軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

133 春の大運動会⑧ 五十メートル走

昼食のテーブルでは、全員からあれこれ聞かれた。

「いやー、それにしてもマルティーヌは面白いことを考えるねー。なんだって平民の子どもを全員集めようなんて考えたんだい?」

「一年に一日くらい、子どもたちが楽しく過ごせる日があってもいいと思ったのです」

あ。公爵の目が光った。

「もちろん、ただ遊ばせるわけではございません。カントリーハウスで働いてもらう使用人の選考を兼ねているのです」

「確かにあの謎解きは面白い問題でしたわね。マルティーヌ様は特異な発想の持ち主をお探しなのですか? 学問とは関係ないように思えますが」

サッシュバル夫人の言う通りなんだけど、そもそも学ぶ機会のなかった子どもの中からキラリと光るものを持っている子を探したかったので。

「君の手紙には運動会とあったが、午前中は運動することなく終わったな」

……い、痛い。公爵の視線が刺さり過ぎる。

「はい。午前中は知的な遊びを中心に種目を組んでおりまして……。ですが、午後の競技は二種目とも運動です」

「開催の趣旨と、その趣旨に沿った種目構成等も事前に報告して相談するべきだとは思わなかったのか?」

ひぇっ!

「そういう話は全部終わってからでいいじゃないか。今は反省会をしているわけじゃないんだから」

おぉぉ。

サンキュー、パトリック!

「マルティーヌは子どもたちが気になるんだろ? 僕らはもう少し休んでから戻るから、君は先に会場に行くといいよ。いいだろう? リュドビク?」

「そうですね。思いの外マルティーヌ嬢が色々と差配しているようですので」

あら? 私の活躍を認めてくれたのかな? 違うな。嫌味だな。

「ほら、リュドビクの気が変わらないうちに行った方がいいよ」

「私はその時々の気分で意見を述べたりなどしません。まるでコロコロと意見を変えるような――」

「さっ、ほらっ! 早く行きなよ!」

うわー。公爵の発言を遮っちゃって……知ーらないっと。

「では、お言葉に甘えて失礼させていただきます」

逃げよう。

会場に戻ると、子どもたち用のテーブルとスツールは訓練場の隅っこの方に片付けられていた。

これは後日、人がいなくなってから私が成形魔法で木材に戻して、しれっとオーベルジュの建設現場に運んでもらう手筈になっている。

午後の最初の競技は『五十メートル走』。

ちゃんと私が指示した通り、約五十メートルくらいの直線コースが作られていた。

スタートとゴールの監視員の位置に小麦粉で目印を付けている。記録係もいるね。

子どもたちは前世の運動会のように、一組十人ずつ並ばされている。

そしてウッドデッキの前に騎士が三人立っていた。

出たなアレスター。趣旨は伝わってんのかな? 面白半分なら遠慮してほしいんだけどね。

一応、騎士見習いの子を選んでほしいとディディエには伝えてあるけど。

そのために、『走り』だけでは身体能力が測れないだろうから、『障害物競走』もやるんだけどね。

午後の競技の リーダー(選考員) はディディエなので、彼と話がしたかったのに、

「ガッハッハッハッ。領内の子どもを集めてお祭り騒ぎか。うちのちび領主は相変わらず面白いのぉ」と話しかけてきた。

くぅ。また「ちび」って言った! 私の身長がいくら伸びてもアレスターから見たらちびなのかも。

面倒臭いからいったん無視しよう。

「ディディエ。前にも話した通り、午後は子どもたちに体を動かしてもらうので、俊敏性というか機敏性? とにかく体力があって体を操るのが上手な子を見極めてほしいの」

「はい、マルティーヌ様。騎士見習いに相応しい者を見つけるのですね?」

「ええ、そうよ。別に該当者なしでもいいの。今後は定期的に開催するつもりだし、次からはあなたたちの意見を取り入れて本格的な採用試験にしてもいいし」

「かしこまりました。キーファーによると、かけっこに参加するのは六十八人で、七組に分けたそうです」

「そうなのね。平民の子でも、やっぱり女の子は走ったりしないのかしら?」

「ははは。まあそこは人ぞれぞれでしょう。『希望者のみでよい』とのことでしたので、無理に参加を促したりしなかったようです」

別にいいんだけどね。せっかく用意した着替えの出番はなしか。

「それでいいわ」

それにしても公爵たちはまだかな。早く始めないと子どもたちがじっとしていられないんじゃないかな。

「マルティーヌ様。お見えになりました」

「あら」

私がずっと入り口の方を見ていたので、ディディエは私の心の内を察したらしい。

「コホン。では私たちも準備をしましょう」

来賓が席についたのを確認して、キーファーに目配せした。

「それでは午後の催しを始めます。皆さんにはかけっこをしてもらいます。白い旗を持っている人が二人立っていますね。あの二人の間を走ってもらいます。走り始めの合図は、『よーいドン』です。『よーいドン』と言われてから走ってくださいね。一等の人には、もう一度走ってもらうので、その場に残っていてください」

まあ、一等を抱き止める係がいるから大丈夫だとは思うけどね。神社の福男システムだ。

「それでは一組目の人は、白い旗を揚げている人のところに横一列に整列してください」

待機させられていた十人の子どもたちが、解き放たれた開放感からか、キャッキャッ言いながらスタート位置にやってきた。

『整列』を習っていないからか、団子状態だ。

うーん。前世の幼児たちの賢さよ……。

使用人が、一人一人、「ここ」と教えてなんとかスタートできる状態になった。

もうやってみてグダグダだったらやり直すことにしよう。

私がわかりやすくうなずいて見せると、スタートの監視員が白旗を揚げたまま、「では始めますよ。よーいドン」と号令をかけた。

一人の子が飛び出すと、釣られるように残りの子も飛び出した。

相変わらずキャッキャッ言いながら走っている。あれ? 小さい子ってこんなだったっけ?

スタートはずれたけど、結局最初に飛び出した子が圧倒的に速くて一位になった。

まあいいんじゃない。

二組目は一組目の様子を見ていたので、整列の時間が早くなっていた。

そして、「よーいドン」で、まあまあ一斉にスタートできた。

三組、四組と後続組はどんどん綺麗なスタートを切るようになった。

飲み込みが早いね!

「ではそれぞれの組で一等になった人たちだけで走ってもらいます。今年一番速い人を決めたいと思います」

私がそう言うと、あちらこちらからすごい声援が聞こえてきた。

そっか……。領内で一番って、すごい名誉なことだもんね。

うんうん。みんな応援してあげてね。

「それではモンテンセン伯爵領の子どもの中で、今年一番足の速い人を決めます」

私が高らかに宣言すると、スタートの監視員も心なしか緊張した面持ちで白旗を挙げ、今日一番の大きな声で、「よーいドン!」と号令をかけた。

競技としては、ほんの少しだけスタートにばらつきがあったものの、一位と二位の子は圧倒的だった。これなら文句ないよね。

「うぉー」という大人の声に迎えられてゴールした子どもたちは、みんな満面の笑みで飛び跳ねている。

「一等になった人も惜しかった人も、皆さんおめでとう。それでは次の競技の準備をしますので、中央を空けて観覧場所で待機していてください」

興奮冷めやらぬ子どもを使用人たちが連れて行く。

さあ、次がいよいよ最後の競技だ。