軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

『憑依』テスト

「ケーマー。そろそろ8時よー?」

「おっと。もうそんな時間だったか」

皆から意見を聞いて、さーてダンジョンの改築をしようかなーといったところで出鼻をくじかれてしまった。

まぁいいか。建設は時間のある時にのんびりやろう。そんなに急ぐ話でもないし、まだ煮詰まってないところもあるからな。

俺とロクコは安全なマスタールームへ移動し、ナリキン達に憑依ができるか試してみることにした。

マップにはナリキン達は表示されていない。通常なら圏外だろうが、命名済みのモンスターであるナリキン達は、ネームドリストから憑依先として選択可能だった。

目を開けると、そこは魚臭いランプに照らされた見慣れぬ部屋だった。ナリキンの身体は固いベッドに寝ていたので、おそらくパヴェーラの宿屋だろう。ベッドの横にある椅子にはロクファが座っていた。

「おっ。うまくいったかな」

「やったわねケー……んんっ、ナリキン」

ロクコも無事ロクファに憑依できたようだ。

「おはようございます、旦那様、奥様。どうやら無事に憑依できたようですね」

部屋の入り口に控えていた胡散臭い笑みを浮かべるメイド。トイの憑依している暗殺者だ。

「よしトイ……あー、いや、何て呼べばいいんだ?」

「トイでもニクでも『おい』でも『お前』でも構いませんよ? どうせ偽名ということにしますから。参考までにこの身体のコードネームはファントム、用意していた偽名はナーナですね」

「じゃあナーナと呼ばせてもらおうか。ナーナ、その恰好は?」

この世界で一般的であるメイド服――装飾やフリフリの少ないシンプルな奴――を着ていた。出発時はこんな格好ではなかったと思うのだが。

「パヴェーラの町で調達致しました。夫婦のお二人に対し、護衛兼従者として付き従う方が都合がよさそうでしたので。ご不満であれば変更しますが?」

「そうか。いい判断だ」

「奥様……ふふ、奥様ね、うん。いいわ、とても良いわね」

ロクコも気に入ったらしい。うん、旦那様、奥様呼びならナリキン様とか名前で呼ばれたときに反応せず怪しまれる、という事も減るだろう。ロクファからは名前呼びだからあまり意味がないかもしれないけど。

「それと、一点提案がございまして」

「なんだ?」

「お二方が憑依されている間、ナリキンとロクファを何か別の、小動物などに憑依させて侍らせておけば、後の情報共有の手間が省けるのではないか――という案がロクファから出ました」

「なるほど。それはいいアイディアだな」

「へぇ。やるじゃないロクファってば。ケー、ごほん。ナリキン、ロクファを撫でてあげなさいな」

と、ロクファ(inロクコ)はひょいと頭を差し出した。……うん、これそのまま撫でてもロクファを褒めたことになるのかどうかわからんな? まぁ撫でておくけど。

がしゃん、と 鎧のまま(ガントレット) の右手でロクファを撫でる。ナリキン、人化はしているが頭だけなのだ。横着者め。

「ちょっと痛いわね……もうちょっと撫でる練習をしないといけないわ? 続けて」

「……お、おう? おう」

もはや何のために撫でているのかわからないが、とりあえず右手でロクファの青い髪を撫で続けつつ、左手でメニュー機能を開いた。……ふむ、所持DPはナリキンに持たせた分、機能は俺の使える範囲のようだ。

とりあえず憑依できそうな小動物……ロクファには鳥の方が使い勝手良いか? 飛べるし。あ、ナリキンはハリネズミにでもしてやろうかな? ハリネズミってかわいいよな。

「ナリキン、両方とも目立たない小鳥にした方がいいと思うわよ?」

「……それもそうだな」

用途を考えたらその方が良い。何より安いし。1DPずつ、2羽合わせて2DPだし。

というわけで、DPでさくっとシマエナガみたいな小鳥を召喚。ナーナに一旦預けておく。ダンジョン産なので俺達の命令に忠実だ、鳥かご等は要らないだろう。

「ペットである目印にリボンでも着けといてやれ」

「かしこまりました旦那様」

俺達が憑依する時、先に一旦この小鳥に憑依して状況を確認し、何秒後に憑依する、みたいなことを打ち合わせするという手もある。名前も付けておこう。

「『トラン』と『シーバー』って名前にしておこう」

「どういう意味?」

「二つ合わせて 無線機(トランシーバー) ……まぁ、異世界の遠距離連絡手段のひとつだな」

「ふぅん。いいんじゃないの」

というわけで、今日のところは一旦『憑依』を解除。実験の第一段階は成功ということで、このまま聖王国へ向かって移動して行ってもらうことにした。基本的に1日1回は『憑依』(小鳥への『憑依』含む)を使っての連絡を入れ、それがなかったら引き返す形だ。

「自分じゃない体でお出かけっていうのも、なかなか面白い体験よね」

マスタールームに常備してあるオフトンでぐっと伸びをするロクコ。

ダンジョン管理用に呼び出した妖精、エレカがコップに水を入れて持ってきたので、受け取って一口飲む。ぷはー。

「しっかし、マスタールームのオフトン用スペース……衝立だけだとちょっと広さが落ち着かないなぁ」

「あら、どうせ『憑依』で寝るくらいしか使わないんだし、いいじゃない? それとも私とケーマだけしか入っちゃいけない小部屋でも作っとく?……あっ」

と、ここまで言ってロクコがふと目を見開いた。自分の言葉で何か大事なことに気づいたようだ。

「ケーマ! そうよ、ここならハク姉さまの目は絶対に届かないわよ! だって 私(コア) の中なんだもの、ケーマが心配するドルチェ達にだって覗けないわ!?」

「えっ、あー、まぁ、そう、だな?」

「さらにドルチェ達には、『憑依』するから安全なところにいるとかって言っておけば、マスタールームに籠るときのアリバイも作れるわよ? というか、今まさに、こうしてケーマとマスタールームで二人きりの時間がハク姉さまからは完全に隠れる時間なわけだけど!」

そこのところ、どう思うケーマ!? とロクコはずいっと顔を近づけてきた。

「……まぁ、そうだな?」

「そうなのよ! 何、エレカとかの目が気になるなら衝立じゃなくて小さい小屋を作ってしまえばいいわ。2人きり、そう、2人きりで過ごすのには別に魔国に行かなくてもよかったのよ!」

ばーん! と得意満面にそう言い切るロクコ。

「どうして気付かなかったのかしら! すごくないケーマ?」

「うーん、まぁそれなんだがなロクコ」

「何よ?」

「 ここ(マスタールーム) に入ってこれなくても、そんなに喜んでたら反応でドルチェさんとかにバレるぞ」

俺がそう言うと、ロクコはむぐっと口を詰まらせた。

ドルチェさんとかは無能じゃない、むしろ飛び切り有能なのだ。俺達がそういう風に隠れてイチャイチャしたとしたら、その日の浮かれ具合ですぐにバレてしまうだろう。

「……が、頑張って抑えるから」

「いや俺が抑えきれないと思うから我慢しとこう。その日1日くらいは尋問されてボロが出るに違いないくらいには浮かれちまいそうだ。……だから、少なくとも暗殺者関係を追い払って、ハクさんからの応援がこの村から撤退したらだな」

「……えっ、け、ケーマの方が抑えきれないの? じゃあ仕方ないわね……ふへへ」

ロクコはにへっとだらしない笑みを浮かべた。

その後、宿に戻った俺達だったがどこからかドルチェさんが現れて「ロクコ様と何かありましたかぁー?」と笑顔かつ笑ってない目で聞いてきた。(目が赤く光っていたのでたぶん嘘検知付きで)

なんでも、「ロクコ様がとても嬉しそうにしていたので気になって聞きに来た」とか。

……うん。そういうとこだぞ、ロクコ。