軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

66話

「気が合いますね。魔女殿とは……共通の悩みもありますし、他の誰よりも話しやすいと思ってはいるのですが」

共通の悩みというのは「呪い」のことだろう。レオハルトは私の声に、他人に嫌われる呪いが掛かっていると思い込んでいる。呪い無効でない限り声を聞かせられないのは同じなので、私も否定しない。

「この目のこともあり、私は本心から付き合える相手がいないのです。だから、友と呼べる人もいません」

これは意外だった。レオハルトは他人に好かれている。騎士団のメンバーからはもちろん、村人たちからもだ。ノエルだって最初は警戒していたレオハルトを、今では受け入れて懐いている様子なのだから。

親切で、物腰が柔らかく、誰にでも丁寧。率先して危険に身を投じ、人々を守る理想の騎士。皆が彼をそう評している。

(あ、でもそっか。皆はレオハルトさんを尊敬してるけど、友達じゃないんだ。……そういえば私も友達、いないね……?)

自分の周りの人々の関係を思い浮かべて、私も友人関係にある人間がいないことに思い至った。一番近しいノエルは私の従者であり、村人たちは私を「魔女さま」と崇めているが、それは尊敬や崇拝であって友情ではない。

ニコラウスはいわずもがな。最近私への態度は軟化しつつあるが、それでも警戒対象には違いない。彼に正体がバレるのが一番まずいのだから。

つまり、私は一人浮いているのである。……これはまずいかもしれない。地に足がついていないというか、ちゃんと人間の中に交ざれていないのでは。

「それで……その、この度こうして魔女殿とお話する時間が欲しいとお願いしたのも……実は、貴女と友人になりたいと、思っていたからでして」

「……友人に……?」

「はい。……貴女以外に、悩みを打ち明けられる人もいませんから。それに魔女殿も……私になら、話せるかと」

彼は眼帯で隠した左目にそっと触れる。レオハルトにとって私は呪われ仲間であるため、相談がしやすいのだろう。呪いを持っていることを隠して周囲と付き合っていれば苦労もするのは想像できる。

だから同じ悩みを持つ者同士、お互いに内心を吐露できるような友人になりたい、とそう願うのは自然なことだ。

(実際私の呪いはまあ、ちょっと違うんだけど……でもこの提案は、悪くないかも)

友人の一人もいない怪しげな魔女と、騎士も親しみを持って友人となる魔女だったら、どう考えても後者の方が人間らしい。

そのような打算的な 理由(したごころ) から、私はレオハルトの提案に乗ることにした。

「私も……貴方の友人になれたら、嬉しい」

嬉しいというよりありがたい。是非、何も後ろ暗いところのない、無害で善良な魔女の友人だと触れ回ってほしい。

私の答えを聞くと、レオハルトはほっと安心したように息を吐いて笑った。

「よかった。……これからもどうぞ、友人としてよろしくお願いします、魔女殿」

(よし……これでボッチの魔女は脱出できたね。むしろ提案してくれてありがとう、レオハルトさん)

魔物であることを隠して人間に交ざり、自然に溶け込もうと考えていたが、友人を作るなんてことはすっかり頭から抜けていた。友の一人もいないのに馴染めているような気がしていたところだったので、気づかせてもらえてよかったとも言える。

まあ、ちょっと私が打算的過ぎるかもしれないが、レオハルトは私に親切だし、私も彼には親切にしたい。人間と植物の友なので、人同士の友情とは違っても仕方がないと思って納得することにした。

「魔女殿に頂いた四葉はお守りにさせていただこうと思っています。……友人から幸福を願われたなら、どのような死地からでも戻ってこられるでしょう」

(四葉にそんな意味があるんだ? 験担(げんかつ) ぎっぽい……カエルのお守りみたいなものなのかな)

何も考えずに渡した四葉だったが、どうやらお守りにもなるものだったらしい。しかしあれはただの四葉であり、すぐに枯れてしまう。それでは幸運が散ってしまうのではないだろうか。

そう思って首を傾げていると、レオハルトは少し慌てた様子で、あの四葉を押し花にして持っているのだと教えてくれた。

(押し花でも壊れやすいのは変わらないよね。……あ、そうだ)

それならコーティングして壊れにくくすればいい。固いもので覆ってしまえば、四葉はちぎれることもないだろう。

「今も持ってる?」

「……はい」

「ここに、出してみて」

そう言われて戸惑っている様子だったが、彼は懐から小さな巾着を取り出して、そこから折りたたまれた紙を取り出した。その中に押し花にした四葉が収められてあったけれど、やはりこれではすぐに壊れてしまいそうだ。それではお守りの意味はないだろう。

(樹脂と……それを固める薬剤を混ぜて……)

これはニコラウスの宿を作るとき、そのテーブルを作るときにも使ったものだ。琥珀に似た性質の塊ができるので、これで固めれば頑丈になる。

押し花の四葉を両手で包み、樹脂で固めてから改めてレオハルトへと差し出した。

「これで大丈夫」

「……はい。魔女殿、ありがとうございます。私は必ず、友人のもとに戻りますから」

琥珀に入った四つ葉を受け取った彼は、それを拳の中に収めてぐっと握った。私はそんなに強く握ると壊れるんじゃないかと思って少しハラハラしたが、無事に再び巾着の中に収められたそれを、レオハルトが首にかけて服の下へと仕舞ったことでとりあえず安心した。

(危険な仕事をしている友人にお守りを贈るなんて人間らしいことをしたなぁ。友人第一号もできたことだし……今日の私はとても人間っぽい活動を……そう、人活をした気がする!)

きっと、また一歩善良な人間の魔女に近づいたことだろう。満足した私は、レオハルトが淹れてくれたお茶を一口のんだ。……ノエルが淹れてくれた方がおいしい気がする。