軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

57話

「私は……魔女殿ともっと、話す機会があればと。それ以外は特に、望みません」

(私と話したい……? え、それだけ?)

植物でどうにかできるものであれば作り出して 袖の下(おくりもの) をできると思っていたのに、なんとレオハルトは私と話すだけでいいらしい。

やはり話し相手のリッターをニコラウスに取られて寂しいのだろう。その代わりにほとんど喋らない魔女と話したいだけなんて、なんとも無欲な人である。

「他に欲しいもの、ないの……?」

しかしそれでは賄賂にならない気がする。私が再度尋ねるとレオハルトの金の瞳が揺らいだ。しかし、一度瞼を伏せたあとは穏やかに微笑んで、首を横に振る。

「いえ、今の私に望めるようなものは、何も」

(謙虚だなぁ。でもレオハルトさんに賄賂は通用しないってことか……)

物で釣れない相手となるとその方法での懐柔は難しい。となればやはり、レオハルトの言葉通り話し相手をするくらいしかないのだろう。

元々彼は私に対して特別に親切だ。同じ呪いを持つ者同士と勘違いしているようなので、そこで親しみを持ってくれているのだと思う。

ただ彼と会話するのは私にとってもリスクがある。レオハルトには効かない声だが、野生生物は殺す可能性がある。鳥でも死なせてぼとりと落ちてきたら、声の呪いの性質が別物であることが露呈しかねないのだ。

(うーん、じゃあ……やっぱり、家の中で二人きりになるのがいいね。音無し草も使えるし、ノエルは外に出てもらって……)

それが一番安全だろう。それに、私も発声の練習になる。レオハルト以外に声を聞かせるわけにはいかないため、まったく話さないままで過ごしていたせいで、今も声が震えがちだ。このままではいつか叫ぶ能力まで退化してしまいそうで怖いし、何より人との会話のコミュニケーションの仕方を忘れかけている。

五百年人里を離れていた魔女という設定もあるので、多少会話に不慣れがあっても許されるだろうし、レオハルトを練習台にするのは私にもメリットがあるはずだ。

「じゃあ今度、家に……来てくれる? ……ひとりで」

「……はい。嬉しく思います」

その時のレオハルトは本当に嬉しそうに笑っていたため、これでよかったのだろう。私が拠点についてやりすぎた点はどうやら誤魔化せた――と思っていたら、背後の方からぞっとする気配が近づいてきて振り返った。

(うしろ……っていうより、上……?)

私が空を見上げていると、レオハルトもつられたように同じ方向を見る。しばらくして上空に人影が現れ、それはすぐに大きくなって地面へと降り立った。

姿を見る前から誰なのかが分かる。ある程度近づけば必ずその存在を感知できるような人間は、不満そうにじっとりした紫水晶の目を向けてくるニコラウス以外に存在しない。どうやら魔法を使って空を飛んできたようだ。

「何してるの、お前たち」

「魔女殿が拠点づくりに協力してくださいました。……もう、ほとんど完成しています。あとは物資や細かな道具を運び入れるくらいで、すぐにでも使えるでしょう」

「…………お前はほんと、すぐ大規模な魔法を使う。そんなにポンポン魔法を使って、魔力切れを起こしても知らないぞ」

そう言いながら睨みつけられて、私は縮みあがった。思わず体を抱くように両腕をつかんでしまったが、叫べば叫ぶだけこの顔は微笑むため、笑いながら腕組みをして話を聞く気がないと言わんばかりの態度になってしまっているのだろう。ニコラウスはさらに苦々しい顔になった。

「魔族の魔力切れは、他の人種よりも重い症状が出ると聞きますが……」

「そうだよ。お前たちは魔法が使えなくなって疲労感を覚えるくらいだろうけど、僕たちの場合は魔力が減りすぎれば体調を崩すし、最悪衰弱して死にかねないからね」

(え、何それ怖! ……魔物も魔力切れになると死ぬのかなぁ……気を付けよう)

私はまだ人間たちの常識も、知識も足りていない。赤子同然、生まれたてのか弱いマンドラゴラである。まあ魔力は計測不能と表示されるほど多いようだが、魔力の使い過ぎはなんにせよ体に良くないのだろう。

(でも魔力的にはまだ全然余裕あるし大丈夫だよね……お腹がすいたくらいで)

一瞬立ちくらみのような症状が出ただけだ。拠点づくりが楽しくてちょっと調子に乗っていろんな仕掛けを施してしまったので、いつもよりは使いすぎたくらいのもの。

魔物を食べるか、浄花の花弁でも食べれば回復するだろう。この村には多くの浄花が咲いているので非常に助かる。私は養分に困らないし、いい住処になったと言える。この浄花にあふれた土地に住んでいれば、私は早々死ぬことはないはずだ。

「魔女殿、やはりご無理をさせていませんか? それならばどうか、二度とこのようなことはせず、御身をお大事になさってください」

(え、いや大丈夫だよこれくらい。最近はこの村に植物を生やすのも、慣れたからか簡単になってきたしね)

ビット村に到着した当初よりも、この土地に植物を生やすのに使う魔力が減っている気がする。それは私が慣れたからか、それとも浄花の花弁が多く散るこの土地の栄養が豊富だからなのか。理由は分からないが、土地に植物を増やすこと自体はそんなに疲れることでもない。

そういう意味を込めてゆるゆると首を横に振ったけれど、レオハルトはまだ心配そうだった。さて、どう余裕であることを示したものか。

(うーん……お花でサプライズ、とか?)

魔力にはまだ余裕があるから心配しなくていい、というアピールになるはずだ。しかしあまり派手な植物だと無茶をしているように見えてまた怒られそうなので、人間が好きなものでありつつ派手でないものにすることにした。

先日扱ったばかりのこともあり、思い浮かんだのは四葉のクローバーだった。それを手の中に作って切り離し、レオハルトへと差し出して見せる。

「……魔女殿、これは……私にくださるのでしょうか?」

(あ、欲しければどうぞ。すぐ萎れちゃうだろうけど)

余裕アピールができればそれでよかったのだが、レオハルトも幸運の四葉は嫌いではないのだろう。そっと受け取ってハンカチに包み、懐にしまっていた。

「……ふうん、まだ余裕って言いたいわけか。お前のおかげで計画のやり直しが必要だから、宿に戻って会議を再開した方がいい。この騎士は連れていくから、早く帰れ。……余計な魔力を使わず休めよ、馬鹿め」

(ひっ! 余計なことしてごめんなさい……! すぐ帰りますぅううう)

声が低くなって明らかに不機嫌なニコラウスに再度睨まれて、私は悲鳴を上げながらそそくさと逃げ帰った。

……怖すぎてニコラウスの機嫌を取るどころではなかった。彼への賄賂はまた別の機会にしよう。