軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

69話

村に商人たちの荷車と、そして冒険者たちがやってきた。

それぞれに武器を持ち、鍛えた体と自信たっぷりの表情。見える部分に古傷があるものもいて、それがなおさらいかつく見える。

もちろん私は見るだけで悲鳴を上げたわけだが、その冒険者たちは私を見ると気が抜けたような顔で一瞬固まり、そっと顔をそらすので、警戒はされていないし 討伐対象(まもの) とは微塵も疑われていない様子だった。……ひとまずそれには安心した。

「この村は広くありませんし、村内に仮宿を作ると村人と冒険者の衝突が起きかねません。彼らには村の外に駐留してもらう予定なのですが……」

村へと次々に入ってくる馬車や人々の様子を 見守(さぐ) っていると、村長であるダオンが挨拶にやってきて、そのような説明をはじめた。

たしかにこの村はそこまで広くはない。やってきた冒険者たちはまだ数人といったところだが、これからも人は増えるはず。五十人程度の村にそれだけ人間が増えれば諍いも起きるだろう。

すでにこの村は十人の騎士と宮廷魔導士ニコラウスが常駐しており、騎士も増員されるという話だ。許容量をオーバーするのは想像に難くない。……食料品の不足などの問題は、私がいる限り起きないだろうけれど。

「村の出口から防衛拠点までの間にキャンプ地を作ろうかと。冒険者ならば各々過ごしやすいように拠点を作れますし、村の外でも魔女さまの茨の内側であれば魔物の脅威もありませんからね」

(それってつまり……私の家の近く……ってコト……!? ひぃ……!)

私が作った茨は村だけでなく、そこから離れた私の家のあたりも含めてぐるりと広範囲を囲っている。村の出入り口から私の家まではそれなりの距離があり、人の歩く道を外れれば栗や柿などの実りの多い林が広がっているのだが、ダオンの想定している場所はそのあたりではないだろうか。

「魔女さまが笑顔で受け入れてくださって助かります」

笑顔なのは強面の冒険者が怖いから叫んでしまったためであって、断じて快く受け入れているわけではない。しかし人間にとって笑顔はおおよそ「肯定」なのである。

叫んでひきつっている場合はどうしたって笑顔になるのだから、私が「嫌がっている」と人間に伝わることはないのかもしれない。相手が心でも読めれば別だけれど、読まれたら読まれたで私に待っているのは討伐ルートである。……それならば伝わらなくてもいい。

「場所は……宮廷魔導士さまが転移陣を設置されていたあたりがよいかと」

(あのあたりかぁ……それならまあ、いいかな……。そのキャンプ地、私が作ってもいい?)

ニコラウスの転移陣があるのは村と私の家のちょうど中間地点だ。でも余計に私の家に近づいてほしくはないため、私が林を切り開いて彼らのキャンプ地を設定したい。そう思って自分を指さした。

「魔女さまはキャンプ地作りに協力したいみたいです。……林を切り開いて草地を整えるなら、魔女さまが一番自然にも配慮できますし」

「なるほど……では、お願いいたします。冒険者たちにもそのように伝えておきましょう。……本当に、いつも魔女さまには助けられてばかりですな。どう、お礼をすればよいのやら」

(お礼は別にいらないよ。私はこの村で人間として暮らしたいだけだからね。……魔境のことは、私にとっても問題なんだし……そのための対策に協力するのも、当然なんだよね)

出会った頃の鋭い眼光をどこにやったのか、というくらい穏やかに笑い、信頼のこもった目を向けられて、私もにっこり笑いながら首を横に振った。

ここで暮らせることが私にとって何よりの褒美なのだ。せっかく、私が住みやすい場所になってきたというのに、それを侵食しようとしてくる魔境は私にとっても排除すべき問題なのである。

同じ問題に立ち向かう人間たちに協力し、彼らに戦ってもらえるというのだからそれに否を唱えることなどない。……ただちょっと冒険者たちの見た目が怖いな、と思っているだけだ。

その時ノエルがふいに別の場所を見たので、私もつられてそちらに視線を向けた。商人や冒険者たちの集まりから少し離れた場所に、一人で立っている女性が目に入る。

(あ、獣人だ。猫の獣人……かな? 女の人でも冒険者ってやるんだね)

ノエルが気になるのも当然だろう。私にとっても彼以外で初めてみる獣人族である。しかしその女性は私と目が合うとぶわっと耳やしっぽの毛が逆立ち「フシャー!」と威嚇でもしそうな顔つきになってしまったので、こちらもびっくりして悲鳴が出た。……いきなり怖い顔をしないでほしい。

(なんであんなに警戒されてるのかな……もしや獣人の本能で魔物だって見抜かれて……!? で、でもノエルは私の正体に全然気づいてないよね……!?)

「……あの人……ダオンさんと何かあるのかもしれません」

(……え? ダオンさん?)

「ずっとダオンさんを見てたんですよね。ちょっと敵意を感じた気がしたんですけど……でも何か違うような……?」

ノエルは不思議そうに首を傾げているし、謎の敵意に私はおびえている。ダオンに恨みがあって、笑顔で会話している私にも敵意が向いたということだろうか。

彼はあまり恨まれるたちには見えないが、善意が人の恨みを買うということも世の中にはあるし、何か勘違いや行き違いがあった可能性もあるのでわからない。

(それなら誤解が解けるといいよね……それまで近づかないでおこう)

面倒に巻き込まれるのはごめんである。私は平和と平穏を愛してやまない、ただ静かに暮らしたいだけのマンドラゴラなのだ。

ひとまずその平和のために、さっさと彼らのキャンプ地を作りに行くことにした。……そんな私の背中に視線が突き刺さっている気はしたが、気のせいであってほしい。