作品タイトル不明
119 魔物討伐 1
「頼む。魔物の討伐依頼を引き受けてくれ!」
「え?」
ここは、剣と魔法の世界の、冒険者ギルドの受付カウンターではない。
そして依頼主も、ギルドマスターではなかった。
「いったい、何の話よ、隊長さん……」
そう、ここは21世紀の地球であった。
某国にある、とある武力の傭兵組織。
少なくとも、魔物討伐の依頼が出され、そしてそれが受注されるような場所ではない。
「前回の、ドラゴン退治な……。休暇中で、あれに参加できなかったふたりの落ち込みと 憔悴(しょうすい) が酷い。何とかしてやらんと、潰れちまう」
「知らんがな!」
2カ月半に亘る各国への遠征任務の後、コレットちゃんに実家での休暇を与え、個人的な用事を一挙に片付けていた私は、最後に『ウルフファング』の隊長さんのところへ顔を出した。いや、遠征中もときたま顔を出していたから、2カ月半振り、というわけじゃないんだけど……。
で、まぁ、数日振りに顔を出すと、おかしな依頼を持ち掛けられたというわけだ。
「頼む! 事情は知っているだろう? もしお前が同じ立場だったらどうだ? 辛くはないか?」
うっ!
た、確かに、クラスメイト全員が一生の想い出、生涯の誇りに思えるような異世界集団転移による大冒険をしたというのに、自分ひとりだけが寝坊して遅刻したためにそれに参加できなかったとしたら……。
みんなが共通のその想い出を何度も語り合うのを聞きながら、平気で楽しい学校生活を送れるだろうか……。
無理! 絶っっっ対に、無理!!
「……分かりました……」
他に、どうしろって言うんだよ!
「休暇はどうだった? 楽しかった?」
コレットちゃんの村へ転移して、コレットちゃんのお迎え。挨拶代わりにそう尋ねると。
「…………」
あれ? コレットちゃんの反応が、微妙?
「トイレが……。お風呂が……。ベッドが……。食べ物、うっ!」
慌ててコレットちゃんの口を塞いだが、遅かった……。
「「…………」」
微妙な表情の、コレットちゃんの御両親。
ごめん。コレットちゃんは、もう村では生きていけない身体になっちゃったかも……。
御両親にお土産のハムと燻製チーズ、そして農具を渡すと、大喜び。さっきのことは完全に忘れ去ったようなので、ひと安心。さすが、単純な……、げふんげふん、純朴な人達だ。
コレットちゃんも、貯めていた給金の一部を御両親に渡したらしく、それは現金収入が殆どないこの村ではかなりの価値があり、それもまた大喜びされたらしい。
……他の女性達から、自分も雇ってくれ、って希望が殺到しないか、心配だ。
他領の者は、領主の許可がなければ移住させられないよ。領民の不法引き抜きになっちゃうから。
そして、コレットちゃんを連れて、転移で『雑貨屋ミツハ』に帰還。
店の内側から鍵を開けて開店状態にして、お客さんが来るまでの間にコレットちゃんに相談。
「ねぇ、うちの領地って、魔物はたくさんいる? オークやオーガがたくさんいて、間引きした方がいいところは……」
そう、狩り場の選定の件だ。……狩り場選定の剣といえば、エクス・狩り場~!
それは『カリバーン』でんがな!
って、それはええっちゅうねん!
いや、とにかく、領内でいい狩り場は……。
「ないよ」
うん、ない……、って、ええっ!
「ヤマノ領は海と大地の 狭間(はざま) にある小さな領地だし、山も森も子供がお散歩できる程度だもん。猟師さん達が獲るウサギ(角付き)やキツネ、鹿や猪、せいぜいが奥の方にゴブリンやコボルト、それとオークが少しいるくらいかなぁ。部外者に遊びで荒らされたりしたら、猟師のみんなの生活に関わるよ」
「え……」
確かに、領地で魔物の被害を受けたという報告は皆無だ。だから、今まで魔物のことはあまり考えなかったし、魔物対策を行ったこともない。
魔物が少ないのは良いことなんだけど、今回に限っては、困ったことに……。
「う~ん、どうしようかなぁ……」
悩む私に、コレットちゃんが救いの言葉を。
「私の村の近くなら、たくさんいるよ。ゴブリン、オーク、オーガ、猪から狼まで!」
お、狼……。いかん、何か、私の左腕が 疼(うず) く。
くっ、封印された鬼が暴れてやがるぜ!
って、いや、厨二病ごっこはいいから、私!!
「それはいい……、って、全然良くないよね! 大丈夫なの、コレットちゃんの村!」
「魔物に襲われたら、まぁ、運と自分の配慮が足りなかっただけ?」
「軽い! 軽いよ、コレットちゃん!!」
……でも、ま、そういうものなのかな。
そうでも考えないと、やっていけないのかも。ここは、安全な日本じゃないんだ。いつ、自分より強いものの餌食にされるか分からない、弱肉強食の世界。そしてその『敵』の中には、勿論、人間も含まれる……。
「よし、じゃあ、伯爵様にお願いして……」
「姉さまが、魔物討伐に行かれると聞いて!」
「ぎゃあ!」
どこから湧いた、サビーネちゃん!!
「王女様を、危険な冒険に連れて行けるわけがないでしょうが!」
「まず、パーティを編成しなきゃ駄目よねぇ……」
「聞けよおおおぉ!!」
私の言うことを聞く気配が全くないサビーネちゃんと、絶望の表情の護衛のおじさん。
そして、サビーネちゃんの暴走は続く。
「まず、コレットは前衛の『闘士』ね。私が後衛の『魔法使い』で……」
そしてちらりと私の方を見るサビーネちゃん。
「姉さまは、『遊び人』ということで……」
「何でよおおおぉ!!」
遊んでないわ! この3人の中では、一番働いとるわっ!
遊び人なのは、あんたでしょうが、サビーネちゃんっ!
まぁ、どうせ、王様が許すはずがない。さすがに、一介の子爵風情が勝手に王女様を他領に連れ出して、危険な魔物狩りなんかをさせられるわけがない。もしやるなら王様の許可が必要で、その許可を取るのは私の仕事じゃない。さすがの王様も、そんな許可を出すわけがないので、安心だ。
「とうさま、この前の勝ちで、73ポイント貯まってるよね。そのうちの10ポイントを使って、ボーゼス伯爵領での魔物討伐の参加許可を戴きます!」
「「えええええええええっっ!!」」
何じゃ、そりゃああぁっ!
そして、なぜ泣きそうな顔をして頷く、王様ああああぁっっ!
「……というわけで、ボーゼス領内での魔物討伐の許可を戴きたく……」
「何が、『というわけで』だ……」
頭を抱えている、伯爵様。
「もし、サビーネ王女殿下に何かあったら……、いや、掠り傷ひとつでも負わせたら、うちがどうなるか、分かっているのか?」
真面目な顔でそう言う、伯爵様。
そりゃそうか、下手したら、自分の命だけじゃ済まなくなるかも……。
でも、大丈夫! そんなこともあろうかと……。
「はい、王様からの書状です!」
「何……」
そう、それは、この件は王女の強い要望によるため、故意によるものを除き、もし事故が起きても現地の者達に責任を問うことはない、との王様直筆の書状だ。サビーネちゃんが2ポイントを使って王様に書かせた……。
今度、そのポイント制度について詳しく聞いてみなければなるまい、うむ。
いや、待て待て! もし私にもその制度を導入するように求められたらどうする! そして、下手にポイントを貯められでもしたら……。
ヤバい、ヤバ過ぎるううぅっ!!
いかん、この件は忘れよう……。
「そして、サビーネ王女殿下の望みを、支障のない範囲で叶えて貰いたい、と……」
国王陛下からここまで低姿勢の文章で頼まれて、断れるはずがない。伯爵様が、書状を読みながら苦々しげな表情で呟いた。
「……分かった、許可しよう。但し、うちから案内人と護衛をつけるからな!」
「え、討伐隊に護衛? それって、軍隊に護衛をつけるようなものなんじゃあ……」
「つ・け・る・か・ら・な!」
「ハイ、ワカリマシタ……」
斯(か) くして、ボーゼス伯爵領コレット村方面魔物討伐隊の出動が決定した。
「言っとくが、ミツハ、あの村はそんな名前じゃないからな……」
は~い……。