軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

天使さま、ダンジョンに行く

ダンジョン創造から二週間が経った。

俺は今日も今日とて日常的なダンジョン機能の維持をフクレに任せ、のんびり宇宙から地球の様子を観察していた。

ここ数日で様子見に徹していた国も随分少なくなったようだ。

軍人だけでなく学者が付随したりマスコミが帯同するシーンも増えてきた。

初めは銃火器ばかりに固執していた攻略法も、日本に倣って変えてきている。

その日本だが、ついにダンジョン開放が始まっていた。

といっても、誰もがふらりとやってきて入れるわけじゃない。

公募で集められた人の中から、テストを突破して講習を受けた者だけに「探索者ライセンス」が発行され、その許可証を見せると中に入ることができるのだ。

いくら総理の決断があったとはいえ、たった数日で資格制度を整えたわけで、携わった人たちの苦労が偲ばれる。きっと都庁は不夜城になっているだろう。

そんなわけで東京ダンジョンの現状を眺めていたんだが……。

見ていると体がそわそわしてきた。

行ってみたい、という気持ちが後から後から湧いてくる。

俺だってダンジョンで遊びたいんだ! と。

前世の俺は元々ゲームが好きでインドア派だったし、ハーヴェンに転生してからは余計に引き籠りがちになってしまったが、さすがに一週間も船内に閉じこもっていると飽きてしまう。

やっぱりここはストレス発散も兼ねて出かけよう。

決めるや否や、まずエンジンルームでせっせと働いている相棒を訪ねた。

「フクレ」

加速器に繋がれた電算機。そのコンソールとにらめっこしていた緑のクラゲがこちらを振り返る。

「ちょっと組み立てを手伝って欲しいものがあって。手伝ってもらえませんか?」

『ハイ! お任せください』

「ええと、確かこの辺に……」

部屋の隅に雑然と積んだ荷物の中から、小箱を探して取り出す。

外面にカラフルな絵や写真がついた化粧箱だ。

文明が進んで実店舗で物を売るという文化が廃れて久しい昨今、化粧箱という存在も消えつつあるらしい。が、ゲームはダウンロードソフトで買っておきながら後でパッケージ版を買う人がいるように、化粧箱も化粧箱としての需要が存在する。これはそんな俺みたいなアナログ人間が買った商品の一つ。

『 小型転移装置(ミニポータル) ? どちらへお出かけデスか?』

「一度、この目で東京ダンジョンの中を見てみたいな、と思いまして」

『それならこの船からでも見れるのでは?』

「……現地の雰囲気を肌で感じてみたいんです」

『なるほど、視察というわけデスね!』

「ええ、まぁ、はい」

本音は暇つぶし……なんだが。

どうにもこのシルキーは俺のことを高く見積もっている節があって、その期待を裏切れない。目がないのにキラキラと見つめられているような気さえする。

小型転移装置は文字通り人や物を別の座標に 転移(ワープ) させる装置だ。

距離の制限があるから星間移動にこそ使えないものの、とても需要がありこうして小型化もされている。

実はハーヴェン族ならこんな装置を使わなくても、霊子を操っていつでもどこへでもワープすることができる。俗にいう〈姿うつし〉という操霊術なんだが、俺は使えない。ゼル爺曰く「我思うゆえに我あり」を体現するだけらしい。よくわからん。

ともあれ、組み立てよう。

フクレが次々渡してくれるパーツを操霊術で浮かせて仮組する。金具も横着して手を使わずにくっつけていくと、あっという間に完成した。

シルエットは丸ポストに似ているかもしれない。ただ天井がないのと、横面も支柱だけでスカスカだ。側部に半月型の操作パネルがついている。

「座標を設定して……と。よし、お土産は何がいいですか?」

『ワタクシはレグ様が無事にお戻りいただけるだけで十分デス』

「それは……責任重大ですね」

転移位置は東京ダンジョンの真ん前ではなく、少し離れた場所に設定した。

仮に転移位置に人がいたとしても、その誰かと 混(・) ざ(・) っ(・) て(・) しまったり、あるいは壁の中に埋まる――なんてことはない。ただ転移が中止されるだけだ。だから転移事故を警戒しているというより、人気がない場所を選んだら自然とそうなった。

ちなみにこの転移装置、転移した側にも同じ装置がないと一方通行になる。

じゃあ帰りはどうするのかというと、飛んで帰るつもりだ。

それくらい俺にもできる。

……最近、一般常識が薄れてきたような気がするな?

「では、いってきます」

『ハイ。お気をつけて』

ひらひらと手を振って目を閉じる。

転移の時に目を開けておくと俺は気持ち悪くなるのだ。景色がぱっと切り替わるから頭が混乱するからなのか何なのか。

一瞬の浮遊感。そっと目を開ける。

気がつけば俺は商業ビルの屋上に一人佇んでいた。

眼下を走る車と人の群れ。

生ぬるい風と排気ガスの匂い。

混ざりすぎて要領を得ないざわめき――日本語の数々。

「ああ……」

この一週間、映像では何度も見てきた光景だ。

それでも懐かしいと感じるのは――

「ようやく、帰って来たんだ」

――帰って来たと感じるのは、空気のせいか。

背に広がる翼いっぱいに風を感じる。

この翼がある限り、彼らが俺を仲間と認めてくれることはないだろう。

同じ人間と思ってくれるかも怪しい。

それはやっぱり、寂しいことだと思った。

◇ ◇ ◇

巷で俺は「天使」と呼ばれているらしい。

かくいう俺自身も最初はハーヴェン族が天使にしか見えなかったから、さもありなん。

ともかく俺が何の気なしに東京の街を歩いたらパニックが起きてしまう。

そこで霊子を操り透明化したうえで、ふよふよと空を浮かびながらダンジョンを目指すことにした。あくまで姿が見えないようにしているだけだ。実体はあるので人とぶつかったら術が解けてしまう。

17年の間に起きたファッションの変化を感じたり、新作ゲームの広告を見つけて足を止めてしまったりしつつ、東京ダンジョンへ向かう。

「どこを見ても人、人、人ですね」

東京は修学旅行で来て以来だ。

相変わらず人でごった返していて、今日が平日なのか休日なのかもわからない。

それこそ 山戸耕助(前世の俺) が生まれ育った町なんて――いや、今は仕事に集中しよう。

フクレにああ言った以上、俺は視察でここへ来てるんだ。

何なら不測の事態に備えて見守ってくれているかもしれない。

あ、ラーメン屋が……って違う違う!

「……急ぎましょう」

あちこち眺めていると誘惑が多すぎたので、スピードを上げる。

ほどなくして天高くそびえる塔が見えてきた。

東京ダンジョンである。

なんでも日本政府はこのダンジョンを「東京摩天楼」と名付けたのだとか。

塔を囲むようにぐるりとフェンスゲートが新設され、テントがあちこちに建っている。憩いの場であった公園は物々しい雰囲気に包まれていた。

上から見ると、塔に入ろうと並んでいる人より野次馬の方が多そうだ。

フェンス越しに写真を撮ったり、乗り越えようとして注意されている。

「次の方、ライセンスの提示をお願いします」

一方、ゲートでは自衛隊員が整然と門番をしていた。

奥で入退記録をつけているのか更に受付がある。

心の中で「お疲れ様です」と呟きながら彼らの頭を飛び越していった。

見渡す限り、挑戦者たちの装備は様々だ。

ジャージ姿の者、プロテクターを付けている者、野球バットやゴルフクラブを握りしめている者など。日用品を組み合わせ何とかそれらしくしようとしていた。

……なんかゾンビパニックものみたいだな。

正直ダンジョンというより、ゾンビひしめく巨大マーケットにいる方が自然な格好ばかりだ。俺が夢想していたファンタジーとは程遠い。

装備を用意するのはもちろん、持ち歩くのも大変だからこうなるわけか。

下手に刃物なんて持ってたら捕まるもんなぁ……。これは何かしら改善した方が良さそうだ。帰ったらフクレに相談してみよう。

さて、受付を越えたらいよいよダンジョンだ。

東京摩天楼には四つの入り口があって、いかにも中で繋がっていそうだが、実は全て独立している。混雑回避のため、最初の五層を抜けるまでは十字の仕切りを置くみたいに空間を分けてあるのだ。もちろんどの入り口から入っても内部構造は変わらない。

この仕様は東京摩天楼に限らず他のダンジョンでも同様だ。

そんな塔の入り口にも自衛隊員が二人ずつ配置されていた。

入る人をチェックしているというより、むしろ出てくるものに備えているんだろう。

俺はダンジョンからモンスターが出てこないことを知っている――というかモンスターはダンジョンの中でしか再現できない――が、彼らはそうじゃない。

というかよく見たら、一人はゴブリンウォーリアーをバグ技で突破した兄ちゃんじゃないか? あの時はよくもやってくれたな……。

「なんか視線が……」

「どうした千導ォ。蚊でもいたか」

「いやぁ……?」

おっと、先に進もう。

俺の透明化は拙くて音や匂いまで隠せないから、勘が鋭いと気付かれかねない。

この兄ちゃんはともかく隣のおっちゃんはヤバそうだ。

先が見えない真っ黒な帳を抜ければ、そこはもうダンジョン。

東京摩天楼の第一層だ。

洞窟タイプの空間で、明かりを持たなくても先は見えるが薄暗い。照明を設置すると剝がされそうだったので輝度を上げてこうしている。

とりあえず近くには誰もいないようだ。

操霊術で辺りの音をかき集め、人の気配を探ることにした。

すると悲鳴にも歓声にも取れる声が聞こえてきた。

「やっぱり無理だってー!」

「こらミカ! びびるんじゃないってば!」

「ひ~ん……!」

声の主を辿ってみれば、少女が二人、同じく二体組のゴブリンと戦っていた。

いかにも学校指定っぽいジャージを着て竹刀を持っている。

学生だろうか。一人は腰が引けているものの、どちらも構えが堂に入っている。

管理者特権で視ると二人とも〈剣士〉の職業が与えられているようだ。

「あたしたち弱小剣道部が強くなるにはこれしかないのよ! 実戦! 実戦こそがあたしたちを鍛えてくれる!」

「いや絶対真面目に練習した方が強くなれるよぉ……」

気の強そうな少女が言う通りこれは実戦だ。

「ゲギャギャー!」

だから、悠長に話していたところにゴブリンが襲いかかる。

「わっわっわっ!」

「ちょ、まだあたしが話してる途中でしょーが!!」

片方は後ずさりして、片方は竹刀で受け止めてゴブリンの攻撃をいなす。

返す刀はどちらも腰が乗っておらず簡単に受け止められてしまった。

「やーっ」

「小手ェエエエエ!」

踏み込みが浅くクリーンヒットに至らない。

最初に自衛隊の一層攻略を見た時、ゴブリンがあまりにあっさりやられるので、調整を間違えたかと思ったが、こうして一般人の戦いを見ていると丁度よかったことがわかる。普通は人型の生物を攻撃するのは覚悟がいるし、距離感だって掴みにくいはずだ。

それでも落ち着いて戦えば勝てない相手じゃない。

少なくとも一層に出てくるゴブリンは皆子どもサイズなんだから。

避けて、避けられて。

当てて、当てられて。

泥仕合を観戦し続けていると、ようやく終わりが訪れた。

「えーい!」

「おんどりゃあああ!!」

少女たちが繰り出した竹刀が唸り、宙を切り裂く。

渾身の面と胴が炸裂して、ついにゴブリンたちは地に伏せた。

「か、勝ったぁ……」

「みたかいどんなもんじゃい!!」

安堵からか、気弱な方の少女が地面に座り込む。

もう一人の少女は両手を突き上げて勝鬨を上げていた。

まったく正反対のタイプに見えるのに、こうしてダンジョンまで来ているんだからよっぽど仲が良いんだろう。

落ち着いたところで、二人は戦利品に気がつく。

「あっ、みてみてカナちゃん! 本当にドロップしたよ」

「……説明は受けたけど、本当にゲームみたいね」

ゴブリンが落としたのは翡翠色の小石だった。

一つずつ指先で持ちあげて、矯めつ眇めつ眺めだす。

「これが『魔石』なんだねぇ」

「今んとこ使い道不明らしいけど……」

「ウッヒッヒ♪ 300円300円♪」

「一時間当たり5体以上は狩らないとその辺のアルバイトより安いわね」

魔石とはまた言い得て妙だな。

彼女たちが持っている石は霊子核だ。霊子を無理やり結晶化させたもので、神族以外の種族が霊子を扱ったりエネルギーに変換する際必要となる。たとえばロゼリア号の霊子加速器は俺が霊子そのものを直で補給しているが、普通は霊子核を定期的に入れ続けないといけない。

いってしまえば現代の燃料である。

地球が文明レベル1になれるか――霊子学の扉を開けられるかどうかは、全てこの霊子核の解明にかかっている。

ダンジョンにランダム配置している宝箱からは、この霊子核を消費して使える道具を仕込んでいるので、そう遠くないうちにエネルギーとして使えることに気づくはず。そこから研究が進めばいつかは辿り着ける……と思う。

「そういえば、ちゃんと撮れてたかなぁ? 調査のためだっていうけど、やっぱ恥ずかしいね! 出る時、返すの忘れないようにしなくちゃ」

そう言って気弱な少女が胸元をつつく。

そこには小さなカメラが取り付けられていた。

「…………」

「どったのカナちゃん?」

「うっさいわね、今あたしに話しかけるんじゃないわよこのおっぱいお化けが!」

「え、えぇ~!?」

乳繰り合いを始めた少女たちから俺は視線を逸らす。

……そういえばダンジョンに入る人間はみんな胸元にカメラを付けていた。

何だろうと思っていたが、ダンジョン内の調査のために付けてたんだな。

民間人を体のいいラジコンにしているわけだ。

ぶっとんだ政権に見えてやることはやっている、と。

ちなみにどうでもいいことだが、ハーヴェンは無性だからかこの体になってから前世あんなにあった欲求が一つ消えている。こういうところもハーヴェン族に内向的な人が多い原因ではないだろうか。まぁ 閑話休題(ともかく) 。

「……はぁ。この映像が持ち出せたらなぁ。Dotubeに投稿してバズ間違いなしなのに」

「確かに! カナちゃんのはブレ少なそうだもんね」

「おん? 喧嘩か? まぁ? あたしはそんな無駄な脂肪ついてないもんなぁ!?」

「も~違うってば! カナちゃんは体幹がしっかりしてるって言いたいの!」

……『バズ』ってなんだろう。

宙(そら) から日本の様子を観測していると、時々耳馴染みにない言葉が入ってくる。

17年という月日は短くないなと感じる瞬間だ。

若い子たちの言葉は特に。

とりあえず装備の問題と合わせてカメラの問題も頭に入れておこう。

もしかしたらダンジョンアップデートの役に立つかもしれない。

「ふん、あたしはそんな見え透いた嘘に載せられるような女じゃないわよ。……ところであんた来月誕生日だっけ?」

「……チョッロ」

「は? なんか言った?」

「ううん何にも言ってないよ~」

もはやこの場にいても漫才を見せられ続けるだけなので、俺はまた歩き出した。

24時間この東京ダンジョンだけを観察しているわけじゃないので、基本的には見たことがない「探索者」ばかりだ。彼らの職業も視るとほとんどが物理職だった。

ゲームだと大抵、前衛と後衛の概念がある。

前衛は文字通り仲間たちの前に出て時には盾にもなる人だ。〈戦士〉や〈剣士〉のような職業がこれに該当する。

一方で後衛は〈弓士〉のように射程距離が長い武器を扱う職業と、〈火術師〉や〈癒術師〉のような魔法の力を扱う職業が向いている。

魔法といっても、その実態は 操霊術(エーテリア) だ。

霊子の力で超常現象を呼び出すに過ぎないが、仕組みを知っている俺でも魔法みたいだと思うんだから、地球人にとってはなおさらだろう。

こうした魔法職は物理職に比べて圧倒的に出現しにくくなっている。

そう調整したわけではなく、完全に才能の問題だからだ。

神族以外の生物は皆、霊子をその身で感じ取れないという絶大なハンデを背負っている。それでも中には補助器具ありで霊子の扱いを身に着け、操霊術に秀でんとする者もいる。彼らに共通するのは第六感に優れていること。有体に言えば 勘(・) が(・) 鋭(・) い(・) ことだ。

俺が作ったダンジョンにおいても、第六感を持っていれば適性にあった魔法職が附与される。おそらく千人に一人くらいじゃないだろうか。希少ってほどでもなく、見かけたらラッキーくらいの割合だ。

そしてこの物理職と魔法職の区分から外れた、その他の職業も存在する。

ちょうど今、俺の目線の先で絶体絶命の窮地に陥っている男がそうだ。

「ぼ、暴力はいけないと思わないかい? ここは一つ穏便に……」

歳は三十代半ばだろうか。ヨレた白衣を着て丸眼鏡をかけ、ただでさえ青白い顔を真っ青にしている。

それもそのはずで、彼は二体のゴブリンに壁へ追い込まれていた。

「ギャギャギャッ」

「や、やめっ、いたぁ!?」

こん棒でぼこぼこに殴られている男。

彼の職業を視ると〈錬金術師〉と表示されていた。

物理職にも魔法職にも分類されないその他の職業、生産職だ。

特にMMOのようなオンラインゲームや協力型のゲームに存在する 役割(ロール) 。

戦うのではなく作ることに特化した職業である。

この地球に存在する既存の物でダンジョンを攻略できてしまうなんて、そんなのつまらない。ゲーマーとして到底許せることじゃない。

だから俺はダンジョンで手に入る素材を活用して、新たな装備や道具を創造してもらうためにいくつかの生産職を用意した。彼らの助け無くしてはダンジョンをおいそれと攻略出来ないようにと。

そのため生産職だけはダンジョン外でも一部スキルが使用できるように調整してある。

ところでこの生産職。文字通り生産専門なので戦闘能力があまり無い。ゼロではないが決して強くない。生産ができるうえに戦闘まで完璧にこなせたらそれはもう生産職ではなく、万能職だから。

とはいえ、

「暴力反対! 暴力はんた――いでっ、いたた!」

こうしてボコボコにされているのを見ると、さすがに申し訳なくなるな……。

恰好から察するに大学教授か製薬会社なり研究職の人間だろう。

そういう人は生産職に適合しやすいからなぁ。

「うぅ……ど、どいつもこいつも僕を馬鹿にしやがって! こんなとこで――あっ、痛っ、やめっ――躓いていられるかぁ! 僕はダンジョンの謎を解明して博士号を取るんだぁぁぁあああ!!」

殴られる一方だった男がついに攻勢へ転じる。

懐から小さな水風船のようなものを取り出すと、それをゴブリンの顔へ叩きつけたのだ。

「ギャギィ!?」

風船が割れ中から赤い粉末が飛び出す。

その粉を浴びたゴブリンは顔を抑えてごろごろと地面を転がることになった。

「ククク……どうだ僕の『トウガラシ爆弾』の味は。さてお次は――」

「ヒ、ヒギャ……!」

「お前だぁぁあああああ!!」

二つ目の爆弾が破裂する。

もう一体のゴブリンもその攻撃で立つことさえままならなくなった。

「よくもやってくれたな、このっこのっ!」

顔を抑え、地に体をこすりつけるしかできない小鬼たちを、男が足蹴にしていく。

知性も何もない、原始的な光景だ。

「はぁ……はぁ……」

何度も何度も踏み続けてゴブリンたちはようやく消失した。

息を荒げて膝をつく男の傍に翡翠色の小石――霊子核が転がり込んでくる。

「これが魔石か。……はした金にするくらいなら持ち帰って――ん?」

ドロップ品を拾おうとして屈んだところで気になるものがあったらしい。

男の目線を追って俺も目をやれば、そこには一本の草が生えていた。草くらい珍しくないと思うかもしれないが、この洞窟で見かける植物はほとんどが苔ばかり。

ハート形の葉っぱをいくつもぶら下げたその草は「薬草」だった。

体調を整えたり漢方の材料になるという意味の薬草ではなく、ゲーム的な意味での「薬草」だ。緑を愛し緑に生きる 森人種(エルフ) 族が品種改良の末に開発したハーブで、エルク草という。傷口につけると軽い傷なら立ちどころに治してしまう。

こういう薬草に始まり、ダンジョンでは様々な資源が 無作為(ランダム) に 出現(スポーン) するよう設定してあるので、ゆくゆくは採取専門で活動する探索者が出てくるかもしれない。

「お、おぉ……! もしかして新種の植物じゃないか!? これを持ち帰れば……クックックッ……見える、見えるぞ! サイエンス! ネイチャー! あの雑誌もこの雑誌も! 約束された明るい未来が!」

盛り上がってるところ大変申し訳ないんだが。

その薬草は初日にもう自衛隊が採取してるんだよな……。

ま、まぁ、レベルを上げて【初級錬金】が使えるようになったらそれで初級ポーションが作れるようになるから、めげずに頑張ってくれ。

生産職は戦闘職よりレベル上げに必要な経験値量も軽くしてあるから……。