力どころか、うちの王様にだって、いや、敵国ヴァネル王国の国王にだって無理だろう。

だから、艦隊戦は不可避。

その頃には、戦列艦クラスのガレオン船による、単縦陣での砲撃戦が戦術の主流になってるかな。それとも、その前段階の状態か……。

まぁ、ともかく、艦隊戦には大きな利点がある。

それは、『民間人を巻き込まない』ということだ。軍人は、戦死のリスクは承知で就いた職業なんだから、文句は言わないよね。だって、相手を殺すためにわざわざ遠くから 出張(でば) ってきておいて、返り討ちに遭ったからって文句言ったりする資格はないよねぇ。

強制徴募に遭った水夫? いや、脱走もせずに戦場にやってきた時点で、アウト! 敵に情けをかけられるのは、それだけの余裕がある者と、馬鹿だけだよ。

というわけで、パーティーで知り合いになった偉い人達から聞き出すのは、艦隊戦で大敗を喫した後で和平に傾きそうな人を見分けるための情報と、その人達に取り入るための切っ掛けにできるようなヒント。なので当然、狙い目は海軍系の上級貴族だ。

貴族じゃない軍人は、多少階級が上でも政治的な発言力がないだろうから、まぁ、副次的なものとして……。

よし、『何でもいいから、とにかく橋頭堡を築く』という、第一段階はクリア!

これからは、目的を決めての情報収集だ!

* *

「……興味深いな……」

時間をずらして呼び出した、侯爵家と伯爵家。持参させたペンダントとネックレスを鑑定させた結果は、驚くべきものであった。

「どちらも国宝級、いや、それ以上とはな……」

大国を自認するヴァネル王国の超一流鑑定士数人が、口を揃えてそう言ったのである。国王である自分も、それを認めざるを得ない。

勿論、国王が貴族の、それもその子供が友人から友情の 証(あかし) として贈られたものを取り上げることなど、できるはずがない。そんなことをすれば、非難の的となり一挙に人望を失ってしまうだろう。なので、鑑定させて貰っただけで、その場で返却している。

「どう思う?」

「は、自国で産出したものなのか、それとも他国で買い求めたものかは分かりませんが、どちらにしましても同じことかと……」

国王は、宰相の言葉に頷いた。

「子供に国宝級の宝石をいくつも与え、そして子供がそれを簡単に初対面の者にくれてやる。ならば、その親はどんな宝石を、どれだけ持っているというのだ……」

国王は、宰相に命じた。

「何としても、その娘の母国を突き止めろ。但し、手荒なことは絶対にするな。あくまでも友好的に、だ。そして娘が借りている建物に見張りを付けて、訪れた者のうち身元がはっきりしない者全てに尾行を付けろ。勿論、娘が出掛ける時には複数の尾行を付けろ。そのうち母国からの連絡員と接触するだろうからな。

それと、娘が出るパーティーにはできる限り多くの配下をもぐり込ませろ。聞き耳を立てていれば、失言や、思わず母国語を漏らすこともあるだろう。

どこの国かということさえ分かれば、あとは簡単だ。

交易、政治的圧力、武力行使。いずれの手段を取るにしても、我々が莫大な財宝を手に入れることに変わりはない。ま、穏便な手段で済めば、それに越したことはないがな……」

* *

「あれから何日経ったと思っている! どうして何も報告せぬ!」

「そ、それが、報告できるような情報が無く……」

国王に問い詰められても、宰相にはそれ以外に答えようがなかった。

「娘が開いた店に来る客は我が国の者ばかりで、全員、背後関係は何もありませんでした。客以外に訪ねてくる者はおらず、娘が出掛ける先は、商店での買い物か貴族の屋敷を訪問するくらいです。あとは、銀行に寄るくらいで……。そして、店を閉めたまま何日も閉じ籠もっていたりと……」

「パーティーでの情報収集はどうした!」

「は、誘導質問には引っ掛からず、どうしても母国語や地名を喋ることになるよう誘導した場合は、我々の知らない言葉を喋りました。『かながわけん』とか、『てれび』とか……。

いくつかの国では地域ごとに複数の言語が使われておりますし、聖職者や王族の間でのみ使われる言語とかもありますから、我が国と交流のある国であっても、我々が知らない言語はたくさんあります」

こうしていても、 埓(らち) があかない。

国王は、遂に痺れを切らせて宰相に命じた。

「……次に娘が出るパーティーの出席者に、ウォンレード伯爵とエフレッド子爵の名をねじ込め! どの派閥のパーティーであっても構わぬ!」

「え? いえ、それは……」

宰相が驚きに眼を剥いたが、国王はそれを意にも介さずに命じた。

「いいから、言われた通りにせよ!」

国王にそうまで言われては、これ以上反論するわけにはいかない。宰相には、もはやこう答えるしかなかった。

「わ、分かりました……」

ウォンレード伯爵とエフレッド子爵。

それは、王族が複数持つ爵位のうちのふたつであった。

王族が、本来は王族が出るべきではない場へ出たい時。王族としての立場ではなく、普通に一般参加者として出席したい時。そういう時に使う、お忍び用の爵位である。

お忍びとはいっても、勿論、貴族達は皆それを知っているから、別に変装して他人の振り、とかをやるわけではない。そもそも、貴族にとって、国内に自分が知らない貴族などいるはずがないし、王族の顔を知らないはずがないのだから、別人の振りなどできるわけがない。

みんなが正体を知っているけれど、その爵位を名乗っている時には、王族ではなくその爵位の貴族として扱う。それが暗黙の了解事項なのであった。

……勿論、だからといって格下の貴族扱いをするような無礼を働くわけではない。そのあたりは、常識の範疇であった。

そして、『ウォンレード伯爵』は国王の、そして『エフレッド子爵』は王太子が持つ爵位のうちのひとつであった。