軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

122 魔物討伐 4

「『渡り』で戻ります」

「「「「え……」」」」

私の言葉に、眼を剥く伯爵家御一同。

まぁ、私の生命力が、って設定があるから、当然か。でも、ここは。

「私達の甘い考えで、みなさんを危険に晒し、護衛の方達に怪我をさせてしまいました。この状態で、何時間も歩かせるわけにはいきません。ボーゼス邸まで『渡り』で戻ります。猟師さんは、その後でコレット村までお送りします」

「だからミツハ、あの村はそんな名前じゃ……」

コレットちゃんの抗議は、スルー。何度も言い続けていれば、そのうち定着するに違いない。継続は力なり。

しかし、さすがに戦いの間は、コレットちゃんもサビーネちゃんもおとなしくしていたなぁ。

というか、固まって何もできなかった、というのが正しいか。……私もだけど。

非力ながらも、拳銃でオーガの顔目掛けて撃てば、少しは牽制になったかも知れない。うまく腕の間から頭部に命中すれば、倒せるか、悪くても眼を潰すことくらいはできたかも知れない。

でも、駄目だった。

もう、全く動けなかったよ。

古竜の時には、ちゃんと撃てたのに……。

古竜は、知性があった。聞くところによると、この世界の人間よりも知性が高いそうだ。だからか知らないけれど、何か、人間と交渉しているような、安心感のようなものがあった。相手はこっちを虫けらみたいに考えていて、平気で殺しにかかるような生物だったにも拘わらず。

それに対して、オーガは全くの獣だ。凶暴な、暴力と欲望の塊。そのあまりにも生々しい死の匂いに、身体が硬直して、動けなかった。おそらく、サビーネちゃんとコレットちゃんもそうなのだろう。離れたところから人間を撃てても、至近距離の魔物には、恐怖が先に立って動けなくなる。

……甘かった。馬鹿だった。転移することすら頭から飛んで、サビーネちゃんを、コレットちゃんを、そしてウルフファングの3人を死なせるところだった。

伯爵様達? 多分、平気だったと思うよ。オーガ達を楽々全滅させただろう、私達がいなくても。

あああああ、くそ、くそくそくそっ! 何て馬鹿だったんだ、私! だから……。

「決定事項です。変更はありません」

荒れ狂う心の中を押し隠して無表情でそう言う私に、伯爵様も、そしてイリス様も、同じく無表情で黙っている。普通ならば、青筋立てて怒鳴りつけてるだろうに。

……多分、私の心中を察してくれているんだろうな。

アレクシス様とテオドール様は、ちょっと痛ましそうな眼で私を見てる。表情は抑えているつもりだけど、そんなにはっきり分かるのかな、私の動揺が……。

いいや、そんなの関係ない。

「私の周りに集まって下さい」

誰も反対することなく、集まってくれた。そして……。

「転移!」

……『渡り!』って叫ぶべきだったかな、と一瞬思ったけれど、そんなの、どうだっていいや。

そして、皆に気付かれないように一瞬で地球を経由して連続転移でボーゼス邸へ。伯爵様御一家と護衛の皆さんを残し、『お詫びは、後日!』とだけ言って、残りのみんなを連れて地球のウルフファングのベースへ。そして隊長さん達を残し、私達と猟師さんを連れてコレット村へ。その後、私だけ転移を繰り返し、倒したオークとオーガを村に持ち帰った。

「これ、全部あげるから、今日見たことは誰にも喋らないで下さい。もし喋ったら……」

表情を消した私に見つめられ、蒼くなる猟師さん。必死で、こくこくと頷いている。この様子なら、多分誰にも喋らないだろう。『神兵様の失態』も、私の能力のことも。

協力してくれた猟師さんを脅すみたいな形になって申し訳ないけど、触れて廻られるにはちょっと困るものを見せ過ぎた。まぁ、このオークとオーガで、伯爵様から貰ったであろう報酬と合わせれば、礼金には充分だろう。

その後、コレットちゃんの家に行って御両親に挨拶して、家に帰った。日本の自宅の方である。

そして、お風呂で汗と汚れを流した後、3人で抱き合って寝た。

お風呂は記録的な短時間で済ませたし、みんな、口数が少なかった。ちょっと身体が震えているような気がしたけれど、お風呂で温まった後だ、多分気のせいに違いない。

「アサ~~!」

「ミツハ、うるさい!」

「うるさいです、姉様!」

私のモーニングコール、大不評!

いや、耳元で叫ぶのは、モーニングコールとは言わないか。

「昨日はあんなに落ち込んでたくせに、どうしてそんなに元気なのよ!」

サビーネちゃんにそう言って責められるが、立ち直りの早さには定評があるのだよ、私は!

「ふはは、私は、反省はするが、後悔はしない!」

「何よそれ!」

ま、人間、生きていれば、色々あらぁな!

というわけで、冷蔵庫の中の物で簡単な食事を作り、その後サビーネちゃんを王宮へ、コレットちゃんをヤマノ子爵家領都邸へと送り届け、私はウルフファングのホームベースへ。

勿論、いきなり室内に出現したりはしない。ちゃんと建物の外の物陰に現れて、それからちゃんと訪問する。

「隊長さん、いる?」

事務所や隊長室がある建物にはいって、出会った団員さんに声を掛けると。

「ああ、何やら外でトレーニングやってるよ」

……珍しい。

いや、傭兵さんなんだから、みんな訓練は欠かさないんだけど、普通は肉体的なトレーニングは午後にやってたから。朝のうちは気温が、筋肉が、汗を掻くとシャワーが、とか言ってたのに。

そう思いながら、教えられた方に行ってみると……。

隊長さんが、何やら模擬剣みたいなものを振り回していた。昨日のふたりの団員さんを含む、数人の人達と一緒に。

「……何をやってるの?」

「おお、嬢ちゃんか! 次回に備えて、剣の訓練だ。やはり、漢の武器は、剣だよな!」

こくこく、と頷く、ふたりの団員さん。

「昨日、戻ってすぐに練習用の剣を手に入れた。なに、今度は後れを取るようなことはないから、安心しろ!」

昨日の伯爵様とイリス様、そしてアレクシス様にテオドール様、護衛の人達は、本当にカッコ良かった。熊並みの、いや、それ以上の強靱な身体で猟銃に匹敵する小銃弾に耐えるオーガを、技と速度と力で真正面から戦い、圧倒する、まさに漢の戦い。とても人間業とは思えぬ、あの姿。さすが、辺境を守るボーゼス伯爵領の頂点に立つ戦士達であった。

決して、ウルフファングの3人が弱かったというわけではない。彼らが、凄過ぎた。ただ、それだけであった。

しかし、それが余程眩しかったのだろう。隊長さん達3人と、彼らから話を聞いたらしき数名の団員さん達は、すっかりその気になってしまっているらしい。

「…………」

「どうした?」

反応のない私に、隊長さんが不思議そうに声を掛けた。

言いにくい。非常に言いにくいけれど、言わねばなるまい。

「……あの、剣で戦うなら、素人の付け焼き刃である隊長さん達にお願いしなくても、うちの国や領地で何人でも雇えるんだけど……。ベテラン剣士が、格安で……」

「「「あ……」」」

そう、換金レートを考えると、現地で傭兵を雇うのに較べると非常に高くつく、隊長さん達の依頼料。なにが悲しゅーて、それを払って、素人剣士を雇わねばならないのか。

いや、分かるよ? 漢のロマンとか、そういうのは。

でも、世の中、はっきり言わなきゃならない時があるんだ。

「隊長さん達の価値は、この世界の銃器が使える、ってことなんだからね。剣や槍、弓矢とかで戦うなら、向こうの世界じゃ素人さんだよ。とても護衛には使えないよ」

あ、崩れ落ちた。

でも、仕方ないじゃん。

今度は、12.7ミリの 対物(アンチマテリアル) ライフルでも用意しといてよ。

え、対物ライフルは支持射撃状態、いわゆる伏射等で行うもので、通常のライフルのように肩づけや腰だめで射撃するのはほぼ不可能? 軟弱だなぁ……。手持ちで撃ちなよ。

無茶言うな? 知らんがな……。

今度はいつ連れて行ってくれるか、って?

対物ライフルを腰だめで撃てるようになったら、声をかけて下さい。

元々、緊急時でもないのに狐狩りやお遊びの狩猟ゲームのためにあちらの世界に連れて行く気はこれっぽっちもなかったんだ。今回は、どうしてもと頼まれての、ふたりの団員さんのための救済措置だったんだから。

んじゃ、またね。

歩き去る私の後ろで悲痛な叫び声が聞こえたけれど、気にしない。

私の返事は、ひとつである。

はい、『知らんがな~!』