軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

65話

ニコラウス経由で受けた国の仕事のため、私は川辺で浄花を増やしていた。浄花を育てるのは魔力を使うので、種から育てるよりはすでに生き生きと育っている花に増えるよう命令した方が楽だ。

川の淵に腰掛け、足を水に浸して栄養補給をしつつ、あたりの浄花を増やしていく。ノエルは増えた浄花を空の鉢に移す作業をしてくれていた。

(あれ……ノエルの服が小さい気がする。また大きくなったのかな? 獣人は寿命短いらしいし、成長も早いね。新しい服が必要だなぁ)

次に市場が開かれた時にはノエルの服を新調するべきだろう。服飾を扱う店主兼デザイナーのクエリは私を隅々まで見ようとするのでかなり怖いが、いつも頑張ってくれるノエルのために店にいかなければならない。……いや、やはりお金だけ渡して自由に買い物をさせることができればそうしたい。

あれだけじっくり観察されていると、作り物の体の不自然さを見抜かれるのではないかとヒヤヒヤする。

「魔女さま、お客さまが来たようです。……レオハルトさんかな、こっちにいることを伝えてきましょうか?」

(姿は見えないけど、よく分かるなぁ。獣人の感覚って鋭いんだ)

ふと作業中に顔を上げたノエルの言葉に頷くと、彼は土に汚れた手を川で洗ってから、家の表へと向かって駆け出して行った。レオハルトが来たなら何かの用事だろうし、作業は中断だ。私も川に浸けていた足を上げ、靴を植物で作り直してから家の表口に向かう。

「魔女さま、レオハルトさんからこちらの差し入れを頂きました」

ノエルとレオハルトは家の前で軽く挨拶をしていたところだったようだ。土産として野鳥を一羽丸まる貰ったらしく、ノエルが嬉しそうに掲げて見せた。まだ羽もむしっていないので、新鮮なものだろう。捕れたてかもしれない。

肉自体は食べない私もその栄養が染み出たスープは飲めるし、成長期のノエルに肉を食べさせてあげられる。とてもありがたい手土産だ。

「魔女殿、こんにちは。……お元気そうで、よかった」

(ああ、この前会ったのは拠点づくりの時だったからね。まだ心配してたんだ)

レオハルトは私を見て片目を安心したように細めた。前に会った時は魔力を使いすぎではないかと心配していた彼に四葉を贈ったことを思い出す。あのあとすぐに回復したし、特に疲れも残っていない。しかしそれでも心配していたからわざわざ顔を見に来たのだろうか。

「今日は、その……お暇はありますか? 私は本日非番で、一日空いておりまして。どこかでお時間があればお茶でもご一緒したいと、思ったのですが……」

(……あ、そっか、話し相手になるって言ったんだったね。そういえば今日はちょっとラフな格好をしているような?)

いつもきっちり鎧を身に着けているレオハルトだが、今日は剣を携えてはいるものの、鎧は着ていない。休日の私服ということだろう。

今日は急ぎの用事があるわけではないし、これから少しくらい雑談しても問題ないと思って頷いた。そんな私たちの姿を交互に見ていたノエルの耳と尻尾が、なんだか少し元気がなさそうに倒れ掛かっている。

「あの、魔女さま……レオハルトさんとは……やっぱりなんでもないです。俺は外で仕事してた方がいいですか?」

(うん、お願い。ノエルに声を聞かせるわけにはいかないからね)

「……わかりました。俺は鳥を捌いたら浄花を鉢に移す作業の続きしてますから、用事があったら呼んでください」

なんて察しのいい子だろう。外に出ていてとお願いする前から出てくれるとは思わなかった。いつもより元気のなさそうに尻尾が下がり気味の背中を見送りつつ、何故元気がないのか少し不思議だった。

「勘違いをさせてしまいましたね」

(え、なんの勘違いだろう……)

苦笑しているレオハルトの言葉に首を傾げた。そもそも私は、人間たちにあらゆる勘違いをされた状態で過ごしている。勘違いが勘違いを呼び、偶像としての花の魔女が出来上がっているのだ。ノエルの中の「魔女さま」なんて一体どこまで進んでいることやら。

つまり、私は彼らの勘違いがどこまで行っているのか想像するのが難しい。所詮は人のフリをするマンドラゴラだ。……彼らの中にある魔女なんてどこにもいない。

「あとで訂正しておきますので、ご安心を」

(まあ、うん。じゃあそれは任せようかな。ひとまず家へどうぞ……)

家の扉を開け、レオハルトを中へと招いた。そしてテーブルに案内した後、いつもは客人をもてなすお茶を準備してくれるノエルがいないことに気づく。

(そういえば台所を使ったことがないかも……ええと)

とりあえずキッチンスペースに入り、何があるかを確認し、お湯を沸かそうにも竈の使い方が分からず、どうにかお湯の入ったポットと浄花の茶葉を見つけたところでレオハルトがこちらにやってきた。……慣れないせいでだいぶもたついて待たせすぎたかもしれない。

「魔女殿に何もかもして頂くのは申し訳ないと思いまして。……お手伝いいたします。そちらのお茶を淹れればよろしいですか?」

(よし、お願いしちゃおう。じゃあ私はお茶請けを探そうかな……)

頷いてお茶を淹れるのはレオハルトに任せ、私は棚からノエルの手製のお菓子を取り出した。とはいえ、私は食べないのでレオハルト用だ。

客人用にいつも用意してあるのは知っていたので、これは出してもいいはず。そう思いながら皿に盛って、ちょうどお茶を淹れ終わったらしいレオハルトと共にテーブルへと運んだ。

(……なんだか楽しそう? 客人なのに手伝いをさせられても嫌な顔一つしないんだなぁ……)

むしろ私は普段ノエルに任せきりで、自分がまったく何もできないことに驚いている。なにせ、竈の使い方から不明だった。私が知らなかっただけで魔道具の一種らしく、見慣れない形のコンロのようなものが設置されていた。

そもそも私は自分で火を出したり水を出したりできるので、人間の道具の使い方がいまいちわかっていないのである。

(今度、ノエルがやっていることを観察しようかな。さすがに竈の使い方くらいは知ってないと……)

そして私たちはテーブル越しに向かい合うように席に着いた。家の壁には「音無し草」をきっちり生やしているので、この家の音が外に漏れる心配はないし私も声は出せるけれど、会話を切り出すのは難しい。

(人間ってどうやってしゃべるんだっけ……!? な、何か話し出すべき……!?)

続く無言に私があわあわとしていると、レオハルトが少し眉尻を下げて困ったような顔をしながら笑った。

「……魔女殿とお話ししたい、と思っていたのですが……いざこうしてみると、緊張して言葉が出ないものですね」

どうやら人当たりのいいレオハルトでも同じらしい。それに少し安心した。いくらリッターが相手をしてくれないとはいえ、普段かかわりの少ない魔女と雑談だなんて彼も緊張するのだ。つまり私が緊張してもおかしくはない、むしろこれは人間らしい反応といえるだろう。

「……私も同じ」

人間らしさをアピールするべく、同意見であることを伝えると、レオハルトもまた少し驚いた顔をして、嬉しそうに笑った。