軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

68話

「また近日中に市を開きやす。今日はご挨拶と、売り上げをお渡しに参りました。クエリは村で受けていた注文の品を届けにきやしたが、魔女さんにもどうしてもお会いしたいということだったんで」

「何度見てもお美しい魔女さまですからね、本当に参考になります!」

(そ、そっかぁ……私はひやひやするから、いっそ写真とか撮って帰ってくれないかなぁ……。カメラみたいなの、魔道具でありそうなものだけど)

クエリは特に用事があったわけではなく、私に会いに来た、というか私を見に来たらしい。

次の市場では魔道具の店を覗いて探してみようと思う。私を全身くまなく観察するのはやめていただいて、写真で満足してほしい。……いやそれもそれでどうかとは思うが。直接見られるよりはマシな気がする。

「次来る時は何人かの冒険者も一緒になると思います。案内を頼まれてますんでねぇ」

(あ、ついに来るんだね。……うう、怖い人がこないといいなぁ)

「魔女さんは何も心配なさそうですねぇ、あっしも安心して案内役ができるってもんでさぁ」

(心配しかしてないけどね……!?)

怖い冒険者が来るのではないかと内側で小さく悲鳴を上げているのだけれど、それがどうやら余裕の微笑みに見えているようだ。

私に余裕などない。小心者の私が、ガラの悪い冒険者などに絡まれでもしたら、もう泣き叫ぶしかないだろう。ついビビりすぎてツルで絡めとったり口を塞いだりしたらどうしよう。

私は人畜無害なマンドラゴラ。決して人間を攻撃してはならないのだ。……ところで正当防衛ってどこまでが正当防衛なんだろうか。

そんなことを考えていたら大きな気配が近づいてきたので、私は慌ててそちらに顔を向けた。まだ正当防衛の範疇について考えただけで人間に手を出してなんていないけれど、何故か悪いところを見られてしまったような気持ちになり「ごめんなさい!!」と反射的に謝りたくなる。……つまり、ニコラウスがやってくる気配がした。

「おーい、クエリさんが来てるって聞いたんだが……」

少しして姿を見せたのはリッターと、肩に座っている紫株。そしてそのあとに続くニコラウスだった。紫株の定位置が最近そこになりつつあるのはどうなんだろう、と思いつつも、彼らの用事はどうやら私ではなくクエリにあるらしいと分かってほっとした。

「おお、リッターさま。このあと伺おうと思っていたところだったんですが……」

「いやぁ、待ちきれなくってな。紫ちゃんの新しい服が……!」

(ああ、そういえば前に何か注文してたよね……紫株の服だったんだ……)

クエリのデザインはマンドラゴラにも理解できるほど洒落ている。リッターが彼女といろいろ話し込んでいたのは見かけていたが、まさか紫株のオーダーメイドだったとは驚きだ。

リッターがクエリと話し始めると、後ろに居たニコラウスは何故かこちらに寄ってきた。

「こんにちは、魔法使いさま!」

「おや、宮廷魔導士さま。これは、お久しぶりでございます」

「……ん。……一応、これも実験の範疇かと思ってついてきただけだから。ついでに報告するけど、あの紫は少しレベルが上がった」

イライと軽い挨拶を交わしている様子を見て、そういえば、イライを通して鏡を送ってきたのはニコラウスだったと思い出した。知り合いで当然だろう。

そしてニコラウスの用事は紫株の進化の研究についての進捗報告だったらしい。紫株は戦えないので、リッターが魔物を生け捕りにしたうえで紫株に吸わせているはず。なかなか危険かつ大変だと思うが、これも愛の力というやつなのだろうか。

(宝石じゃなくて魔物を貢いでるわけだね……でも、私もその方が嬉しいかも?)

私は人間ではないので、装飾品などは人間らしさを演出するための必需品ではあるが、嗜好品にはならない。宝石は食べられないし不要なので、それならまだ腐葉土でももらった方が嬉しい。

それを考えるとリッターは紫株の好感度をしっかり上げられていると思う。紫株は出来上がった服を着るため馬車の中に連れていかれたため、姿が見えなくなる前にステータスを確認した。……もとから全裸でも問題ない上に紫の布を着ているので、わざわざ隠れて着替える必要もないとは思うのだけれど。

【種族】マンドラゴラ(眷属)

【レベル】5

【体力】D

【魔力】B

【スキル】なし

【進化ポイント】2

【説明】

浄花の栄養で育ったマンドラゴラ。眷属個体のため、主人の命令を忠実に守っている。

動き回れるという特殊な進化をしているが、下された命により、声の即死攻撃を封じられ、また人を傷つけることもできない。現在の危険度は低く、良質な薬の素材となる。

人間への好意から人に近しいものへ進化する可能性があり、敵性はない。しかし望まずとも主人の命令が下れば逆らえず、いつでも即死の呪いを振りまく死の兵器となってしまうため、留意が必要。

紫株のレベルは元々「3」だった。魔物は生まれたてのレベル1では進化ポイントを持たないが、2に上がった時に2ポイント入手し、それ以降はレベルが一つ上がるごとに1ポイントずつ増えていく仕組みだ。

この株だけは他と違って、体型を変えさせている。自由に歩き回る手足、声を封じる蓋、ナイスバディな体型で3ポイントを使った状態だった。確かに少し育っているので、リッターは頑張っている。

(っていうか説明文がちょっと変わって……私が諸悪の根源みたいな説明になるの、なんで? こんなに人間の役に立ちながら生きてる魔物、他にいないと思うんだけどなぁ……)

まるで人間が好きな心優しい魔物を、無理やり戦わせる悪の魔王のような書き方をされている。一体全体私が何をしたというのか。こんなにも無害な魔物に対してひどい扱いだと思う。

「鑑定をしたけど、あの紫はやっぱり……」

「どうですか、自信作です! とても似合うでしょう!」

ニコラウスが何かを言いかけたところで、クエリに連れられた紫株が戻ってきた。全員の注目が集まり、イライが盛大に咳き込んでいる音が聞こえてくる。

ぴたりと体型に沿いボディラインを強調する、民族衣装チックな刺繍が施された布地。左右の太ももから足首まで大きなスリットが入っている、一枚のドレス。要するにこれはチャイナドレスである。……中華が存在しない場所でこの発想をしたならやっぱりクエリは天才なのかもしれない。そしてリッターはどのような注文を付けてこれが出てきたのか気になる。

「なんてこった……セクシーすぎるぜ……」

満足そうなクエリと体をそらせてポーズを決める紫株の前で、リッターが膝をついて恍惚としている。イライの咳き込みはまだ続いており、おそらくこれは笑うのを誤魔化しているのだろう。

「あの、魔女さま。リッターさんに何か、使える薬は……」

「あれを治されたら僕が困る。正気に戻さなくていい」

(あそこまで行ったら戻れないと思うんだけどなぁ……理解できない世界だけど……)

ノエルの心底心配したような声を、ニコラウスがぴしゃりとさえぎった。しかし私もあれは治せるものではないと思う。

私はその日、 性癖(せかい) の広さをまた一つ知ったのであった。