軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

62話 ニコラウス

拠点についての報告を上げたところ、ハヤブサの形をした魔道具で届いた王都からの返事には追加の要請が加えられていた。花の魔女に対して、他の仕事も頼みたいという内容だ。

それを目にしたニコラウスは盛大に舌打ちし、傍に居た緑株が震えあがってしまった。

「……お前に怒ったんじゃないぞ」

短い手で口元を押さえながら震える緑株に、なんともいえない気分になる。本気ではないとはいえ、数日前に脅したのが悪かったのか、この緑株には怯えられている気がしてならない。

時々桃株もやってくるが、主にニコラウスの傍に居るのは緑株のままだ。しかし物陰からそっと様子を窺う姿を見るようになったので、少し警戒されているのだろう。

(……魔女にも嫌な言い方したしな。……まあ、でも、眷属を離さないってことは……僕のことを気にしてるんだろうし、嫌われては……いない、はず)

あの後栄養剤をこの緑株に持っていかせたし、戻ってきた時には薬瓶を持っていなかったので、魔女は受け取ったものだと思われる。……飲んだかどうかは分からないが。

そもそもあの余裕たっぷりの態度からして、魔女はとてつもなく長生きなのだろうから大したことでは動じないはずだ。……多少言葉遣いが乱れたくらいで、呆れられるほどではない、と思う。

(仕事の用事もできたし、様子見に行くか……これは早めに伝えた方がいいだろうし)

王都からの書簡を握りながら家を出ると、勿論緑株もそれについてきた。短い脚を必死に動かしてついてくるので、仕方がなくゆっくり歩いていく。

「あ、魔法使いさまだ。こんにちはー!」

「……ん。……それ、何してるの?」

村を通り抜ける前に村人の少女から声をかけられた。人族と深く関わる気はないため、会釈だけで通り過ぎようと思ったのだが、その少女の傍にいた別の存在に興味を惹かれる。

根の部分をまるっと包む黄色の布の上に、やたらとフリルのひだが重ねられたドレスのような服を着せられたマンドラゴラだ。

緑株は何も付け加えられていないが、桃株も侍女のような服を着せられている。もしやマンドラゴラに服を着せるのが流行っているのだろうか。

「踊る練習だよ!」

「……踊るの?」

「そう! 見ててね!」

子供が大人に自分の行動を見せたがるのはよくあること。普段なら気にも留めずに素通りするところだが、何せ足元の黄株の行動が気になってしまい、ニコラウスもその場に留まった。

少女は創作であろう歌を歌い始め、それに合わせて黄株が踊り始めた。フリルの服をキレのある動きで揺らしながら、情熱的で激しいステップを踏んでいる。

(面白すぎる。なんだこれ)

思わず一曲見入ったニコラウスは「どうだった?」と言いたげに輝く目を向ける子供と、決めポーズのまま動かない黄株、音はならないが拍手でもするように短い両手を叩き合わせている緑株を順番に見て、頷いた。

「いいんじゃない?」

「やったぁ! 魔法使いさまに褒めてもらえたよ、ヒカリちゃん!」

どうやらこの黄株には「ヒカリ」という愛称がつけられているようだ。やはり魔女の眷属たちはそれぞれ個性を獲得している様子である。

再び歌と踊りの練習を始めた少女と黄株に別れを告げ、ニコラウスは今度こそ魔女の家へと歩き出した。そうして村の出口の柵を通りかかったところで、そこにある鉢の中にはまた別のマンドラゴラがいたので足を止めた。

(……これは、何してるんだろう。隠れてるつもりかな)

緑株と互いに敬礼で挨拶を交わしているマンドラゴラは、フード付きのマントのようなものを羽織っており、花ごとフードの中に隠した状態で鉢の中に納まっている。しかしそれで隠れられるはずもないので、どうやら隠密が下手らしい。

(こうして見ると緑だけそのままっていうか……普通だな。……いや、普通ではなくないか?)

マンドラゴラが意識をもって歩いているだけで異様な光景である。だんだん花の魔女の作り上げた奇妙な村の光景を、当然のごとく受け入れて「普通」を書き換えられそうになっていたようだ。

規格外を目の当たりにしすぎた弊害である。とりあえずどのマンドラゴラもおかしい。王城に帰ったら、動かないマンドラゴラに物足りなさを感じそうなほどだ。

そんな村の出入り口を離れ、転移の魔法陣も通り過ぎようとしたところで、ニコラウスのコートの端が何かに引っ張られた。足元を見ると緑株が裾を掴んで引っ張り、もう片方の手で転移魔法陣のある場所をクイクイと指している。

(魔法陣は使わないのかって意味……?)

どうやら緑株と過ごす時間が長くなってきたことで、言葉を発さない彼らに慣れ、言いたいことが分かるようになってきたようだ。

彼らは言葉を持たずとも感情や意思が強いので、それが何となく分かるのである。リッターも紫株のことがよく分かるようだし、話せなくても意思の疎通はできなくはない。

(魔女だって話さないしね。……まあ、あの女は話せなくても文字は書けるし、行動原理も察せるからマンドラゴラたちより分かりやすいけど)

献身的で、自己犠牲を厭わない。他人ばかり気にして世話焼き。そういうところを知っていれば花の魔女が声を失っていても、何をやりたがっているか、何を言いたいかは分かるものだ。

「別に今日はあれで移動するわけじゃないよ。用があるのは魔女だから」

緑株の疑問に答えながら魔女の家に向かって歩き出す。しばらくして、家が見えてくるころには狼獣人の少年が出迎えに現れた。

「魔法使いさま、いらっしゃいませ。魔女さまがお待ちですよ!」

ニコニコと笑いながらそう言われて、ニコラウスは少しだけほっとした。……やっぱり、嫌われてはいないらしい。