軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

61話

人間のために拠点づくりを手伝ったら、やりすぎたのかニコラウスに睨まれる結果となってしまい、私は急いで逃げ帰ることとなった。

内心では恐怖に震えながら戻ってくると、家の前でノエルがおろおろと周囲を見回しており、私に気づいて駆け寄ってくる。

「魔女さま! あの、すごい変な気配がしたんですけど、大丈夫でしたか?」

(うん、大丈夫。ちょっと植物の壁を張り直したりしただけ……)

私の作る茨の壁がその範囲を広げて配置を変えたので、早朝とはいえすでに目を覚ましていた村人はノエルのように驚いたかもしれない。

おそらく近くで見ていたレオハルトが説明はしてくれるとは思う。彼はニコラウスと違ってまだ私に好意的で協力的だから、悪いようにはしない……はずである。

「植物がざわついてたので、魔物が襲ってきたのかと思ったんですけど……なんだ、魔女さまだったんですね。ならよかったです。じゃあ俺、朝食の準備してきます!」

ノエルなら私のためにスープや飲み物を用意してくれるだろう。魔力を使ってお腹が空いているので、楽しみだ。しかしその前に多少補給しておこうと私は家の裏手へと回った。

川に足を浸しながら、その水に染み出ている浄花の栄養を吸う。これだけ川が栄養豊富だと水草類が伸びすぎて魚が住めなくなりそうだったので、この川に生息する水草は私が【多様化】で作ったものと入れ替えた。これで繁殖しすぎることはないし、私は水浴びするだけで結構な栄養補給ができる。

(川に沿って下流にもちょっとずつ範囲は広げてるけどいいよね。水草が伸びすぎるのもよくないし)

下流に伸びていけばそのうち私の水草は海に到達するかもしれない。海水となれば海藻類が育ち、私の取り込んだことのない種類の植物になるので支配しきれない。

一度海にも行きたいところだ。海藻は地上の植物と違うので、私の操れる範囲にあるかは分からないが、海沿いにしかない植物というものもあるだろう。世界中のあらゆる植物を取り入れておけば、いざという時の手段が増える。……戦うのは怖いけれど、植物系の魔物もできる限り取り込んでおきたい。

(私の代わりに戦わせることもできるからね。今回は拠点にもいろいろ配置したし……眷属に魔物狩りをさせたら、私は戦わずに栄養補給もできるし、怖くないし……いいことだらけじゃない?)

マンドラゴラのように無差別攻撃をしてしまう魔物は戦わせられないが、魔物だけを攻撃できるならば人間の生活区域にいても問題ないだろう。人間を襲う敵を倒して栄養にする植物の魔物ならば、人間の味方であり、共生関係と言えるはずだ。

(そうやって少しずつ、人間が植物の魔物を怖がらなくなれば……いつか私の正体がバレたとしても見逃してもらえるよね)

しかしそれは保険であって、一番は正体を悟られないことだろう。このまま花の魔女として、人間と同種だと思われている方が都合がいい。

そんなことを考えているところに何故か子株が近づいてくる気配があって顔を上げた。やがて姿を見せた緑株は、何かを両手で掴んで頭上に掲げながらこちらにやってくる。

(緑株にはニコラウスさんの見張りをさせてたはずなんだけど……何かあったの?)

私にとって最も正体バレの危険があるのは、魔族唯一の生き残りであるニコラウスだ。だからこそ常に監視の目をつけていたかったし、彼も子株がそばにいることは許容している様子だったので、緑株を専用の見張りにしていたはずなのに、何故か持ち場を離れてここにいる。

(何があったのか、ちょっと同期して確認してみよ……ヒッッ!!!!)

子株と同期すればその記憶を知ることができる私は、緑株が「お前を薬の材料にするぞ」と脅されていたことを知り、ニコラウスに従うしかなかったのだと理解した。……これは叱れない。

しかもちゃんと役目を桃株と交代してきたようなので、許すことにした。やはりニコラウスは恐ろしい。マンドラゴラ相手に命令を聞かねば材料にすると脅しをかけるような危険人物である。怖すぎる、近づきたくない。

(それで、子株が持ってきたこの瓶って……ニコラウスさんが子株たちにあげてる栄養剤の瓶に見えるけど……色がちょっと違う?)

緑株の記憶の中でニコラウスはこれを栄養剤と言っていた。いつもの植物用の栄養剤とはどうやら違うようだ。……それをわざわざ、子株を脅してまで届けさせた。

(……飲め……ってことだよねぇ……?)

魔力回復薬よりは劣るという口ぶりだったので、もし飲んではいけない物だったら上位互換の魔力回復薬を作って返せばいいのだ。

むしろ飲ませるつもりで子株に持たせたのに、私が飲んでいなかったらもっと怒る気がする。今朝の眼力を思い出して身震いしながら小瓶の蓋を開け、口に当てて少しずつ流し込んだ。

(あ、おいしいかも。植物の栄養剤とは違う味だけど……人間の栄養剤かな? まあ、私は人間だと思われてるんだもんね)

浄花の川の水とこの栄養剤ですっかり回復した私は、家に戻ることにした。緑株はニコラウスにつき切りだったので、少し休ませてあげたほうがいいのかもしれない。

(監視は他の子株と交代しながらでもいいよ、ニコラウスさんを見ておくのは……今は桃株が見てるし)

私の新たな命令に緑株は敬礼で答えている。そしてふと思い出したが、桃株はメイド服のようなふりふりのエプロンをつけていた。紫株や黄株はそれぞれ服を注文したり作ったりしている人がいるし、水株は特に服らしい服は着ていないものの水色に染めているし、最近は村長のダオンと一緒にいて何かをして親しくしている様子だ。

この緑株だけは服の布は染めておらず、使っている植物の色そのもので緑色、他の者に比べて最もスタンダードで何の飾り気もない上に、特に仲のいい住人もいない。

(没個性……ってコト? でも私に一番似てるよね)

私の服もおおよそ植物の色をそのまま使った緑なので似たようなものだ。やはり普通が一番安心する。このまま普通の善良なマンドラゴラとして、いや花の魔女として、穏やかに生きていきたいものだ。