軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

閑話・勇者ワタル

食堂にてワタルから金貨100枚を受け取り、そのまま雑談しつつ晩御飯を一緒に食べることになった。

いつものお子様ランチ――もとい、欲張りセットを食べるワタル。

「なんか久しぶりにゴレーヌ村に帰ってきた気がします」

「そりゃ、お疲れ?……って村人じゃないだろお前」

ワタルが前回来たのは例によって一か月前だが、何やらずいぶんと長い間会っていなかったような気がする。

「ふっ。ケーマさん。実は一応、僕の家もこの村に建ててもらってありますよ?」

「なんだよ、それだと宿に泊まってもらえないじゃないか。ちゃんと村に金落としてけよ勇者様」

「ははは、借金の返済がありますからねぇ。まぁ、家はあっても使ってないのでゴゾーさんたちに貸して管理してもらっている、という体ですけど」

「あ。もしかして、集会場か?」

「はい、そこが僕の家ですね」

他と比べて少し大きな家で、ゴゾー達冒険者村民のたまり場でもある。

通称は『集会場』……まさかワタルの家だったとは。

「そういやあの家、一部屋だけ使用禁止の部屋があったな」

「ええ。そこだけ僕の私室ってことで立入禁止にしてもらっています。まぁ実際使ってはいないんですけど、気分ですね!」

ワタルの部屋はほぼ物置きだそうだけど、オフトンを使えば寝泊まりするのには支障ないだろう。

しかしそれはつまり、しっかり寝泊まりできる自分の家が村にあるという訳で。

「ということは、ワタルは立派な村人だったということか。知らなかったぞ」

「そうですよ村長。いやぁ、この世界って戸籍がガバガバですからねぇ」

あ、人頭税もゴレーヌ村のいち村人として払ってますよ? と言いながらワタルはハンバーグを口に運んだ。

「勇者も人頭税払うんだ……免除とか無いの?」

「ありますけど、これは趣味みたいなもんですから。はした金ですしね」

「えっ。ワタル、お金をばらまくのが趣味とか……趣味が悪いな」

「ゴレーヌ村関係のお金だけですよ。他ではちゃんと程々に節制してます」

この村が特別なんですよ、言わせないでください恥ずかしい。とワタルは少し照れてみせる。

「……ってことは、この毎月の借金、金貨100枚も趣味なのか」

「あながち間違いじゃないのがなんとも……」

もともとこの借金はワタルが妙な正義感と自前の価値観――言い換えてしまえば『趣味』で俺に勝負を吹っかけてきて、その結果で巻き上げられたお金だもんな。

「あ。それで思い出しましたが、いよいよ結婚、その前に婚約するそうですね。おめでとうございます」

「んん゛ッ……あー、うん? うん、そうだな、ありがとう」

どうして借金で思い出すのかは分からないけど、とりあえず礼を言っておく。

「……どこで聞いた?」

「ロクコさんが浮かれながら言っていましたよ」

「そうか……」

俺はぽりぽりと頬を掻いた。そうか、ロクコが言いふらしているのか。

……少し気恥しくはあるけど、ハクさんから反対されていない以上、そして事実でもある以上、もはや俺に止める理由がない。好きにさせておこう。

「僕も結婚したいですねぇ……」

「したらいいんじゃないか、勇者ならより取り見取りだろ」

「僕の想い人はそこらへん無視してくるんで」

「そうか、たいへんだな」

分かってるくせに、と言いたげなワタルの視線。仕方ないから 想い人(ネルネ) を呼んでやるとしようか。

丁度、(ワタル相手にいつでも対応できるように)今まさに食堂の給仕係中だったし。

「おーい、ネルネ。今日はもうは上がってもいいぞ。あとここで一緒に飯食うか?」

「はーいー。是非ご一緒させてくださいましー」

俺が呼ぶと、ネルネはメイド服のままワタルとの席にやってきた。

「さてワタル。ネルネにはワタルの隣と向かい側、どちらに座ってほしい?」

「くっ! 悩ましい……!! 少し考えさせてください!」

悩むワタル。向かい合うのが良いか隣が良いか。

しかしワタルが悩んでる間に、ネルネは勝手にワタルの隣へと座った。いつも通りのマイペースである。

「まぁ、ワタルの希望を聞くとは言ってないしな」

「ケーマさん実は悪魔か何かだったりします?」

「うーん、悪魔はともかく、今度神様になるかもしれないんだよなぁ」

「なにそれ凄い。でもそのくらいじゃないとハク様も許してくれませんよねぇ……あ、ネルネさん何食べます? 奢りますよ」

「ではー、パンケーキサンドウィッチをー?」

パンケーキサンドイッチ。キヌエさんが開発した、サンドイッチの具をパンケーキ2枚で挟んだやつだ。意外とおいしいんだよな、クレープみたいな感じで甘いのもしょっぱいのも結構いける。

「そんなメニューがあったんですか」

「まぁうん。主にネルネのためにキヌエさんが増やした裏メニューだな」

「ワタルさんー、知ってますかー? サンドウィッチのウィッチはー、魔女のことらしいですよー」

「ああ、そういう説もありますね」

……そう、サンドイッチの「イッチ」が「 魔女(ウィッチ) 」であると教えてから、いい発音でサンドイッチ系のメニューを頼むのがネルネの日課になっている。

このため、無駄にサンドイッチ系のレパートリーが充実していて、パンケーキサンドイッチもその中の一つだ。まぁ、基本的には宿ではランク定食しか売ってないから裏メニューなんだけど。

「ネルネさんは本当に魔法とか魔女とかが好きですねぇ」

「将来は魔女になりますのでー? なってみせますよー」

「……ケーマさんが神様になるらしいし、魔女になるくらいはいけそうですね」

まぁ現状、魔女見習いだからね。というかネルネってばあんまり隠す気ないなぁ。

今更ワタルに実は魔物ですと言っても関係なさそうだけど。ネルネなりにワタルを信用してるってことなんだろうな。

……ん? そうか、魔女見習いって一応魔物なんだよな。

ということは、もしかして強化で『人化』を習得することもできるんだろうか。ほとんど人間だから必要はなかっただろうけど……

案外、『人化』したら普通の感情が芽生えてワタルとラブラブになる可能性も微粒子レベルで存在するかもしれないなぁ。

「あ。そうだワタル。甘く煮た豆を具材にしたパンケーキサンドイッチもなかなかイケるぞ、デザートに食ってけ」

「へぇ、パンケーキで甘く煮た豆……ってどら焼きじゃないですかそれ! 食べますよ! 食べるに決まってるじゃないですか!」

厳密には違うかもしれないけど、大体合ってる。

「ついでにこの甘く煮た豆って生クリームも合うんだよなー、不思議となー」

「鉄板の組み合わせですよ! お土産にいくつか買わせてください。いやぁ、どら焼きなんて久しぶりだなぁ」

ウキウキするワタルに対し、ネルネがくいっとその袖を引く。少し不機嫌そうな顔。

「……ワタルさんー? ちがいますよー? パンケーキサンドウィッチですよー? うぃっちー、ですよー?」

「そ、そうですね! 甘く煮た豆のパンケーキサンドイッチです。ええ、楽しみだなー」

「ですねー、ええー」

ちょっと不機嫌そうだったネルネだが、ワタルがそう訂正したのですぐに機嫌を取り戻した。