軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

道中

ツィーアから次の町へ移動するのに馬車で5日かかるわけで。

俺達はずっと続く平原の道を馬車でとことこ進んでいた。右側には道から遠くに常に森が見え、左の遠くには山がある。ツィーア山とは別の山脈だ。……代わり映えのしない風景に、いい加減俺は飽きていた。

寝ようにも馬車の中は人が多いので横になって、というわけにもいかない。せめてもう一つ馬車を手配してもらうべきだったか。

「なぁイチカ。次の町って何て名前なんだ? そういえばまだ聞いてなかった」

「次の町はミーカンやね。草原にある町で、羊とかの牧畜が盛んやな」

「羊……なるほど、ジンギスカン……シシケバブか……」

「毛をとるんよ、毛を。まぁ肉もとるけど。あとはツィーアほどじゃないけど農業もそこそこってとこやね、平地やし」

なるほど。

「しっかし馬車の移動ってのは暇だなぁ」

「ご主人様、これは貴族御用達の馬車で平坦な道だからやで? 普通の乗り合い馬車はケツが割れる勢いでもっと揺れるし、慣れない奴はまずゲボる」

「乗り物酔いか……確かにキツイよな」

「この馬車は揺れ止めの加工がされとるからこんなに快適なんやで」

「おおっと、その話混ぜてもらってもいいですかケーマさん!」

と、イチカと雑談してるとワタルが混ざってきた。

「実はサスペンションがついてるんですよこの馬車」

「へぇ、サスペンションが。……サスペンションってのがその揺れ止めの加工なのか?」

「……ええ、程よいバネを挟むことで揺れを抑えているそうです。帝都の勇者工房ってとこで生産してるんですよ」

ふぅ、危ない危ない。ワタル、さりげなく俺が勇者か探ってくるなぁ、いい加減諦めたかと思ってたのに。

「そういえばワタルはいつもどうやってうちの村に来てるんだ? 馬車か? それとも【転移】か?」

「いやいや【転移】とかそんな気軽に頼めないですよ。あれを気軽に使えるのはハク様たちくらいですからね? 僕も覚えられればいいんですが、スクロールは激レアですし。というわけで、普段は馬を使ってます。ツィーアに預けて、そこからは徒歩ですね」

ワタルだと徒歩の方が馬より早いんじゃないだろうか。

「……あれ? それだと今回は馬置いてきたのか?」

「ああいえ、冒険者ギルドでレンタルしてるんですよ。現地のギルドに返せばいいので便利なんですよこれ」

「へぇ」

「ケーマさんはどうやってゴレーヌ村まできたんです? あ、村を作る前に、ですね」

「徒歩かな」

実際は1000DPガチャの召喚だけど。まぁ特に乗り物を使ってないから徒歩でも間違っちゃいないだろ。

「ウチは奴隷輸送でまとめて馬車やったなぁ」

「ああ、イチカさんってパヴェーラ訛りですもんね、そちらでやらかしたんですか?」

「んー、帝都でちょーと豪遊しすぎてなぁ……借金や諸々で首輪付きになったんよ」

「なるほど、借金奴隷ですか。それなら今回の報奨金が出たらそれで自分を買い戻したり?」

ん?

「ちょっとまて、自分を買い戻すってなんのことだ?」

「え? 知らないんですかケーマさん。奴隷っていくつか種類がありまして、借金奴隷は自分を買い戻せるんですよ。もっとも、奴隷は無報酬で働かされるのが基本なので滅多に買い戻せることもないんですが」

「あー、待ち待ち。ウチはちょっと事情があって借金奴隷じゃないんよ。それにウチはご主人様の奴隷を辞める気はこれっぽっちもないからな?」

そ、そうだったのか。知らなかった、借金奴隷を買ってたらダンジョンの秘密が流出していた可能性があったわけか……危なかった。

「ん? じゃあイチカは何奴隷なんだ?」

「……犯罪奴隷、やね。ちょっとヘマしてなぁ」

一体何をやらかしたんだコイツ。

「前にウチは結構恨み買ってるって言ったやろ? ハメられたんよ。ウチは無実やっちゅーのになぁ」

そういえば、買った時にそんなことも言っていたような?

……ん? まてよ、そうなるとニクは何奴隷なんだろうか。借金ってわけでもなさそうだし、犯罪奴隷? 確かに山賊が連れてたけど。

「経歴考えると違法な奴隷なんやろーけどな。多分、戦争奴隷になってると思うで。いわゆる戦争で捕まえた奴隷ってヤツやな。人さらいが子供を奴隷にするときなんかは、まぁソレやから」

「あー、冒険者に重宝されるヤツですよね、戦争奴隷。僕は使ったことないですが」

冒険者に、いわゆる肉壁や肉盾として使われるのが戦争奴隷の男らしい。定期的に 起こす(・・・) 戦争でちょくちょく補充してるとかなんとか……ラヴェリオ帝国、容赦ないな。

「というかこの世界、一度奴隷落ちすると一般人に戻るハードルが高すぎると思うんですよ。契約奴隷以外まともに戻れないんじゃないですかね」

「契約奴隷、そんなのもあるのか?」

「ええ。これはあらかじめ条件を決めて奴隷になるやつですね。愛人契約とかもあったりしますよ?」

期間を設けていたり、報酬と引き換えだったり、主人が死亡したら解放するようになっていたり、と、条件次第で色々あるらしい。

うーむ、イチカはさておき、ニクはこの契約奴隷ってやつに変えるべきだろうか?

でもまぁ、今のところ不便もないし、このままでもいいかなぁ。……契約時に「ダンジョンの事を他所で話さない」とかしたら奴隷商人にバレるし。そこをぼかしたら今度は効力が不安だし。あとハクさんに頼む手もあるけど、借り作ると怖いし。

「というか、なんで奴隷を持ってるケーマさんより僕の方が詳しいんですか。イチカさんは購入されたんですよね、買うときに説明受けなかったんですか?」

「……そらあれよ。ワタルがムッツリで、夜のお勤めをしてくれる奴隷について調べたからだろ?」

「いやっ、そのっ、けっしてそういう訳じゃなくてですね、Sランク冒険者として知識は持っておいた方がいいかなって思っただけなので、そっち方面はその、えと、一般常識ですし?」

「ネルネには黙っておいてやろう」

「……なんだろう、後ろめたい事全くないのにありがとうございますと言わなければいけない気がします。ありがとうございます」

それにしても、そうか。奴隷もいろいろあったんだなぁ……

俺はちらりとニクを見る。ロクコに抱き着かれて耳と尻尾をモフモフされていた。百合百合しい。ロップとシキナはそれを微笑ましく眺めている――いや、シキナのあの顔は変な妄想してる感じか。ぐへへって感じだ。

ニクと目が合う。表情に乏しいニクだが、これはあれだ、困ったときの目だ。どうしたらいいのか分からないって感じ。

……うん、ふれあいって大事だよね。俺は健闘を祈った。

「おーい、モンスター発見、雑魚だ。どうする? 狩ってくか」

と、御者の隣で見張りをしていたゴゾーが言う。

それを聞いてワタルがひょいと一足で御者台まで移動した。

「ああ、雑魚ですね。街道の治安向上のためにも狩ってきましょう。あ、丁度いいのでトイレ休憩にしましょうか」

「わ、わたしが行ってきます」

「あら。行ってらっしゃいニク」

「私も行こうかね、トイレしたいし。ゴゾー、馬車止めちゃって!」

モンスターが出てきたのに平然とトイレ休憩の話になる。

出てきたのはゴブリンくらいの雑魚なんだろうか?

「ただのオークですよケーマさん。数は5匹。まごうことなき雑魚です」

ワタルは平然と言うが、オークって本当に雑魚なのか? 勇者からしてみれば雑魚だろうけど。

「オークとか初めて見るな。どれくらいの強さだ?」

「討伐難度でいえば、アイアンゴーレムよりちょっと下です。駆け出し冒険者のパーティーなら逃げ一択でしょうが、僕らならまぁ100匹出ても負けませんよ、なにせドラゴンに勝ってるんですから」

なるほど、それならニク1人でも行けそうだ。さすがに100匹相手だとワタルに押し付けるしかなさそうだが。

「さすがでありますなワタル先生! 師匠、自分も行くであります!」

「……座ってろシキナ」

「なぜでありますか! 自分がどれだけ強くなったか確かめるいい機会でありましょう!?」

この残念エルフ、お前は人型モンスターとの相性がひたすら悪いんだろうが。しかもオークだぞ。オークとエルフとの組み合わせはもはや鉄板だろうが。

「ケーマさん。クロちゃんたちには1匹だけ残してもらって、試してみたらどうでしょう? 危なそうなら助けに入ればいいだけですし」

んー……、まぁ訓練にはなるか。

「よし、それでいこう。ニク、いけるか?」

「はい」

「よっしゃ、今日のご飯はオークの焼き肉やな。腹が鳴るでぇ!」

え、イチカお前オーク食うの? 二足歩行してる人型(豚)だよ? ……って、そういえばこの世界じゃミノタウロスとか普通に食うんだから、オークも食えるなら食うよな。

味についてはワタル曰く豚肉みたいな味で、イチカ曰く 猪(ボア) 肉より上等だとか。俺も少し腹が減ってきたよ、さっさと狩ろうぜ。

ちなみにシキナはオークに惨敗した。もちろんワタルが助けに入って事なきを得たが、ありゃ駄目だな。

だってオークの前に立った時点で内股になってもじもじしてたもん。後ろからは見えなかったが顔も赤かったに違いない。オークフェチだよこのエルフ。

あ、そういえばウチにもゴブリンフェチがいるんだった。シキナのこと笑えないね。