軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ダンジョンバトル、開始

白い部屋があった。

そこには貴族が座るような豪華なソファーが2つ。色はそれぞれ白と黒だ。それが向かい合わず、同じ方向を向いて並んでいた。……まるで歌劇場の席のように。

2つの魔法陣が同時に現れ、そこから1人ずつ人物が現れる。

片方は白の女神と呼ばれる美しい女性。もう片方は大魔王と呼ばれる壮年の男性だ。

ハク・ラヴェリオと6番コア。犬猿の仲と有名なこの2人が、このように1つの部屋に2人きりで会うとなると、どのような事態になるのか――

「久しい、と言うほどでもないか。集会ぶりじゃな」

「ええ。そうね6番」

それは意外にも和やかな声だった。

6番コアはそこに置いてあるソファーを見て、ためらうことなく黒い方に腰を下ろした。

対するハクも同じように白いソファーに座る。

「今日は楽しみですね、6番」

「ああ。儂もじゃ。お前のとこの秘蔵っ子がウチの666番をどう使うか見せてもらおう」

「秘蔵、という程隠しているつもりはありませんが」

「ククク、儂が言うとるのはマスターの方じゃ。お主の可愛い妹を衝立にきっちり隠して何を言うとるこの雌狐め」

「あらあら。その言葉、そっくりお返ししてあげるわ。私も666番のマスターが見たかったのですけれど、今日は出さないのね」

「すまんの、ちょいと4年に1度の武闘会のために調整中でな。タイミングが悪かったのぅ」

「アレですか。なら仕方ないわね」

2人はどこか楽しそうな声で話を続ける。普段の2人を知る者なら目を見開いて我が耳を疑っただろう。そこに普段敵対している時に見せる険悪な空気は全くない。

「仕上がりはどうだ? 564番はあれでもそこそこ手強いと思うが」

「今回は詳しく関与していないので私も知らないのよ。まぁ、5割は勝てると言ってましたけど」

「あのマスターがか?」

「ええ。ケーマさんが」

「……であれば、実際はどの程度とみる?」

「5割は勝てるでしょう。本人がそう言ってますもの」

「ふむ。よほど信頼していると見える」

と、そこに新たに1つ、魔法陣が出現した。2人を呼び出したものとは異質な、より高度で超次元の存在を召喚するための複雑な魔法陣だ。

そしてそこに現れたのは、『父』だった。

浅黒い肌の黒髪金眼。紺色の法衣に身を包んでおり、顔の半分、目元を仮面で隠している。隠れていない口元は、いつものようにうっすらと笑みを浮かべていた。

「父上」「お父様」

「やあ2人とも。ああ、立たなくていいよ。僕らは親子だ、そうだろう?」

普段集会ですらモニター越しにしか顔を拝むことのない『父』。

実際に会うと――この体が本体だとは一切言っていないが――神気と言うべきか、オーラが凄い。普段上位者として振舞っているハクと6番コアでも思わず跪きたくなるほどだ。

「いつもは子供たちを怯えさせないようにモニター越しでしか会えないけど、君たち2人だけなら大丈夫だろう?」

「ええ。仰る通りですわお父様」

「くくく、当然ではありませぬか」

そして、『父』が指をパチリと鳴らすと白と黒のソファーと向かい合う位置に夜空のようなソファーが現れた。所々で白く星が輝いており、見ていると吸い込まれそうな錯覚に陥る。『宇宙を切り取って造った』と言われればなるほどと思うだろう。

そして、『父』はそれに座る。

「見事な椅子ですな」

「そうかい? ありがとう6番。ならあとでこれをあげるよ。ハクもいるかい?」

「あら。よろしいので?」

「遠慮する必要は無い。ハクから献上されたケーマ君のマッサージ椅子の機能も盛り込んであるからね」

「それは素晴らしい。であれば、遠慮なく頂きましょう」

にこにこと笑顔の3人。そこには確かに家族のような『 親(した) しさ』があった。

「しかし父上。今日は良かったのですか? 儂らにこのように部屋を用意していただいて」

「いいのいいの。僕にとってダンジョンバトルは数少ない楽しみだからね。それに、今回は2人に色々解説してもらったら面白いかと思ってさ」

「そんな、私たちがお父様に教える事など」

「いつも言ってるけどね、僕は君たちが思うほど万能じゃないんだ。まぁ、僕は多少モノづくりが得意だけど……言ってしまえばそれだけなんだから」

「父上がそれだけ、と申しては我々など何もできぬ存在になってしまいますぞ?」

「そんなことはないよ。ダンジョンコアは色々なことができるように多様性を持たせて作った存在だ。だから僕にできない事もできるかもしれない。自分にできない事は出来る人にやらせればいい、と、これは受け売りだけどね」

父が手を広げてにっこりと笑う。受け売り、ということは誰かの言葉ということだろうが……『父』を相手にそんな言葉を言うのはいったい誰なのか。と、ハクは思った。

「おっと、そろそろ始めようか。開始の合図はどうする? 今回僕は最後に顔を出してサプライズってことにしたいんだけど」

「あら、この部屋を用意した時点でお父様の関与は明白ですわ。開始の合図で顔を出しても同じことではありませんか?」

「まてハク。あのマスターは気付いているかもしれんが、少なくとも564番はさっぱり気付いていないようであった。父上の意を汲むならまだ隠しておくべきだろう。……神前試合ともなれば、やはり気の持ちようが変わってくる、理解できなかった愚か者に慈悲をやる必要は無い」

「なるほど、6番の言うとおりね。ではお父様、どなたに開始の合図をしていただきましょうか。希望はございまして?」

どなたに、と言ったのはここにいる6番とハクの他にも参加者のケーマ等が候補に入ると思ったからだろう。もっとも、やはりここで開始を告げるのは参加者ではないハクか6番が良いという事にはなるのだが。

「ん? んん……じゃあ6番にビシッと決めてもらおうかな」

そうなると、参加者の両方に関係者がいる6番が取り仕切るのが良いように思える。『父』はそう考えたようだ。

「責任重大よ6番。しっかりやり遂げなさい」

「言われるまでもない。が、下手に意気込んでは父上の存在を匂わせることになるだろう、自然な流れでいきたい。手伝え」

「しょうがないわね」

正面、『父』との間にモニターが浮かぶ。見れば、そこには今回ダンジョンバトルを行うダンジョンコアたちの顔が映っていた。『父』側からも同じ映像が見えている。

「それにしても本当に6番とハクは仲が良いね。普段からそうすればいいのに、とも思うよ。もちろん、狙いがあってそうしているのは分かっているから言わないけど」

「ご理解いただきなによりですわ」

「そういえばハク、あれから例の件、調査に進展はあったのか?」

「無いわ。……って、今はその話はいいでしょう。まったく6番は真面目ね。今はダンジョンバトルを楽しませて頂戴。私もそのためにケーマさんからあまり話を聞かないでおいたんだから」

「仕方ないな。っと、それでは開始の挨拶をさせてもらおう。父上、よろしいか」

「はいはい。じゃあいくよ、3、2……」

父が指折り数えてタイミングを合わせ、2人が並んで座っている『貴賓席』の様子をダンジョンバトルの参加者につないだ。不快そうに目線で火花を散らす2人が彼らのモニターに映し出される……笑顔は浮かべているものの、そこには先ほどまでの和やかな空気など一切感じさせない『敵対派閥のトップ同士』がいた。

「……さて。お互い準備は整ったようだな」

『はっ、大魔王様! この戦いの勝利を大魔王様に捧げますぞ!』

『か、かえりうちにしてやるきゅよー!』

「クックック。お互いにやる気は十分のようだ……失望させるなよ、564番」

『はッ!』

今回の起点である564番コアと629番コア。勝利条件である「ダンジョンコアへのタッチ」の対象となるのがこの2人のコア本体だ。あるいは、どちらかが降参を宣言すればその時点で終わる。

前回は3つ巴の戦いだったとはいえ600番台の若いコア達に新しいダンジョンを作らせての戦いであったため1日という短時間で決着がついたが、今回は500番台が出る戦いだ。果たして何日かかるだろうか、と6番コアは思う。

「ケーマさん。666番は使い潰して構わないから勝ちなさいね?」

『えぇ……いやそれは、えー、検討しときます』

「何を言うとるか89番、いやハクよ。……666番、なんならダンジョンバトル中にこっそり695番を刺して構わんぞ?」

『不意打ち! それも 愉悦(たの) しそうですわね、 爺(じじ) さま。でもロクコは前線には出ないらしいわ。残念なことに』

「そうなのか? ふん、『裏切者』のお気に入りは『軟弱』であるか。何が良いのだ?」

「ロクコちゃんの魅力は貴方には分からないでしょうねぇ。あんなガサツな666番を愛でているようでは」

「あ゛? ここで雌雄を決してもよいのだぞ?」

「上等よ……と、言いたいところだけど、今日戦うのは私たちではなくてよ。さっさと始めましょうか」

「ちっ、そうであるな。……では、始めいッ!」

こうして、『564番コア』VS『600番台コア連合』のダンジョンバトルの火蓋が切られた。