軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

134 春の大運動会⑨ 障害物競走

本日最後の競技は私も経験したことがない『障害物競走』だ。

バラエティ番組でしか見たことがないけど、器用にクリアして余裕でゴールする人と、ヨタヨタハアハアとゴールする人に別れるよね。

実際にやっているところを見てみたい――というのもあったけど、ボディコントロールを見るにはいい競技だと思う。

使用人たちがせっせとコースを作っている。

直線距離にして四百メートルくらいの間に三つの障害を設置することにした。

スタートして最初の障害はネット。

ネットがなかったから、私が毛糸を使って、一辺が十センチくらいの菱形を組み合わせたものを作った。まあ破れたら破れたで面白そうだから耐久性は度外視。

そしてネットを潜った先に待ち受けるのが平均台。

これも材木を使って成形魔法でチャチャッと作った。幅十センチ、長さ三メートルの角材を二十センチの高さに設置してもらう。

二十センチなら六歳児でも上がれるよね。

平均台を渡ったところには、大きな麻の袋が人数分置いてある。これも作ろうと思ったけれど、レイモンが「それならば用意できます」と言って、最年長の二十歳が入れるような大きなものからちびっ子サイズまで四通りほど用意してくれた。

袋の中に入って、ピョンピョン飛び跳ねてもらうのだ。

スプーンにピンポン玉を入れて走ったり、ぐるぐるバットとかパン食いとかも入れてみたかったけど、さすがに見たことも聞いたこともない人たちには難しいと思って今回は断念した。

まあ回を重ねるごとに増やしていけばいいもんね。

あー。公爵と目が合っちゃった。

表情からは何も読み取れないんだけど、きっとお小言を言いたいんだろうなぁ。何が引っ掛かった?

競技ごとの詳細な説明もしておくべきだったかな……。

ウッドデッキの来賓たちは「は?」ってなっているけど、こっち側の平民たちは興味津々、やる気満々といった感じで、「あーするんじゃないか?」「いやこーだろ」と推察しあっている。

……お! 準備できたみたい。

「皆さん。本日最後の催しは『障害物競走』です。ご覧の通り、三つの障害を抜けて、一番早くゴールした人の勝ちです。聞いただけではよくわからないと思いますので、これから実演してもらいます。参考になるかわかりませんが、よく見ておいてください」

障害物を作ったときに説明しておいた使用人が白旗の監視員の元へ行く。

一応、本番同様に号令をかけてもらう。

「それでは始めます。よーいドン!」

使用人は走ってネットまでたどり着くと、端っこを上げて中に潜った。ネットは六人がかりで両端を押さえている。

使用人はちょっと苦戦していたけれど無事にくぐり抜けて、その次の平均台に飛び乗った。ここでは途中で落ちてもらうことになっている。

失敗したら最初から渡り直しって説明したいので。

使用人は約束通りあと少しのところで地面に落ちて、もう一度やり直した。今度は一発で渡りきり、麻袋ゾーンへと走る。

大人用の大きな麻袋に自分で入り、袋を持ちながらぴょこんぴょこんと跳ねる。

すると見ていた子どもたちが爆笑した。そっか。大人のこんなおかしな行動は見たことないか。

あ、使用人に悪いことしたな。結構な羞恥プレーだったかも……。

ともあれ白旗を上げている監視員のゴール地点まで辿り着いて無事にゴールした。

「やり方はわかりましたか?」

私は子どもたちに聞いたのに、「わかったー!」とアレスターが大声を上げた。

……は?

「ディディエ! マーク! それにリエーフ! ワシらが見本を見せてやろう!」

……は?

いや、だから、今見本を見せたところなんですけど?

ちょっと! 三人とも! どうしてそんなすぐスタート地点に揃うかね?

「よしっ。じゃあ、さっきの号令を頼む!」

うわっ。監視員がビクビクして私に助けを求めている。仕方がないのでうなずいて許可を出す。

「で、では、一人じゃなくみんなでやるとどうなるか、もう一度見てみましょう」

まあ、確かに平均台は三つしかないから早い者勝ちだし、失敗したら順番を待っている列の最後尾に回ることになるから、そういうのを見せてあげるべきだったかも。

とりあえず平均台は一台だけにして四人で競ってもらおう。近くの使用人を手招きしてそう伝える。

スタート地点の監視員も、二台の平均台が無事に端に避けられたのを見てから号令をかけてくれた。

「で、では、こちらにお並びください。よろしいですか? よーいドン!」

「うぉぉぉ!」

アレスターが雄叫びを上げて走り出した。もー。

あ、でもネットを器用に潜り抜けていくのはリエーフだ。

プププ。アレスターは罠にかかった熊みたいにネットに引っかかってる。

リエーフの後を、マーク、ディディエ、アレスターの順で抜けた。

俊敏性がどうとかじゃなく、小柄な方が有利なだけかもしれない。

リエーフが平均台に一番乗り。

「騎士さまー! 頑張れー!」

えぇぇ? どうやら子どもたちは最後尾のアレスターを応援しているみたい。なんで人気なの?

とりあえず追加説明をしなくっちゃ。

「平均台――この細い柱の上を歩くときは、前の人と少し間を空けてから渡り始めてくださいね。途中で落ちたら、並んでいる人の最後尾に並んでやり直してくださいね」

さすが騎士。

一人も落ちることなく麻袋ゾーンにたどり着いた。

麻袋に入ったアレスターは、前を行くディディエを追いかけて、とうとう追いついた――と思ったら、背後から体当たりをした。

ぅえぇっ?!

ちょっ、ちょっと! 子どもの前で何をしてくれてんの!

興奮した子どもたちは、「いけー!」とか「やっちまえー!」とか叫んでいるし。

どうしよう……公爵や夫人は、こんな下品なヤジを初めて聞いたんじゃない?

あっ! ディディエが倒された。袋に入ったまま地面を転がっているよ……。

「ちょっ! 駄目ですよっ! 人にぶつかっては駄目です! これは悪いお手本ですからね!」

まあ駄目って言われてもぶつかったり、ズルをしたりする子もいるかもしれないけれど、別に構わない。

そういう子はディディエが採用しないと思うから。

君たちは気軽に楽しんでくれればいいよ。

結局、リエーフが逃げ切って一位、アレスターもマークには追いつけず三位、可哀想なディディエは四位だった。

「ガッハッハッハッハ。ぶつかられたくらいで倒れるような軟弱者はおらんな?」

はぁー?! 子どもに向かって何を言ってんの!

「コホン。皆さんはくれぐれも怪我をしないよう、人にぶつかったりしないよう注意してくださいね」

あー、もう誰も聞いちゃいないよ……。大丈夫かなぁ?

一組ずつ整列していたはずなのに、ぐちゃぐちゃになってる。使用人たちも注意しながら並び直させているけど、追いついていないな……。

興奮した子どもの落ち着かせ方ってどうすればいいの?

――と思ったら、レイモンがキーファーとスコットを連れて子どもたちを 宥(なだ) めに来てくれた。

そっか。レイモンは有名人だし、それなりの歳の子どもなら、『偉い人』って認識しているよね。

よしよし。いい具合に落ち着いてきたみたい。平均台も三台並んだね。

「はい! それでは始めますよ!」

一組目の子どもたちがスタート地点に集まった。

「よーいドン!」の号令でキャッキャッキャッキャッとネットに飛び込んでいく。

ん? ネットの中で服を引っ張りあってない?

あっ、やっぱり!

ネットから出てきた子の何人かは、袖の縫い目の部分が肩からペロンと剥がれたり裾が破れたりしている。

どうしよー。裕福な家の子なら問題ないかもしれないけど、服が破れるなんて貧しい家の子にとっては由々しき問題じゃない?

これは――ちゃんと直してあげないと。

と考えていると、背後からすごい視線を感じた。振り返ると鼻息の荒いローラの顔に「私がやります」と書いてあった。

そうだよね。さすがに領主が平民の子の服を繕うわけにはいかないよね。

お針子部隊を投入するのかな。

「オッケー」と顔に書いて返事をすると、ローラはコクンと頷いて足早に本館へと向かって行った。

競技に視線を戻すと、今度は平均台で押し合っている! それじゃあバラエティ番組そのものじゃん!

うわっ! 落とされた子も落とした子を引きずり落としている!

ちょっ、ちょっとー!! 怪我したらどうするの! 肉弾戦じゃないよ?

見ている子どもたちの声援も、「もっとやれー!」だの「〇〇を落とせー!」とか、貴族が来賓席にいることを忘れちゃっている。いや、そもそもわかっていなかったか……。

そりゃあ「楽しく遊べ」とは言ったけどさぁ。

もう私の手を離れてない?

それに女の子は軒並み見学に回ってる……。

そりゃそうだよね。アレスターみたいな大男が体当たりする様を見せつけられたら、とても参加する気になれないよね。

もー。女の子の身体能力も見たかったのに。

あぁ。なんか疲れた。

本来は各組の一位を集めて最後に総合一位を決めるはずだったけれど、五組の優勝者を同率一位ということで全員表彰することにした。