軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

116 パトロン

「どうどうどう……」

私が仲裁にはいると、パトロン候補の前で芸術家らしからぬ低俗な争いを見せてしまったことに気付き、ふたりとも硬直した。

確かに、「パトロンに夢を与える」というのも、援助を受ける芸術家の仕事のうち。こんな醜い部分、現実的な部分を見せてしまっては、イメージがガタ落ちだ。勿論それは、本人達にもよく分かっているはず。だからこその硬直なんだろうし。

「……なんてね! ははは、冗談はこれくらいにして、子爵様にちゃんとお話ししようか?」

「そ、そそそ、そうですね。いつものじゃれ合いは、これくらいにして……」

あ~、 白々(しらじら) しくて、ぐだぐだだよ……。

「……というわけで、是非、御支援を賜りたく……」

「賜りたく……」

共同戦線で来たか。

まぁ、いいけどね……。

このふたりは、同じ店に作品を置かせて貰っているだけあって、元々知り合い、かつライバル同士だったらしい。共に、彫刻家1本で食って行けようはずもなく、他の仕事との兼業で、長く苦しい下積み生活。

いつの日か、パトロンを捕まえて。そしていつの日か、名を売って。

その日を夢見て、歯を食いしばって頑張っていたある日、美術店の店主からもたらされた知らせ。

『貴族の少女が、余程気に入ったのか、店に置いてあった分を全て買っていった』

『それが、何と雷の姫巫女様だった』

(超絶有名人キタコレ~~!! 姫巫女様御用達、姫巫女様のお気に入り、無敵の金看板!!)

後は、全力ダッシュでここへ来たらしい。

そして、何とか自然な形で援助の話に、と思いモタモタしているうちに、ライバル登場。自然な話題の誘導どころか、直球ど真ん中を投げられてしまい、パトロンを取られてなるかと逆上した、と。普段は、本当に温厚らしい。ふたりとも。

ま、いくら温厚とはいえ、自分の人生が懸かっているとなれば、逆上もするか。ほら、アレだ。『ガンジーも助走つけて殴りかかるレベル』っていうやつ。

でも、う~ん、パトロンって、特定の人に金銭的援助をするってことだし、一度援助を始めたら、なかなかやめられないよね。専業になった後で急に援助をやめたりしたら、生活できなくなっちゃうだろうし。それに、私がパトロンについたら、他の人がパトロンについてくれなくなるよね、私が手を付けた芸術家に横から手出しするって形になっちゃうから。

それに、私は、そこまでこのふたりに惚れ込んでるわけじゃない。ただ単に、『見所のある、新人らしい作品』として、なかなかいい感じだな、と思ったに過ぎない。

ここは、自分に正直に……。

「……ごめんなさい」

「「えええええ!!」」

愕然とするふたり。

いや、ごめん。

「そ、そこを何とか!」

「僅かな御支援で結構です! 何(なに) 卒(とぞ) 、姫巫女様の御支援を!!」

ロルトールさんと、後から来た女性、ティラスさんが、そう言って懇願してきた。

うん、最初はあくまでも私のことは「パトロン候補の貴族のひとり」として話していたけど、やっぱり本音は「姫巫女様のネームバリュー」なんだよねぇ。支援額は僅かでも、姫巫女様がパトロンについているとなれば、皆の見る目が変わるからね。それに、私に接触するための足掛かりとして、貴族や金持ちが懇意にしてくれる可能性が高い。

……いいこと尽くめだ。

ただひとつの問題点を除いて。

うん、それは、私がそういうのは大嫌いだ、ってことだ。

「駄目。私が支援すると、金銭的な支えだけじゃなくて、私目当ての人が寄ってくるから。

自分の実力じゃなく、私の名前で作品が売れて、本当に嬉しい? 生活が苦しいあなた達じゃなくて、芸術家としてのあなた達は」

「「…………」」

あ、黙り込んじゃった。そして、表情が暗い……。

ちょっと可哀想かな。

う~ん、じゃあ……。

「あの、支援の話は無しで、それとは別に、おふたりにお願いしたいことがあるんですけど……」

「「え?」」

驚いた様子のふたり。まぁ、支援を断っておいて、客側から製作者に何を頼むのか、そりゃ不思議に思うだろう。何か発注するなら、それは仕事の依頼であって、決して『お願い』じゃない。

「実は、私が購入したおふたりの作品を、私の母国で売らせて戴きたいんです。それで、私が関わっていることは教えたくないので、私が売る時はお店の名前しか名乗らずに売り、それを買った向こうの国の人が、ちゃんとおふたりの名前を製作者として明記して販売します。そういう売り方で構わない、という了承が戴ければ、と……」

別に、他人が造った物だと偽って売るわけではなく、最終的には自分達の名で売られるならば問題はない、と考えてくれればいいんだけど……。

「勿論、構いません! それでお願いします!」

「わ、私もです!」

あ、やっぱり……。

それって、つまり、他国で自分の作品が継続的に販売される、ってことだ。

日本の無名の新人画家が、外国の絵画ブローカーから定期購買の話を持ち掛けられて、断るはずがない。それと同じことだものね。

よし、話は決まった!

「あ、私の母国で売れても、この国であなた達の名が広まるわけじゃないから、私が買う分とは別に、他の作品も造ってこの国で売らないと、いつまでもここでは名が売れませんよ?」

「「うっ……」」

ちょっと顔を 顰(しか) めるおふたりさん。

でも、これならどうだ!

「勿論、『自分の作品が、ヤマノ子爵に買って貰えている。既に何作品も納入した』と言って宣伝して戴くのは、全く構いません。それは事実ですから」

それを聞いて、ぱあっと顔を輝かせるふたり。

うん、まぁ、パトロンじゃなくても、それだけで結構な宣伝効果が見込めるだろうからねぇ。

順番が逆になったけど、元々、別に本人の了承を得なくても構わないと思っていたんだ。美術品の売買をするのに、いちいち製作者の許可を取る美術商なんか居やしないんだから。でもまぁ、こうして本人達が納得して喜んでくれたなら、何よりだ。

よし、これで、いつでも換金作業を始められる! あとは、国籍を貰った国のどこかで、小さな美術店を開けばいいだけだ。私が自分で美術商に売り歩く、というのは 真(ま) っ 平(ぴら) なので、喫茶店を兼ねた小さなお店で、仕入れ値に近い金額で売ればいい。店の維持費は喫茶店部分で 賄(まかな) って、少し赤字、程度になればいいや。名誉国民待遇で、別に黒字になっても納税はしなくていいんだけどね。

小国だと、融通が利くから助かるなぁ。

勿論、自分でお店をやるわけじゃない。雇われ店長に丸投げだ。

画廊喫茶みたいで、なんか、いいよね。あ、美術品全般だと、ギャラリーカフェか。彫刻以外のものを色々置くのもいいな。そこの少女オーナーとして、たまに普通の客の振りをしてコーヒーか紅茶を飲みながら作品を楽しむ。

うん、いいじゃないいいじゃない!

万一の時は、赤字のギャラリー部分を切り捨てて、普通のカフェとして生計を立てることもできるかも知れない。もしもの時のための退避先、 隠れ家(クリプト) といっても、人里離れた場所の 秘密基地(セーフハウス) みたいなものばかりではなく、そういう『普通のやつ』もあっていいだろう。

何か、ワクワクしてきたなぁ……。

『雑貨屋ミツハ』を後にした、ふたりの若き彫刻家。

打ち出の小槌であるパトロン契約はできなかったけれど、作品が一挙に売れて、これからも買って貰えそうで、しかも『姫巫女様御用達』、『姫巫女様の母国で大評判』等の超強力な売り文句が使えるようになる。それは、赤貧にあえぎながら、明日が見えなかった昨日までに較べれば、ふたりにとり、とてつもない希望の未来であった。

貧乏生活の中で、 己(おのれ) の才能を信じ、努力を続けてチャンスを掴んだ者達は、何人もいる。しかし、一度もチャンスが来ることなく、貧乏に負けて潰れた者は、その数百倍、数千倍居るのであった。

ヤマノ子爵家王都邸を出て数歩歩いたところで立ち止まったふたりの彫刻家は、がっしりと握手した。その顔に満面の笑みを浮かべて。