作品タイトル不明
115 個人事業主
晴れて個人事業主となった私は、早速その足で税理士事務所を訪れた。勿論、事前にアポは取ってある。ネットで検索し、ホームページをじっくりと見較べて、良心的そうなところを選んだ。もしこれでハズレなら、それは、私の見る目が無かっただけで、自業自得だ。
そして、色々と説明を聞き、無事契約。これで、税務申告も安心だ。
あとは、家に帰って、新規にウェブサイトを立ち上げるだけ。そう、彫刻販売サイト、『コレット』の。
文章は、全部英語。検索にはヒットしづらく、分かりにくく、使いにくいサイトにするよう心掛けた。いや、誰かから注文が来たら困るからね。特に、日本国内から注文が来たりしたら面倒だから、日本語の説明は一切なし。
一応、販売活動をしているというアリバイ作りだけのためのサイトだ。でないと、何の 伝手(つて) も無く、宣伝も無しで18歳の小娘が芸術作品を海外に販売、というのの説明がつかない。ネットで英語の広告さえ出しておけば、たまたまそれを見た海外の 好事家(こうずか) が、という説明ができる。
うむ、完璧である!
そして、いよいよ作品の製作である。さすがに、サイトに作品の見本写真を載せないわけにはいかないだろう。彫刻を中心とした芸術作品を販売するサイトに作品の写真が1枚もないというのは、あまりにも不自然過ぎる。
そういうわけで、転移で向こうの世界の石切場へ。
別に持ち主がいるわけではなく、勝手に切り出して構わない岩山である。そこで、石の一部を連れて日本の自宅へ転移。そしてすぐに戻って、『型抜き』をした部分の岩を連れて連続転移、岩山の上空に出て投下し、破壊。
型抜きした残りの部分を放置していて、中空の部分が何かに使われたり、騒ぎになったりすると大変だからね。面倒でも、後始末は忘れないよ。
そして、家に戻って、『型抜き』したものを検分した。
うむうむ、まぁまぁの出来である。
以前、有名な彫刻を真似たものを型抜きしようとして、散々な結果に終わったことは、忘れてはいない。私は、芸術的な才能は皆無なのである。なので、普通の彫刻は買い取りで仕入れ、自分で作るのはこれ、『不思議作品』である。
チェーンのように繋がった、継ぎ目のない石のリング。網目状の石の球体の中にある、ちょっと 歪(いびつ) な石の『動物のようなもの』。
更に、お店で買ってきたクリスタルガラス製のちょっと高いやつを転移で網目状の石の球体の中に出現させたりと、その後も、とにかく「どうやって作ったのか分からない」、「まともに作ろうとしたら膨大な時間と手間がかかる」と思われるものを、どんどん作り続ける。
しばらくすると、大分数が揃った。……こんなもんかな。
翌日は、王都でお店巡り。そして、店員さんにこう聞いて廻った。
「新人さんの彫刻で、将来性のありそうな人の作品、ありますか? 私が楽に持ち帰れる大きさと重量のもので……」
そう、彫刻屋『コレット』で売る商品の仕入れである。私には、普通の彫刻を造る才能は皆無なのだから。そしてわざわざ「新人さんの」と付けたのも、勿論、 理由(わけ) がある。
だって、子爵様が買い集めるのだからと、有名な人が造った馬鹿高いやつとかを勧められたら困るから。
私が欲しいのは、あくまでも「新人が造ったっぽい、割と見込みのありそうな作品」なのだ。そして、安いもの。まぁ、売れない芸術家の卵に協力、という意味もある。
既に一人前になって稼いでいる人の作品ではなく、成功する前の人が作ったやつを、安く買う。そう、『みんなで幸せになろうよ』というやつだ。
そして、店員や店主が勧める品は。
「 是(ぜ) 非(ひ) 、エイラリス作の、この裸婦像を!」
「某子爵家の家宝が売りに出されており……」
「いや、新人さんの、って言いましたよね、私。だから、有名な彫刻家の作品だとか、貴族家の家宝だった何々、とかいうのは買いません。あくまでも、無名の新人さんの作品で、まぁまぁの出来のものが欲しいんですよ」
いくらそう言っても、いや、子爵家の調度品としてはこれくらいでないと、とかいって、高いものを売りつけようとする店が多くて、閉口した。
どの客に対してもそうなのか、私が貴族だからなのか。顔が売れているのも、困りものだ……。
店を出ようとした私を引き留めようとする大通りの店から逃げ出して、ひと息入れようと裏通りを歩いていると、小さな美術店が目にはいった。店主がひとりで店番をするタイプの、こぢんまりとした 佇(たたず) まいの店である。
こういう店の方が、あんまりガツガツしていないかも知れない。そう思って、店内にはいり陳列棚を見ていても、店主らしき人は別に飛んでくることもなく、ゆっくりと物色していると。
お? これ、なかなかいいじゃん!
ちょっと荒削りだけど、そこが 却(かえ) っていい味を出している木彫刻。繊細で、滑らかな仕上げの石彫刻。素材だけでなく、明らかにタッチが違うから別の人の作品だろうけど、それぞれ数点ずつが並べられている。値段も安く、明らかに無名の新人だろう。これの製作時間と価格では、多分食うのに精一杯、という感じだろうな。
よし、君に決めた!
「これ、下さい!」
木彫刻3つ、石彫刻4つ。それぞれ同じ作者のものを、全て買い占めた。
店のおじさんは、かなり驚いていたけど、何だか嬉しそうだった。店の商品が売れた、という意味ではなく、多分、目を掛けていた新人の作品が売れた、ということが嬉しかったんだろうな。
買った彫刻は、全部だとちょっと重過ぎたため、配達をお願いした。いや、 人気(ひとけ) のないところで転移するにも、その「人気のない場所」まで運べないし、これを無理に持ち帰ろうとすれば、明らかに不思議がられるに決まってるからね。
よし、本日のミッションは、これにて終了!
彫刻家と名乗りながら、他人が造った美術品を転売することになるけれど、それは仕方ない。美術商ということにすれば、どこからいくらで仕入れたのか、という問題が発生して、困ったことになる。国外から輸入したことにもできないし、国内で誰かから買ったとなると、売った者の税金とか、色々と危ない話が出てくるだろう。だから、私が「個人事業主の彫刻家」として『商品の発生源』となるしかない。
まぁ、だから個人名である「山野光波」ではなく、「コレット」という屋号で売るのだ。誰も、私が造ったとは言っていない!
そして、芸術品であれば、値段などどうとでもなる。自分で好きに決めればよく、それに文句を言う者はいないだろう。
まぁ、買うのも自分なので、製作者の功績を横取りすることにはならないだろう。
そして、某国で作って貰った国籍と名前でそれらを高額で買った後、今度は、本当の製作者の名前を明記して適正な価格で販売する。せめてもの、製作者への礼儀として。
勿論、転売価格は『コレット』の売り値より滅茶苦茶安値だ。多分、お金の交換レートを考えると、最初の購入金額にも遥かに届かない価格になるだろうけど、死蔵するよりは、安くても売った方が製作者は嬉しいだろうからね。投げ売りというわけではなく、地球での適正価格だし。
そして、『雑貨屋ミツハ』に荷が届いた後、すぐにそれを持って日本へ。
デジカメで売り物の写真を撮って、サイトの準備はOKだ。
翌日、超久し振りの、『雑貨屋ミツハ』の営業。
開店前に、ご近所さんや孤児院に長期出張から帰還した旨の挨拶回りをしておいた。
そして、シャンプーやボディシャンプーを切らしてしまっていた女性陣の襲来を何とか捌き、一段落した頃。
「すみません、ミツハ・フォン・ヤマノ子爵閣下のお屋敷でしょうか?」
ぶはっ! ま、まぁ、確かにここは『ヤマノ子爵家王都邸』だけど、そんな呼び名や、『お屋敷』などと言われたことは、今まで一度もない。でも、「ヤマノ子爵のお宅ですか」とも言えないだろうし、雑貨屋の客としてではなく、子爵としての私に用があるなら、そう言うのも仕方ないか。
しかし、どこかの貴族とか商人という様子は全くない、20代半ばくらいの、長身で痩せた男性だ。いったい、雑貨店主ではなく子爵としての私に、何の用が……。
「この度は、私の作品を大量にお買い求め戴き、まことにありがとうございます……」
ありゃ、あの彫刻の製作者さんか! わざわざ買った者のところにお礼に来るとは。そういうものなのか、余程嬉しかったのか……。
でも、初めて売れた、というわけでもないだろうし、毎回いちいちお礼に廻っているのかな?
「いえいえ、良い出来だったので、喜んで買わせて戴きました。ええと……」
「あ、ロルトールと申します」
うん、そういう名前だっけ。
作者の名前を売るためと、リピーター客獲得のために、ちゃんと製作者の名前を書いた紙が付いていたんだけど、忘れてた。
そして少し話をしたんだけど、何か、ロルトールさんは私の顔色を窺うような素振りでそわそわしており、なかなか帰る様子がない。同じようなことやどうでもいいことをだらだらと話し続け、さすがに私も少しうんざりしてきた頃。
「こちらが、ヤマノ子爵閣下のお屋敷でしょうか?」
ロルトールさんと同じようなことを言って店にはいってきた、20歳前後の気弱そうな女性。
一応そう尋ねはしたものの、返事を聞くまでもなく、私がヤマノ子爵本人だというのは分かっていたのだろう。そのまま、次の言葉が続けられた。
「私の作品をお買い上げ戴き、ありがとうございます! つきましては、是非、パトロンとして御支援戴きたく……」
え?
ああ、こういう世界の芸術家は、パトロン頼りの場合が多いんだっけ。
貴族が自分の作品を気に入ってくれたとなれば、当然、千載一遇のチャンスとばかりに 縋(すが) り付くのが当たり前か。
「あ、この野郎、それは俺が先口だ! 後から割り込むんじゃねぇよ!」
「何言ってるんですか、こっちは人生かかってるんですよ!」
「そりゃ、こっちも一緒だ、ふざけんな!!」
あ~、何か、始まっちゃったよ……。