作品タイトル不明
サンシター果樹園
ナリキンに『憑依』した後にサンシターの果樹園にやってきた。果樹園の場所は ナーナ(トイ) が調査済み。
散歩の通りがかりにー、という 体(てい) でやってきたので、腕を組む ロクファ(ロクコ) と、後ろに控え ナーナ(トイ) 付きだ。
果樹園には、オレンジの木々を世話する農家の男がいた。柵ごしに声をかけてみる。
「おおい、精が出るな。少しいいか?」
「ん?……なんでしょうか旦那様?」
少し怪訝そうに、しかしちゃんと 下手(したて) に返事する男。その口調は農家というより商売相手を立てる商人のそれだ。
「先日商業ギルドで珍しい果物を買ったんだが、その果物はこの果樹園で作ってるのかね?」
「はい? 何をお買いになったので?」
「メロンとかバナナだったか。いくつかこのあたりで作っている果物を買ったんだ。ただこの町に果樹園は一つしかないと聞いてなぁ、ここで作っているということでいいのだな?」
「ああ、お客様。それは間違いなくウチの果物でしょう。まさにその通りです」
あっさりと認める農家の男。一応ソトに【ちょい複製】で現物を用意してもらったんだが要らなかったな。
「直接買い付けたいのだが」
「申し訳ありません。商業ギルドと専属契約をしておりまして――恐れながら、買い付けはギルドを通してくださいませ」
「妻への土産に2,3個買うというのもだめか?」
「申し訳ありません。そういう契約ですので」
農家というよりも商人といった装いの腰の低い男はきっぱりと果実の出どころであると認め、しかしここでは売れないと言い切った。
契約があるならここで買うのは無理だろう。この世界の契約は魔法も絡み、破ることが難しい。まぁ買うだけなら商業ギルドを通して買えばいいだけだし、俺も元々買うことが目的ではない。
「分かった。では……実際に生っているところを見せて欲しい。ここにあるオレンジの他にはどう言う風に 生(な) っているのだ? 仕入れる品物の品質確認は大事だろう。それに、妻がここの果物を気に入ったようでな。上限でどれくらい手に入れられるのかを見たいのだ」
と、 金貨袋(サイフ) をちらつかせてみる。どうだこちらは大量に買えるんだぞ、と。
中身も本物の金貨でぎっしりである。伊達にワタルから金を巻き上げてないのだ。
……今更だけど、ワタルってホント凄いなー、月イチで1億相当稼げるんだもん。勇者って稼げるんだな。なる気はないけど。
「商業ギルドを介した取引でないといけない決まりでして……」
「見るだけだ。取引をするわけではないなら別に構わんだろう?」
「むむむ」
どうやらあと一押しが必要らしい。俺はそっと銀貨1枚を差し出してみる。
「……まぁ、見学だけなら良いでしょうか。とはいえ、自分が受け持っている区画だけでいいなら、ですが」
「区画分けされていて、担当者が分かれているのか」
「ええ。ではそちらから入れるので。ああ、それと果樹には触らぬよう気をつけてくださいね。その鳥も放さぬようにしてください、害鳥避けの魔道具があるので」
「うむ」
銀貨を受け取った男は 俺(ナリキン) 達をこっそりと柵の出入口に案内してくれた。
……ちょろい、というよりは金の力ってすげーって感じだなぁ。
「……ねぇ、ウチの宿屋ではこういうのだめってちゃんと禁止してる?」
「当然だ。何のために 身内(・・) で固めてると思ってるんだ」
金だけで雇う人間は、金で裏切る可能性がある。そのための奴隷とモンスターの従業員なのだ。奴隷の身であれば、ギャンブルで身を崩したイチカですら真面目に働くしかないのである。
……今ウチで一番うっかり秘密をバラす可能性があるのはソト、次に俺だな。
と、農家の男が「この木はオレンジで――」とちょいちょい解説してくれる。 ロクファ(ロクコ) は不自然にならないよう「へぇーこれにあのオレンジがなるのね」と相槌を。 ナーナ(トイ) は鳥籠とその中に トラン(ナリキン) 、 シーバ(ロクファ) を連れてついてくる。
そういえば先程「害鳥避けの魔道具」というのがあるという事だったけど……もしかしてネズミや虫等を対象にした魔道具とかもあるんだろうか。そうなると、蜘蛛を送り込んで調べるといったことが難しいかもしれない。
「ふむ。時に、俺は魔道具に興味がある。害鳥避けの魔道具とはどういうものか見たいのだが」
「ええと、生憎ですが自分の担当ではありませんので」
一括で管理されてる魔道具、ってことか。
「どこか別の区画に置いてあるのかね?」
「ええ。確かあっちの方で。……おかげで虫なんかも寄らないので、重宝しますよ。受粉を手作業でしなければいけないのは面倒ですが、品質を保つためです」
「そうか、鳥だけじゃなく虫も寄せ付けないのか」
「ええまあ当然ながら。虫を食べる鳥がいないだけだと、虫が増え放題になりますからね」
やはり虫にも効果があるらしい。しかし トラン(ナリキン) と シーバ(ロクファ) の様子を見るに、鳥籠に入っている鳥には効果はないようだ。
「……どういう魔道具なんだ? 飛んでることが条件、とかか?」
「単に、小さな生き物を寄せ付けないといった効果だったかと」
「ほう。となると、ペットの小鳥を連れて歩いているのはまずかったか」
「……言われてみれば、随分と大人しいですね? それ本当に生きてます?」
……動かずに死んだりしてないよね? とじっと見てみる。と、 トラン(ナリキン) から念話が送られてくる。
『マスター。実は、柵を越えてから頭が痛いです。耐えられない程ではないですが……』
『む、それはまずい』
小鳥の2人にはダメージが入っているらしい。我慢も良いけど、そういう事はしっかり教えてくれた方が助かるぞ。
「どうやらダメらしい。ナーナ、果樹園の外に戻っていてくれないか? あとで合流しよう」
「かしこまりました旦那様」
ぺこりと ナーナ(トイ) が頭を下げて外へと向かった。
「申し訳ない旦那様。配慮が足りませんでした」
「良い。それより、他の果物はどこで作っているんだ?」
「あー、それも申し訳ありません。私はオレンジ担当なので。……果物自体は、ここのさらに奥で作っていますがさすがに入れることはできません」
なるほど。ここから先はさらに別の担当がいるのか。なるほど。
「……こいつでその担当に話を付けることはできるか?」
俺は銀貨を3枚取り出し、交渉を持ち掛けてみた。農家の男はニマリと笑う。
「ええ、まぁ、聞いてみるだけなら、聞いてみても良いかもしれませんね」
……うーん。金の力ってすげー。